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曙光を見出す  作者: 椿榎楸柊
三章 大きなのっぽの錬成工房

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16. 配置変え

「皓理さん、本当にごめんね…………」


 目の前で、一般部門の部門長である道竹が項垂れている。


 驚いたことに、私の所属は来週から覚醒式部門に変更になるらしい。


 なんで急にそんな事になっているのかというと、経緯はこうだ。

 まず、覚醒部門の部門長が、道竹の度重なる報告を聞いて、教育を嫌がって押し付けたはずの新人の見習いが、新しい術式を知っていたり、既にある程度錬成が出来たりと、意外と使える人材だと気が付いた。

 教育は面倒だが、即戦力ならば話は別だと、私の配属変更を所長に訴えたらしい。当初はどちらに所属してもいいという話だったのだから、別にいいだろう、と。所長もそこまで興味があるわけでもないから、通常通りに本人と両部門長の承認があるなら構わないと答えたそうだ。

 そこで、彼女は昨日、配属変更の書類に記入しろと道竹に要求した。しかし、当然ながら本人も不在なのにそんなことは出来ないと道竹は拒絶。しばらく食い下がっていたものの、道竹が折れないので、一旦引き下がった……はずだった。


「まさか、勝手に一般部門長の印章を使うなんて……」


 なんと彼女は、昨日の夕方、従業員が減った隙を付いて、道竹が文机に置いていた印章を勝手に使って書類を作成、所長に提出したらしい。昼の騒動を知らなかった所長は疑問もなく書類を受け取って、承認してしまったそうだ。

 しかも、所長は今日から一月近く、近隣の町に出向くため不在だ。留守を預かる副所長の権限では、所長が承認した書類の取り消しをするには問題がある。


「本当にごめん……僕が机の上に印章を置きっぱなしにしてたから……」

「いえ。これは相手が悪いでしょう」


 確かに置きっぱなしは多少不用心ではあるが、印章の無断使用は一歩間違えば犯罪だ。普通は同じ工房所属の身内に、そこまで警戒したりしないだろう。


「ここまでのことをする人なら、遅かれ早かれ似たような事態になってますよ。今回は、所長の不在を狙ってここまで強引な手段を使ったのでしょうし」


 一度所属を変更されてしまえば、再度の配属変更には彼女の承諾がいる。私の使い勝手が良ければ確保して、気に入らなければ戻せばいい、とか考えていそうだ。


「まあ、馘首(クビ)になるわけでもありませんし、大丈夫ですよ」


 上司の人間性に問題はありそうだが、呪詛師や頭領ほどではなさそうだし、覚醒式の時に見た錬成具の錬成方法を知ることが出来ることを考えれば、悪いことばかりではない。


「うん……所長が戻ったら、絶対抗議入れるから……」

「はい。でも、無理はしないでくださいね」


 仮にも所長本人が承認した書類に物申すとなると、道竹の心象が悪くなる心配がある。


「うう、ありがとう……でも、せっかく馴染んでくれたのに…………僕とか草二くんとか、会話に難のある人にも普通に接してくれるいい子なのに…………何より優秀な人材を無理矢理引き抜くとか、あの女、何様のつもりなんだ……ああもう、今月の予定配分全部やり直しだし……だいたい決められた錬成をただこなすだけの部門に追加の人員とか必要無いだろ……」


 途中から、ただの怨嗟になりつつある道竹の言葉を聞き流しつつ、一月少々で随分と関係性が良好になったものだと感慨深くなる。


(初出勤の日なんて、あんなに警戒されてたのになぁ)


 願わくば、新しく配属になる覚醒式部門でも、良好な関係が築けるといいのだが。


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