17 きょういの成長
あの亜竜事件が解決してからは、平穏無事に時が流れて行った。
キーナ達は学園のカリキュラムを熟し、知識を蓄え、体力を増強し、技能を磨いていった。
その間、様々な行事を経験した。
夏の臨海学習、秋の学園祭、冬の雪山合宿、春の競技大会等々。
歳を重ねるごとに、その意味合いは移り変わり、キーナの心へ大切に刻まれていった。
◇
「あー……、やっぱり厳しいや」
キーナ達が五年生になり、夏の訪れを感じ始めたとある休日の午後。
女子部屋には、残念そうな声が響いた。
「にゃにゃ。また成長してしまったのかにゃ?」
キーナは自室のカーテンの中で、昨年の水着が着られるかどうか試していたのだが、色々と収まらなくなって居るのを確認していた。
「残念ながら、サイズが合わなくなってるみたい」
ミーシャが尋ねると、部屋着に戻ったキーナがカーテンを開けて苦笑いを浮かべた。
「贅沢な悩みなのよ」
「……うらやましいの」
「よねー?」「……なの」
メルティとロッピィは肩を触れ合って同調する。
「いろいろ大きくなってるからにゃ、はいらなくなるのはしかたないのにゃ」
ミーシャは、ジト目をその山脈に向ける。
「……もっと小さいままでも良かったのに」
キーナの身長は、すでに”小柄な大人”ある母、ベアータと遜色ない程に伸びており、女性的特徴についてもそれなりのサイズまで成長していた。
「温浴効果……恐ろしい子」
キーナはカーテンの影に隠れ、変なポーズを付けながら呟く。
この数年、女子組はキーナの<美人湯>――※<泥溜>の改変――で溜めた、ミネラル豊富な湯、通称”オンセン”に浸かっていた。
その効果なのか、食事や運動がそうさせたのか、彼女たちの成長は随分と加速されていた。
「ニャーもオンセンに入ってるのにずるいのにゃ……」
しかし、種族特性のせいなのか、ミーシャのそれは慎ましやかなままであった。
「てへっ?」
「ぐぬぬ……」
ミーシャは血の涙を流しそうな表情を浮かべた。
「はいはいー! 水着新調するなら、あたしと一緒に支給所にいこーよ!」
「あ、いいですね」
「ボクもついてくよん♪」
彼女らの様子を見ながらゴロゴロしていた、ディアドラとセレスティアが起き上がり、水着の新調に行くように誘った。
この二人も成長が著しく、新調する必要があるのだった。
「……いってらっしゃいなの」
兎人族のロッピィは三年生の頃から外見が変わっておらず、いかにも子供らしい印象のままだ。
「わたしはお昼寝してるのよ」
犬系獣人族のメルティは細マッチョな体をしていた。
紐で調整できる水着を愛用しており、新調する必要は無いのだ。
「ニャーはやけ食いしてくるにゃよ……」
ミーシャはふらふらと部屋を出て行った。
◇
本校舎の南西部、中央公園に面した建物に支給所が設けられている。
制服類のサイズ更新、学習用具の補給、その他学園に関わる物が所狭しと並べられている。
キーナ達は、季節用品のある区画へと向かうと、あれやこれやと水着を選び始めた。
学園には、いわゆる指定水着というものはなく、自由に選択出来る。
それもそのはず、様々な種族が通っており、形での統一は厳しいのだ。
「キーナっち~、コレなんかどうかね~?」
「どれどれ……?」
セレスティアが手にとって見せたのは、胸元がセクシーに大きくVの字にカットされた、ライムグリーン色のワンピースタイプの水着であった。
「……コレを着てわたしにどうしろと?」
「べっつにー? フツーににあうかなーっておもっただけデスヨー?」
「うわー、すんごい棒読み……」
ディアドラは半目だ。
「……でもまあ、ちょっと気にはなる、ってちょっと?」
「しーちゃーく! あっそーれ、しーちゃーく!」
セレスティアはキーナを試着室へと押し込んでいく。
「はいはい、わかったから押さないの!」
◇
「じゃじゃーん! 着てみたよー」
実際に着用すると、切れ込みの伸縮素材により印象も変わり、胸の露出はあまり無かった。
全体的に健康な雰囲気を与えてくるデザインとなっていたようだ。
「んー? 着てみたら、それほどでも無かったね」
「……どれほどだと思ってたのか詳しく教えてもらおうじゃないの」
試着姿を見ての第一声に呆れ返るキーナ。
「あたしは、すごくいいと思うよ♪」
「ディアドラ”は”いい子だねぇ……よしよしなでなで」
「いやあ~、それほどでもあるよ~」
「え、ボクは!?」
「……さて、演習用の水着を選ばないとっ」
「ちょっとー!? ボクはいい子じゃないとでもー!?」
セレスティアは自分を指さしてアピールするが放置の子である。
「んんっ。さてさて、ディアドラにはこんなのが似合うんじゃない?」
「あ、それフリルが可愛い!」
ディアドラはひと目で気に入った。
「着てみたら?」
「もちろん!」
ディアドラは紺色のホルターネック水着を選ぶと、試着室へと入っていった。
「ねぇねぇ! ボクにも選んで欲しいなっ」
「んー? ……それじゃあ、これでいいんじゃないかな?」
「どれどれ……。ビキニかー、でもちょっと派手すぎじゃない?」
「そうかなー。色的にはあってると思うけど?」
「うーん、なんか違う感じ」
セレスティアは難色を示す。
「……あ、うん。面倒だし、コレにしとこう」
「なになに……ってほとんど隠れないよねコレ! というか動いたら危ないよね!? なんでこんなの置いてあるの!?」
「……さすがにスリングショットはダメだと思うよ?」
試着を終えたディアドラは冷静につっこみを入れるのだった。
「あ、可愛い♪」
「えへへ、ありがと」
ディアドラは満足気だ。
「あれー!?」
トリオ漫才は暫く続いた。
因みに支給所の水着は、業者から届くままに収められているので、誰かの趣味ということでは決して無い、無いったら無いのだ。
なんやかんやと一通り騒ぎ、水着を選び終え支給所を出ると、夕方一回目の音が鳴り響いたのだった。
なお、セレスティアはオレンジベースなモノキニの水着を選択した。




