11 学園長面談
三日目の午後。
測定結果も纏め終わり、朝からステータスを含めての個人面談が行われている。
結果を纏めるのに一日掛かり、今日の面談と相成った。
では二日目は何をしていたのかといえば、レクリエーションとして学園都市の主要施設を見学しに行っていた。違う街の子供たちと慣れるためである。
「面談おわったんだな」
「どうだったのにゃ?」
「とくにはなかったんだな、ふつうなんだな」
「ぼくと同じかー」
イオラが顔を上げそう反応すると、再び銀毛を机に伏せた。
真っ先に面談を終え退屈しているのである。
その横を、ガルザと入れ替わりで女子が面談に向かう
「キーナちゃん、面談おわったよー」
「あ、つぎはわらちの番だね! いってきまーす!」
やがてその女子が帰ってくると、キーナの番となった。
◇
面談室へ入ろうとしたキーナであったが、担当職員に呼び止められた。
「お待ちください。キーナさんは別室で面談を行いますのでこちらへ」
「んう? はーい!」
どうして、と思いつつ職員の後をついていく、そこは立派な装飾の扉があった。
「では中へどうぞ」
職員はここで待つようだ。
「……しつれいしまーす。あ、学園長せんせーこんにちはー!」
そこは学園長室であった。
面談の相手がデビアスであることに気が付くと、元気よく挨拶する。
「ふふ、元気があって良いわね。さ、そこに掛けてちょうだい」
「はーい!」
キーナはデビアスの正面、机を挟んで反対側の椅子に座る。
机の上には面談用の資料と、玉の魔道具が置かれていた。
デビアスは徐ろに立ち上がると扉の鍵を掛けに向かう。
「……誰も近づけないように」
「……はっ」
小声で職員に告げると、再び席につき深呼吸した。
「……では面談を始めます」
「おねがいします」
デビアスは書類の束から取り分けてあった、キーナの測定結果を見ながら語り始めた。
「まず体力についてですね。これはほぼ人族の平均点に沿っています。普通ぐらいということですね」
「わかったー……です」
「よろしい」
いつもの調子で言いかけたが、デビアスに眼で注意されて”です”で誤魔化した。
「次、学力については問題ないどころかほぼ満点です。頭の回転は良いようですね。よく勉強しましたね」
「あたま良い?」
「今のところは、ね。これからも確り学ぶように」
「はーい!」
褒められてニコニコ顔である。
「それで、魔力についてですが。自分の眼で確認したいので、ここでも魔力を見させてもらうわよ?」
「はーい!」
キーナは立ち上がり、検定の時と同じように、玉に手を載せ魔力を通す。
紫色の光が煙のように湧き出し、玉の中をゆっくりと回転し始めた。
「暫くそうしていているように」
「わかったです」
デビアスは真剣な面持ちで玉の光を観察し始める。その瞳はうっすらとした光で覆われていた。
「これは……なるほど、青と……赤、それから黒の魔力がとても均一に混ざっている。これが湯属性の色なのかしらね?」
調べ始めて二分程で、デビアスは観察を止め姿勢を戻した。
「はい、ありがとう。もう手を離しても大丈夫よ」
「はーい」
キーナは手を離し、深く座り直す。
「さて、ここからが本題」
そう言うと、デビアスはキーナが書いた”ステータスの写し”を提示した。
現在のステータスは以下の通りだ。
――――――――――――――――
名 前 キーナ
誕生年 E334/2/6
種 族 人間 ♀
登 録 グラストル(エテラスル王国)
所 属 エテラスル王立総合学園
クラス なし
賞 罰 なし
状 態 好調
スキル
・【ステータス簡易閲覧】
・【初級魔力操作】
・【初級身体操作】
・【初級計算能力】
・【初級騎乗】
・【湯属性魔法】
<癒しの湯>
称 号
・【湯神の加護】
・【魔獣の友】
――――――――――――――――
「この写しにある湯属性魔法の癒しの湯っていうのはどのような魔法なのか、と言う事なのだけれど」
と、問いかけた。
「うーんと……シルバを”ないない”した時にやっただけだからよくわからないです」
どのような? 等と問われたところで本人すら詳しいことは判っていないのだ。
「……うーん、その時はどんな感じだったのかしら?」
「あのね、怪我をしてたシルバに手を当てて”回復してー”って思いながらいやしのゆって言ったら、光るお湯がでてきて、シルバが綺麗になって元気になったの」
「ということは治癒魔法の一種な訳ね。それ、今見せてもらえることは出来そう?」
「んう? うーんと……<癒しの湯>」
キーナは自分の左腕に魔法を使ってみるが反応がなかった。
「えっと、ないない……かいふくする相手がいないと駄目な気がする」
「なるほど……ではこうすれば――――<切断>」
「わっ!?」
デビアスは席を立ちキーナに近づくと、自ら左手の甲を魔法で浅く傷つけた。
血がじんわりと滲みだす。
「大丈夫よ、軽く血が出る程度に切っただけだから。さ、試してみて?」
「あ、はい。……えーっと、ないないしてね。<癒しの湯>っ」
手の甲にかざした手から淡い光を放つ湯が放たれ、傷の周囲に集まり塞いでいく。
「へぇ……」
傷が完全に塞がると、流れていた血とともに床へと流れ落ち跡形もなく消えていった。
なお、キーナは初めての時とは違い魔力枯渇で倒れるようなことは無かった。
「これは凄いわ……それに他の治癒魔法よりも心地良いのね」
「そーなの……です?」
「ええ、どうしてなのかはわからないけれど、ね」
「ふむー」
「きみはこの技能を極めればそれだけで暮らしていけそうね」
「おー?」
「まぁ、たくさん勉強しないと無理だろうけどね?」
「はぁーい」
キーナはそのやりとりに”そっかー”と心の中で呟いた。
「では最後になるのだけれど、この湯神……様とはどういった存在なのかしらね?」
「うーんと、おかーちゃがいうには”シルバを助けた時に回復の仕方を教えてくれた声のお姉さん”だろうねって」
「お姉さん、ですか」
「うん。そのときに”天使様”の声が聞こえたんだけど、それとは違う優しい声だったの。それからもたまに聞こえるの」
「加護による声、ね。今は聞こえたりするのかしら?」
「うーんと……」
(おねぇさんいるー?)
「………………今は居ないみたいです」
「そうですか、残念」
デビアスは、資料に何事かを記入すると席を立ち、扉に向かい鍵を解除した。
「以上で面談を終わります。魔法についてはお友達には話さないでおいたほうがいいわ」
「わかったです」
キーナは学園長室を出ると職員に誘導され、教室へと帰っていった。
◇
「じいや」
「これに」
「喉が渇いたわ」
「はっ、直ちに」
デビアスは老執事を呼び、淹れたての紅茶で喉を潤す。
「あの娘、十数年ぶりの逸材だわ」
デビアスはカップを置くと、キーナにはあえて伝えなかった魔力測定の詳細を指先でなぞった。
「それ程で御座いますか」
「ええ。成長するのが怖いくらいには、ね」
治癒された手の甲を撫でつつ、複雑な表情を浮かべるのであった。




