16 解決
シルバは匂いを頼りに追いかけて行く。
「どっち行ったかわかる?」
「バウッ!」
「よし、お願い!」
自身漲る声に安心し、自らも前方を探す。
やがて本校舎前に差し掛かると、西側の中央公園へと向かった。
◇
「はぁ……はぁ……」
小柄な男は公園内の水飲み小屋で喉を潤していた。
「兄貴はまだかなぁ」
あの状態からなら確実に逃げられたであろう。
そう安堵し、”ブツ”入りマントを大事に抱え煉瓦の敷かれた床へ腰を下ろす。
それから、来た道を監視しはじめた。
◇
シルバが中央公園に差し掛かったところで停止し、降りるよう促す。
「この先にいるの?」
「ワフ」
キーナの問いに小さく答える。
今度こそはさっきみたいにならないぞと、慎重な対応のシルバであった。
シルバの誘導で右から回りこむように移動する。
「……いた」
休憩小屋の隙間から、小柄な男の姿を確認することが出来た。
「……さっきみたいにやるからお願いね?」
「……ワフ」
(うーんと、こんどはマントにかからないようにしないと……よし、床から背中だにまっすぐ当たるようにしよう)
キーナは、小屋の奥にある噴水をヒントにイメージする。
シルバが慎重に、飛び掛かれる位置まで移動したのを確認した直後――
(いけっ!)
《――ポーン。属性魔法の発現を確認しました。<噴水>が開放されました》
《<噴水>が『湯神の加護』により<間欠泉>に改変されました》
――小柄な男の背中を滑るように、床から熱湯が吹き上がり。 男だけを濡らしていった。
「ぶへっ!? あづっあづっ! 水っ! 水!」
小柄な男は抱えていたマントを手放すと、噴水の溜まり場に飛び込んでいった。
「シルバ! 噴水の方へ!」
「バウッ!」
シルバは小柄な男の腕に噛み付くと、噴水の溜まり場から引きずり出して押さえつけた。
「くっそ! 放せよコノヤロウ!」
「Grrrrr……」
「ヒイッ!」
シルバはお怒りである。
「とりさんは!?」
キーナはマントに駆けつけると、中の子飛竜を拾い上げる。
――KYUO
その鳴き声は弱々しかった。
「がんばったねー。 今ないないしてあげるからね。<癒しの湯>」
――KYUOOOOOO KYUOOOOOO
魔法の行使が終わると、子飛竜は元気を取り戻した。
「よかった~! あとは返してあげないとだね!」
キーナは子飛竜を優しく抱きかかえると、シルバのもとに向かう。
「あ、でもこのおじちゃんどうにかしないと…………んう?」
その時、脳内に”サイレンを鳴らす”イメージが浮かんでいた。
「うん。シルバ、さっきの警備隊の人に聞こえるように、ながーく吠えてくれる?」
「ワフ」
もちろん、と返事をしたシルバは大きく息を吸い――
「ワォーーーーーーーーーーーーーーーーーン!」
――と遠吠えをした。
◇
――ワォーーーーーーーーーーーーーーーーーン!
「うお!? 何だ何だ!?」
「これはアレだ、遠吠えだな」
「いやそれは解ってますけれども」
「さっきの飛竜に続き、遠吠えですか、何なんでしょうねぇ?」
「さぁなぁ。つか飛竜はまだ滞空したままなんだな……」
”味市場”学園寮側詰所の隊員たちは何やら言いつつ外に出て、何事かと音の聞こえた方向を見る。
「これだけの遠吠え。こりゃあ……あの嬢ちゃんの従魔じゃ無いだろうか?」
「あー、背中に乗ってた娘か。確かに、あえて言いませんでしたがあれ、山岳狼ですよねぇ」
「しかも変異種って話だな」
注意を促した本人がなるほど、と頷く。
「あのおとなしい従魔がこれだけ吠えてるとなると……」
「うむ、何かあったのかも知れん。そこの二人、確認に向かうぞ」
「了解!」「了解っす!」
隊長と隊員二人は、<走力強化>を使い、現場方面へと急行した。
◇
「隊長! あっちです!」
「あ! 警備隊の人だ! こっちー! こっちきてー!」
「バウッ! バウッ!」
二分と経たたず、警備隊員が到着した。
「ふう……。やっぱり嬢ちゃんか。んで、何があったんだい?」
「えっとね――――」
隊長の問いに対し、一連の出来事を報告していく。
但し、魔法の一部はごまかしたが。
「――――ってことなの!」
「なるほど解った。そこの男はこちらで預かろう。 おい、連れて行け!」
「はっ!」
「それから、この事を南門へ伝達せよ!」
「了解!」
隊員の一人が捕縛の魔道具で身柄を拘束すると、警備隊本部へと連行していった。
「ではもう一人の男の所へ案内してくれるかな?」
「はーい! シルバおねがい!」
「ワフ!」
キーナは飛竜を抱えたままシルバに跨がり、来た道を戻り始めた。
隊長と隊員はそれを追いかける。
◇
「みえた! あそこに居るのがそうだよ!」
「確認した!」
隊長は、顔の見えない男の上に子供が二人乗っかっている様子を確認した。
「じゃあ、わらちはこの子を返してくるね! シルバ行こう!」
「バウッ!」
「なっ!?」
キーナが合図を出した途端、シルバはぐんぐんと加速しはじめた。
「これほどとは……」
「というか、乗りこなす嬢ちゃんも凄いっすね」
「……ともかく捕縛作業だな」
「了解!」
大柄な男はまもなく拘束され、隊員が本部へと連行していった。
「もう大丈夫だ、頑張ったな」
「もう疲れた……」
「やっと帰れるのよ……」
「よし、送って行こう。場所は――」
隊長が二人を軽く抱きしめて励ますと、エミリオとメルティを寮へと送り届けた。
◇
「とりさーーーーーーーーーーーーーーーーん!」
「えっ?」
「なんだ?」
南門詰所に猛スピードで接近する影があった。
「うおっ!? 魔獣だ!」
「まあ落ち着け、先ほど伝達があった。あれは無害だ」
「そうなんですか?」
「ああ、というかお土産付きだそうだ」
「どういうことです?」
「やっこさんへの土産だそうだ」
「えっ?」
熟年隊員は苦笑いを浮かべ、親指を立てて腕を上げ、背後の飛竜に向けて指し示した。
その直後、シルバは熟年隊員の所に到着していた。
「とりさんのこども! とりかえしてきたよ!」
「ワフッ!」
――KYUOOOO
――KYUOOOOOO! KYUOOOOOO!
キーナが、滞空している親に、子を掲げて見せると再会を喜ぶような鳴き声が響き渡った。
「おう、話は聞いてるぞ。届けてやんな」
「はーい!」
キーナはシルバから降り、ゆっくりと門の外へ歩いて行き――
「はい、取り返してきたよ!」
――子をそっと差し出した。
滞空を止め、草地へ降りてきた飛竜はキーナとシルバを見つめる。
「ワフッ!」
シルバの声を聞くと、飛竜は子をそっと咥えて飛び立っていった。
――KYUOO
飛び去る寸前の子の声は、ありがとう、と言っているようであった。
「ふぅ……、報告書になんて書けばいいのやら」
熟年隊員が頬をポリポリと頬を掻いたその時、
―――♪ポーンポンポンポンポンパンポン
飾り時計から夕方三回めの音が鳴り響いた。
「お嬢ちゃん達、今日はもう帰りなさい」
「もうこんな時間だ!」
「ワフン」
「よし、帰ろ!」
「ワフ!」
再びシルバに乗り、全速力で寮に向かっていった。
◇
「ただいまー!」
「ワフッ!」
「キーナちゃんたち帰ってきたー!」
「あ、ミルドラおねえちゃん。あのね――」
そして寮に帰り、夕食の時間となった。
キーナ達三人が一連の出来事を話し出すと驚かれ、
「何にしたって、あなた達が無事でよかったわ……」
一同は頷き、安堵の感情を露わにした。
やがて食事が終わると、疲れきった三人は電池が切れたかのように眠ってしまった。
「あらあら。シーゲルはエミリオを運んでちょうだい。キーナとメルティはわたし達で部屋まで運んでおくわ」
「了解~」
こうして、一連の飛竜事件は解決したのである。
◇
翌日の放課後、三人はデビアスに呼ばれ。警備隊員達を交えた報告会が行われた。
隊長と隊員二人、熟年隊員の四人だ。
警備隊の報告とそのすり合わせ、本人達からの事情聴取と行われ、解散となった。
面談を終えた学園長は怪しい笑みを浮かべ、
「やはり面白いわ、……っふふ」
と呟き、面談メモに一筆書き加えると、学園長室を後にした。
メモの余白には――
”(要注意) (代表候補)”
――と、赤色で書かれていた。
次回は閑話を挟みます。




