9 親離れ、子離れ
やがて全員が揃い、ミルドラの進行で人員の紹介が始まった。
「改めまして寮長のミルドラと申します、五年生です――」
六年生は何かと忙しくなるため、伝統的に五年生が寮の管理を任されているとの事。
「それから、そちらの彼が副寮長のシーゲルです」
「副寮長のシーゲルです、同じく五年生です」
灰毛の虎人族はクールな笑顔で自己紹介した。
「困ったことがあったらまず私達のどちらかに連絡して下さい」
新入生が「はーい」と返す。
「では自己紹介と生きたいところですが……人数が多いので、各学年から一人ずつで行きたいと思います。まず六年生の方から――」
そこからは学年ごとに立ち上がり、代表の一人が名前を言うという手順が繰り返された。
なにせ五十人近くいるのだ、とても覚え切れるものではない。
しかし、新入生だけは一人一人自己紹介した。
「――以上十一名が今年の新入居者です。仲良くやりましょうね」
ミルドラがそう締めると、よろしくお願いします、と新入生たちが言い。
なにか困ったら私達に頼りなさい、と先輩たちが答えた。
◇
顔合わせが終わると、親達を交えての懇親会が始まった。
上級生たちの手料理や各種出前料理が並べられており、セルフサービスのレストラン状態であった。
生徒たちは「久しぶりだなー、元気にしてたか?」「にいちゃんすっげーかっこ良くなってる!」などなど再会を祝っていた。
「シルバー、たんとおあがりー」
「ワフ!」
キーナは大き目の皿に料理を盛り付けるとシルバの前に置く。
シルバは”いただきます”とそんな感じの間をとってから、美味しそうに食べ始めた。
「おいしーねー」
肉の塊を頬張り、満面の笑顔のキーネであった。
「まぐまぐ……うまうま……」
「ガルザくん、あわてなくても大丈夫にゃよ?」
やはり、学園都市の料理は格別なようであった。
◇
料理も粗方無くなり、新入生たちが親とのしばしの別れを惜しむ、そんな時間となっていた。
親達は都市内の宿泊所で一泊し、入学式に参列する。
その後は子供たちに合うこと無く自宅へと帰っていくのだ。
「キーナ、これから偶にしか会えなくなるけど頑張るのよ?」
「はーいがんばる!」
ベアータは優しく抱きしめる。
「みんなと一緒にいっぱいお勉強するんだぞ?」
「わかったー!」
アレッシオは髪を優しく撫でた。
居間のそこかしこでも同じような会話が交わされている。
中には泣き崩れる子、逆に親が離れたがらないなんて場面もあった。
そして、別れの時。
「では明日、見守っているからしっかりな」
「はーい」
そう言うと親達は寮を去っていった
◇
入学式当日の朝。
式典会場である大ホール。
外観は石柱で装飾されており、荘厳な印象を醸し出している。
内部は一階にフロアと舞台、二階に一般客席、三階に貴賓席があり、様々な用途に用いられる。
それら客席は、大勢の保護者達で埋め尽くされていた。
各地域から、様々な種族の枠を超えて集まっているのだ。
「……なんだか緊張しますね」
「はは、本人より緊張してどうする」
アレッシオはベアータの手をそっと握ると優しく微笑んだ。
「私が入学した時を思い出しまして、ね」
「そうか」
ベアータが入学したのは十九年前。
引っ込み思案だった当時は色々大変だったと語る。
「俺は帝国の寒村で育った、無学な冒険者上がりだ」
握る手に少し力が入る。
「だからかな? こんな立派な学校でキーナを育ててくれるってのが嬉しくてな」
手を解き、肩を抱き寄せる。
「そうね。キーナは明るい子だしきっと大丈夫よね」
その体温に、ベアータの緊張は解けていった。
「キーナちゃんのとこは仲がよろしいなあ」
「うちもまけてへんでー?」
そんな声もちらほら漏れ始めたり。
◇
――リンゴーン、リンゴーン
頭上から、荘厳な鐘の音が鳴り響く。
入学式典開始の合図だ。
『ご来場の皆様、これより新入生が入場いたします。拍手でお迎え下さい』
進行役の声が拡声の魔道具越しに響き渡ると、楽団の指揮者が軽やかに棒を振り、軽快な行進曲が鳴り響いた。
そのリズムと拍手に乗り、新入生たちが場内へと行進を開始した。
客席からは「あそこに居るわ」「えーっと何処だ?」という声が交わされ始めた。
「おっ、キーナが入ってきたぞ! 中央寄りの――」
「どれどれ……あっ見えました。うん、平気そうね」
客席からではよく見えないが、隣り合わせたミーシャを見てニコニコしている雰囲気が伝わったのだ。
◇
数分後、全ての新入生が整列を終えると、行進曲の演奏が終わり会場は静寂に包まれた。
『国王陛下より開式の御言葉を賜ります』
直後、一同が席を立ち、”気をつけ”の姿勢を取る。
舞台右上部にある王族専用席から豪猪な衣装の偉丈夫が姿を表し、ファンファーレが演奏され、一同は礼をする。
エテラスル王国の国王、ブラストヘイム八世は会場を見回し、うむ、と頷き最前部に立った。
『これより、第二百期王立学園入学式を執り行う!』
再びファンファーレが鳴り、一同が礼をし、国王は自らの席へと戻った。
『一同はご着席下さい』
国王の覇気から開放され、会場の空気が和らいだ。
その後、学園長が壇上へと歩を進め――
「ただ今ご紹介にあずかりました、学園長のデビアスと申します。本日は学園誕生二百年の節目に当たり――」から始まる長い挨拶が始まった。
デビアスは国王の姪に当たり、現在はメリルラノン伯爵夫人である。
人員把握に長け、国王からの信頼も厚い人物だ。
学園長の挨拶に続いて、新入生代表の宣誓が行われた。
代表は貴族の子だけのことは有り、堂々としたものであった。
だがしかし、この学園内では貴族など関係なく皆同等に扱われる。
彼の物語もまた今日から始まるのである。
最後に国歌が演奏、合唱され、
『よく学び、よく食べ、よく遊べ! 励めよ諸君! これにて閉式とする!』
という国王の言葉で閉式となった。
やがて生徒たちが退場し、入学式が無事終了した。
しばらく誰もいなくなったホールを眺めた後、保護者達は自らの住む家へと帰って行った。




