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  14  遭遇

♪ポンポロポンポンポンポロポン――――


 大通りを中程まで進んできたところで、本校舎の飾り時計が軽やかな音楽を奏でた。

 生徒達の行動を見守るために設置された時計の魔道具である。

 流れるのは朝に三回、昼に三回、夕方に三回。

 先程のは夕方に三回流れる中の、二回目の音楽だ。

 タイミングで言えば、”味市場(フードコート)”の喫茶店が閉店作業を開始し、居酒屋が看板を出し始める頃である。尚、酒を出す店は職員寮区側にのみ存在している。

 お酒は大人になってから、なのだ。




「あっ、帰ろうの音だよ」


 帰ろうの音とは、本校舎から帰らされる時刻に鳴る事からそう呼ばれている。

 もちろん職員もこの音で帰る。教職員は数多く居り、個人の負担は少ないのだ。

 実にホワイトな職場である。



「むぅ、そろそろ帰らなきゃのよ」

「そうだね、そうしよー」

「ワフ」


 キーナ達は来た道を引き返し、足早に寮へと歩き出した。



「メルティちゃんだいじょぉぶ?」

「けふ。……甘煮豆のパンがおいしいのがいけないのよ」

「……ははは」



 甘煮豆のパンとは、あんぱんに似た物であった。

 しっとりとした大きめの丸パンに甘煮豆のペーストが詰めてあり、天辺には塩漬した柑橘系の果肉が飾るように埋め込まれている。

 程よい塩気が良いアクセントとなり、メルティでもペロッと食べてしまえたのだった。


 ちなみに今日三人と一匹が食べたのは、巻きガレット、串焼き三本、甘煮豆のパンを二個、そしてミックスジュースである。まぁ、大半はシルバの腹の中であるが。


「ワフ?」

「あとは晩御飯でねー」

「ワフン」


 シルバの胃袋は深そうだ。



 



 やがて学園寮区側の入り口に差し掛かる。


「おや、もう帰るのかい?」

「ばんごはんが待ってるからー!」

「はっは、そうかい。気をつけてかえるんだぞ」

「はーい!」


 ザルザに見送られ、警備隊員の詰所を通過したところで、


「クゥン?」


 シルバが、のっていく? という眼で見つつ立ち止まる。


「んや、おなかすかせるように走ってくよ」

「ワフッ」

「ん、さんせいなのよ」

「だいじょうぶかなぁ……」


 お腹が痛くならないか心配なエミリオであった。


「よーし! よーいどん!」

「まけないのよー!」

「ワフワフ!」

「あーもー! まっててばー!」


 なんだかんだで元気に走りだすのであった。







 学園寮区に入り、走るペースが落ちてきた頃、


――KYUOOOOOO! KYUOOOOOO!

――ドォォォォン!


 という何者かの鳴き声と、凄まじい音が聞こえてきた。



「わっ!?」

「うー、びっくりしたのよ」



――ドォォォォン!

――KYUOOOOOO! KYUOOOOOO!




「あっ、あっちだよ!」

「Grrrr……」


 エミリオは南門の上空を指差し、シルバは低い唸り声で警戒を促した。

 そこには、警備隊の威嚇攻撃を受けている飛竜(ワイバーン)の姿があった。


――KYUOOOOOO! KYUOOOOOO!

――ドォォォォン!


 威嚇攻撃を受けても退散せず、飛竜(ワイバーン)は都市内に向かって鳴き続けていた。


 尚、学園都市の周囲には魔法障壁の魔道具が設置してあり、上空から侵入されることは無い。

 監視員が飛行物の接近を確認次第、警備隊の手によって障壁が貼られるようになっているのだ。





――KYUOOOOOO! KYUOOOOOO!

――ドォォォォン!


 南門付近では数名の警備隊員が並び、非殺傷系の属性魔法で威嚇攻撃を行っていた。

 威嚇攻撃なのは、飛竜(ワイバーン)は友好的な魔獣であるためだ。

 王国でも飛竜(ワイバーン)騎兵なんていうのも居て、そういった魔獣に対しては無益な殺生をしない、というのが常識であった。


「いったいどうなってんだ?」

「はぐれ飛竜(ワイバーン)はいつもなら威嚇攻撃で去って行くんだがなぁ……」


――ドォォォォン!

――KYUOOOOOO! KYUOOOOOO!


「こりゃあ駄目だな」


 暫く様子を伺っていた隊長が手を挙げて「威嚇止め!」と指示を出す。


「威嚇止めー!」「威嚇止めー」「――止めー」「――めー」


 隊長の指令が伝達され威嚇攻撃が止むと、飛竜(ワイバーン)もやがて鳴くのを止めた。

 それから、その場に滞空したままの飛竜(ワイバーン)は、学園都市内をじっと見つめ続けた。


「何だというのだ……」


 警備隊長は不可解に思いつつ、飛竜(ワイバーン)とその視線の先を交互に見続けるのであった。







「……静かになったのよ」

「なんだったんだろうね?」

「さあ? ともかくみんなの所に帰るのよ」

「そうだね、行こう」


 子供たちが寮へと走りだそうとするが、シルバがキーナの服を噛んで止めた。


「……ガウッ!」

「シルバどうしたの?」

「ワッフ!」


 シルバは鼻と耳を動かしたあと南門側へ数歩進み、こっちだよついてきて、と合図した。


「あっちに何かあるの?」

「ワフッ!」

「いってみよう?」

「いったいなんなのよ?」


 一行は首を傾げながらも、南門側へと走っていった。







――KYUUU


「くそっ! 親飛竜(ワイバーン)が追いかけてくるなんて!」

「だから俺は嫌だって言っただろうが! 何が美味しい仕事だよ!」


 軽鎧にマント姿の冒険者二人組が、学園寮区の細い路地を逃走していた。


飛竜(ワイバーン)の幼体の生け捕り依頼なんて、美味しい仕事滅多に無いんすよ!」

「その結果、親が来ちまっていろいろマズイじゃねえか! どうすんだよ!」


――KYUUU


 大柄な男の背には縄で縛られた木箱が背負われている。

 木箱のなかからは弱々しい鳴き声が漏れていた。


「……奴が諦めるまで潜伏するしかないっすね」

「どこにだ、んで、いつまでだ?」


 小柄な男は不安気に辺りを見回している。


「適当な宿にでも入ればいいんじゃないっすかねぇ」

「……宿の気配がこれっぽちもねぇし、こいつが居るのがバレたらコトだぞ?」


 まるっきり住宅地の景色であるし、そもそも裏の依頼中であるのだ。


――KYUUU


「ちっ、静かにしてろよゲテモノ」

「……魔獣に話しかけてもしかたないっすよ」

「わーってるわ! んなこたぁ!」


 大柄の男のイライラが爆発した。


「とにかく先を急ぎやしょう」

「……ちっ」


 冒険者たちは更に奥へと走って行く。


「……ん? 何だありゃ? こっちに向かってくるぞ? んん……なんだぁ? ガキ供も居るな」

「え、ちょっ! 何でこんな所に魔獣がいるんすか!? しかも……垂れ耳の狼ってことは山岳狼(マウンテンウルフ)なんじゃないっすか!?」

「んなこと知るかよ! だったとしても! 信じられないが誰かの従魔なんだろうよ」

「そんなバカな……山岳狼(マウンテンウルフ)の従魔なんて聞いたことあるっすか?」

「……あるわけねーだろがバカタレ」

「そ、そっすよねぇ」


 常識では居るはずのないその姿を見た冒険者の二人は、思わず立ち止まり互いの顔を見合わせるのだった。


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