5. 新薬調合
朝食を終えると早速私は工房にこもった。
今日の予定は昨日採取した新素材、翠参の性質分析及び最適な抽出方法の選定、安全性や他の霊薬との反応の確認などになる。
どんな性質を持っているのか、とても楽しみだ。
「と、その前に……」
今回、蒸留酒をそれなりに使う予定なので、在庫が不足しないように並行して酒の蒸留もしておかなくてならない。
酒を蒸留するのは、酒精の濃度を高めるためで、水には溶けにくい薬効成分を抽出するのに使う。
とはいえ、蒸留器と≪加熱≫の錬成具があるので、この作業はほとんど機材任せで構わない。起動時の霊力量を調整しておけば、加熱しすぎることも無いだろう。
蒸留器を稼働かせ、改めて作業台に向き直る。
可能な限り細かく刻んだ翠参を、水・薬草水・三種の油・四種の蒸留酒に入れ、それぞれの成分抽出量とその変化を<解析術>で確認していく。
加熱・冷却などの温度変化や、圧力を加える事による違い、酢や灰を入れた時の反応なども細かく調べなければならない。
「もう少し実験用の容器の数があれば、効率が上がるのだけど……」
愚痴を言っても仕方がないのだけど、敢えて声に出す。
正直、こういう研究は久しぶりだ。些細な不満でも口にしなければ、夢中になり過ぎて暴走しかねない。
意識的に気持ちを切り替え、次の作業に取り掛かる。
抽出量の確認が終われば、次は溶媒を蒸留して成分の濃縮や結晶化の有無を調べる。その次には、未加工の素材、抽出液、成分が結晶化した物、それぞれに錬成陣を展開し、組成式の変化や術式の描き込みへの適性を比較する。
「鎮痛、消炎、強壮、造血、血流の正常化、発汗による排毒、内臓機能の活性化、創傷の治癒力増進、抗老化作用……」
翠参は、事前情報通り、霊力の含有量が極めて高い緑属性の霊草だった。
緑属性が主に司るのは、植物・肉体・回復・維持といった効果で、緑属性の霊力含有量が多いということは、即ち治癒効果が高いという事に他ならない。
実際、翠参の持つ治癒系統の性質は、実に多岐にわたっていた。
多岐にわたっている、のだが……
「今までに無い性質は、この『抗老化作用』くらい、ね……」
それ以外の性質は、残念ながら今まで使っていた霊草にも備わっていたものだ。
もちろん、たった一つの霊草にこれほど多くの性質がある事は素晴らしいし、薬効の強さも段違いだと推定出来る。
しかし、既知の効果がどれほど強くとも、若菜の状態改善に効果が無いだろうことは予想が付く。
つまり、この抗老化作用という性質が何処に如何作用するかが、今解明すべき最重要事項だ。
試薬の中から、成分抽出量が最も多くかつ組成式の組み替えがしやすかった、月雫榴の蒸留酒で抽出したものを選び出して、再度錬成陣を展開する。
「抗老化……維持の特性が強い……うん? それでいて回復効果もある……若返りって訳ではなくて、回復しても老化、劣化しない? まって、じゃあ最善の状態への回復と維持って定義だと……無理か。それなら……」
錬成陣を描き変え、解析し、再度展開させて描き変え、それをまた解析し……
望む効果を生み出す為に、ひたすら試行を繰り返す。
試行が百を超え、抗老化という性質の概要を把握できた、と思った瞬間、不意に視界が歪んだ。
「う、くっ……」
咄嗟に作業台に手を付いて目眩をやり過ごす。
異常に身体が重くて力が入らない、この状態には、覚えがある。
霊力切れ。
集中していたせいで時間の感覚が無くなっていたが、錬成陣を長時間展開させ続けたせいで霊力を消耗しすぎたのだろう。即座に錬成陣を消し、その場に屈んで作業台にもたれかかる。
(やらかした……まさか没頭し過ぎて霊力切れを起こすなんて……)
霊力切れ、とはいえ霊力が完全に枯渇している訳ではなく、身体の維持に必要な量を割り込んだ状態、という意味だ。
ここから更に霊力を消費して完全に枯渇させれば死んでしまうが、普通はその前に気絶する。
そして、霊力を回復させる霊薬、というのは存在しない。
より正確に言うならば、霊力、ひいては魂に直接干渉出来る素材や霊薬、錬成具というものを、私は知らない。
……だからこそ、翠参にそういう効果があるんじゃないかと期待してたのだけれど。
若菜の症状の根源的な原因は、身体的なものでは無く、魂にできた傷のせいだと思われる。魂の傷が精神と身体に不具合をもたらしている形だ。
だから、どうにかして魂を癒す効果のある霊薬が出来れば、と考えてきた。
今回調べた、翠参の『抗老化』という性質は、身体の治癒に関してはかなり広範囲の作用を発揮できそうな様子だが、魂を癒す効果に関しては期待薄な感じがする。
組成式を組み替えて極限まで治癒系の性質と属性を高めればあるいは、という希望は捨てられないが、どうも癒しの方向性が違う気がする。
(……数が揃うまで、検証だけに留めるべきかしら)
五年かけて二つしか収穫出来ない霊草なのだ。少しも無駄にはしたくない。
今回は検証だけに留めるか、保存方法の確立を試すべきか、失敗覚悟で錬成するべきか。いくつかの可能性を取捨選択して、現時点でやるべきことを決めていく。
(……うん。やっぱり、今ある分で霊薬として加工するべきだね)
そうなると、まずするべきは組成式の完全理解と組み替え方法の確立だ。錬成陣を改良する方向性については間違って無いはず。
(とはいっても錬成陣を出し続けるのは霊力の無駄だから何処かに描いて……ああいや、今はほとんど紙が無いからな……)
霊力の回復は、時間経過と休養で自然に増えるのを待つしかないから、せめて動けるようになるまではこの体勢でいるしかない。
つまり、思考を続けるぐらいしかやることが無い。
(いっそ、身体を癒し整える事で間接的に魂に影響を与えられないか、検証してみるべきかな? 魂と身体と精神は相互に影響し合うって言うし)
そう、まずは確実に出来るところから。身体の機能を回復させることは可能なようなのだから、若菜に出ている症状の一部だけでも、治療出来る箇所はあるはず。
(そうなると……うん?)
何かが聞こえた気がする、と思うと同時に工房の扉が開いた。
「皓理、昼飯…………テメェ、何してやがる」
「……ええと、うん、ちょっと」
いつの間にか昼食の時間になっていたらしく、明黎に現状を見咎められてしまった。
こちらを見る目つきが大変険しい。
これは、霊力切れがバレているなぁ。
「えっと、お昼ご飯は、先に食べておいてくれたり…………しないわよね。はい。ごめんなさい」
「さっさと立て」
明黎は優しさが厳しさとして出力される性格なので、こういう失態には容赦が無い。今もそうだし、訓練中もそんな感じ。
特に今回の霊力切れについては完全に私の迂闊が原因だから、抵抗するだけ無駄だ。
「ふー、……っ!」
気合いを入れて何とか立ち上がる。
霊力切れの状態で動くのは、毒による麻痺と高熱を思わせる苦しさがある。
単に歩くだけでも、大量の砂袋を引き摺っているかのように身体が重い。
とはいえ、ぐずぐずしていても仕方が無いので、作業台の上をさっと片付ける。
蒸留酒も、結局一種類分しか出来ていなかった。
(うん……ちょっと……かなり、夢中になり過ぎたね)
せっかく効率的に動こうと準備したのに、ほとんど意味を成していない。
次からは気をつけよう、と反省しつつ、待ってくれていた明黎と一緒に昼食へと向かった。
昼食は、いつも通りのおにぎりと漬物に、追加で干し杏が用意されていた。
仮にも「姉」と呼ばれている以上、哲金と若菜には間抜けな失敗を悟られないよう、昼食の時間は極力いつも通りに振る舞う。
なのに、昼食が終わった途端、明黎に霊力切れをあっさり暴露された。ひどい。
結果、食事を終えると全員一致で寝床に押し込まれた。
(……工房からは無理に歩かせて連れ出したくせに……)
何となく納得いかない気分で、半刻ほど仮眠を取った。
しっかり寝て霊力も二割がた回復し、活動に支障が無くなったので、早速午前中の続きに取り掛かる。
ただし、午前中の反省をふまえて、今は外門の近くの何も無い場所で適当な枝を握って座っていた。
「翠参の基本の組成式がこうで、月雫榴の蒸留酒に抽出するとこう変わるのだから……」
枝で地面にガリガリ描いていくのは錬成陣。
とは言っても、霊力を使って展開している訳ではない。 単に陣の形を地面に描いているだけなので、特別な効果など何も無い、言わば落書きのようなもの。
ここでは紙も墨もそう簡単には手に入らないから、大量にものを描きたければ地面に描くしか無い。
霊力切れの二の舞いを避ける為に、霊力を使わずに組成式の整理分析をしている最中なのだ。
午前中の試行の結果から、最も抗老化という効果が強く作用するような組成式と、それを更に強化する錬成素材の選定をするため、ひたすら組成式の分析を繰り返す。
「……うん。これでいこうかな」
座り込んだ姿勢が辛くなって柔軟をすること四度、影が長くなり始めたあたりで分析に一段落つける。
分析結果から絞り込んだ三十の組成式と、それぞれに対応した錬成陣の描き変え方を選び出す。
五度目の柔軟で身体をほぐしつつ櫓へ向かい、一階に置いてある行李から貴重な墨を取り出して、木片に先程決めた組成式を記入しておく。
ちょうど描き終わった頃、耳元の簡易通信機から『訓練、集合』と連絡があった。
午後はまったく霊力を使わなかったので、体感で半分弱は回復している。訓練に出ても大丈夫だろう。
いつもの大広間での戦闘訓練は、今日は哲金との手合わせだった。
哲金とは実力が拮抗しているから、なかなか勝敗がつかないことが多い。
今日も泥試合になった末、競り負けた。
ぐったりと疲弊した状態で、櫓へと戻る。今日は哲金が大広間の掃除を請け負ってくれたので、他の三人で手早く夕飯の支度だ。
日が落ちるギリギリ前に清拭も終え、囲炉裏で夕飯を囲む。
今日は、味噌漬けして炙った鹿肉が主菜だ。あとは雑穀と板芋で作ったいつもの雑炊だけど、肉がある分満足度は高い。
「御ご馳走さまでした」
使用済みの食器の汚れを落としていく。明日も畑仕事や生活全般の事を任せっきりにしてしまうので、これくらいはしないと落ち着かない。
夕飯の後は、就寝まで手仕事の時間だ。
哲金と若菜は、壁に引っ掛けていた維竹の繊維をとって糸を紡いでいるし、明黎は竹皮で草鞋作りをしている。
私も片付けの後は、布織りの時間だ。
木箱の上に簡易織り機を置いて、杼を動かしていく。
私達は全員成長期なので、身長はもちろん手足の大きさや体型が変わってきている。
正直、布はどれだけあっても足りないのだが、そう簡単に作れるものでもない。
「それで、姉さん。翠参はどんな感じ?」
「うん。予想とはちょっと違ったかな。簡単に言うと、身体の完全回復薬の素材になりえる性質がある霊草、だね」
「……もう少し簡単に言うと?」
「えっと、凄い薬草だけど、魂に関する性質は無いみたい」
「そっかぁ……」
期待があった分、落胆もある。仕方ないとはいえ、少し心苦しい。
「元々、植物には魂が無いって言われてんだから、そうそう都合の良い性質があるわけ無いだろ」
「そうかもしれないけどさぁ……」
「いや、一応そういう性質を持つ霊木もある、らしいよ? 地下書庫の本に載ってるだけだから、信憑性はわからないけど……」
隠し扉の中にある地下書庫には、始まりの錬成術師の残した手記や研究資料が山程眠っている。
彼はあまり整理整頓が得意ではなかったようで、本棚の中もその中身も、実に雑多な感じだ。
おかげで、手に取った本が重要な研究を綴ったものなのか、単なる雑感を書き留めただけなのか、一見しただけでは分からない。
天才にありがちな、途中理論の全く無い結論だけの羅列なども多いし、そもそも読み手を想定していない物の方が多くて、なかなか理解が及ばない。
元々彼は外国人だから、時折り母国の言葉が混じっているのも、読み解くのに時間がかかる原因だ。
ちなみに、医療関係の本は別人が書いたものらしくて、非常に理解りやすかった。おそらく彼の参考書的なものだったと思われる。
「今無いモンの話なんざ、どうでもいい。で、明日はどうすんだ? 午後は何か地面に描きまくってたみてぇだが、もういいのか?」
「ううん。まだ収穫した分が残ってるから、とりあえず出来そうな霊薬を錬成してみる。上手くいけば、魂の方は無理でも、若菜の吃音だけなら治るかもしれないから」
「……えっと? 効かないんじゃなかったの?」
哲金に訝しげに尋ねられる。
「うん? ああ、ごめん。説明不足かな。翠参には、魂に関する性質は無いんだけど、身体を正常な状態に回復させる強い性質が沢山あるの。若菜の吃音は、魂の傷によって身体の一部の機能が萎縮した結果だと思うから、その身体の萎縮だけに限定すれば、機能の回復が見込めるしれないなって。午後にその方向性で組成式を組んだから、明日錬成してみるつもり」
「なる、ほど?」
哲金は首を傾げてる。どうもまだ上手く説明出来ていないようだ。
「ええと……どもりの原因を治す霊薬を錬成するつもり」
「なるほどな。完全回復は無理でも、少しでも効くんなら良かったんじゃねぇか?」
「そう、だね。若菜、良かったね。上手く喋れるようになるって」
「よ、よかっ、た?」
「絶対とは言えないけどね」
なんせ素材も効果も初めて扱う霊薬の錬成だ。断言は出来ない。
けれど皆が喜んでくれた事で、この処方の方針が間違ってなかったと思えて、ほっと肩から力が抜けた。
さて。今日も朝食後すぐに、昨日の覚え書きを持って工房へとやってきた。
明黎達も昨日とほぼ同じ予定で動くようだが、何日も薬草園を任せっきりには出来ない上に、そろそろ本格的な種蒔きの時期だ。
この錬成は今日中に終わらせなくては。
新しい錬成にやや浮き立つ気持ちを抑え、まずは昨日碌に進まなかった蒸留酒作りのために、蒸留器を作動させる。
それが終わったら、残り少ない一本目の翠参の欠片と月雫榴の蒸留酒、昨日の覚え書きを用意し、試薬の作成だ。
翠参の成分を月雫榴の蒸留酒で抽出し、大まかに三つに分けた後、その内一つを更に十に分けて小さい筒に入れていく。面倒だけど、没頭して我を忘れない為の対策だ。
少量の試薬に錬成陣を展開し、昨日絞り込んだ三十の組成式への組み替えを、試薬を入れ替えながら試していく。
適宜休憩、という名の結果分析の時間を取りながら、結果の良かった物だけを残す。
三十全ての組成式の試行が終わったところで、今日も明黎が昼食の時間を知らせに来た。
「おい、皓理」
「ごめんなさい、少しだけ待って」
明黎に声だけをかけて、試薬の最終選別をする。
解析結果の良かった物の中から、二番目と十一番目の試薬を選び出し、改めて錬成陣を展開しながら解析結果をじっくり見比べる。
「うん……こっちね」
二番目の試薬を選び、改めて組成式を確認。脳裏にしっかり焼き付けて、試薬が揮発しないように密封してから、作業を中断する。
「お待たせ、行こう」
「……片付けはいいのか?」
「うん。午後も同じ道具を使うつもりだから」
「霊力は?」
「全然問題無いよ。今日は気を付けていたし、なるべく早く目処をつけたいから」
昨日のうちに大枠の処方は決めているので、今やっていたのは細かい調整と実証だ。本番の錬成は午後からなので、霊力も温存している。
「若菜、ちょっといいかな。薬の拒絶反応を確認するのに、少しだけ血をもらいたいのだけれど」
明黎が用意してくれた昼食の焼きおにぎりと漬物を手早く食べた後、囲炉裏に薪を一つ追加して、若菜を手招きする。
「ち?」
「うん。指先を軽く切るから、少し痛いと思うけど、我慢してくれる?」
「う、ん。だ、だい、じょうぶ」
了承を貰えたので、火で炙って消毒した小刀で、若菜の左薬指を僅かに切る。
滴る血を数滴小瓶に採取し、すぐに傷口に治癒膏を塗り込んで清潔な布で指に残った血を拭い取った。
「ありがとう、終わったよ」
「ん、い、いたくない、よ。おねえ、ちゃん」
「うん。それなら良かった。私はもう少し工房で錬成があるから、若菜は明黎と哲金のお手伝いをお願いね」
「が、がんば、る」
若菜の頭を撫でていると、明黎と哲金も寄ってきた。
「はいはい。こっちは僕らに任せて、姉さんは思う存分錬成を楽しんできてよ。出来上がりを楽しみにしてるからさ。若菜、午後は僕のほう手伝ってね」
「ア、アキ」
「うん。哲金も、よろしくね」
「さっさと行け」
「言い方」
三人に後片付けを任せて早々に工房に戻り、翠参の抽出酒と組み合わせる予定の素材を棚から取り出していく。
まずは、冬獣夏茸の粉末。
小型の魔物に寄生する茸の霊草だ。とても優秀な回復薬の材料だけど、見つけられるかは運次第で、私も今までに二回しか採取したことがない稀少な素材だ。緑、黒属性。
次に、回復薬。
これは、服薬によって創傷を癒す水薬だ。≪治癒≫及び≪回復≫の効果がある。体内に取り込むことで、塗り薬では癒せない内臓の損傷などにも効果が及ぶ、現状で最も効果のある緑属性の霊薬だ。
活力薬。
体力を回復させる≪活力≫の効果を持つ水薬で、疲労回復、持久力の強化などの効能がある。滋養強壮剤の側面もあり、こちらも緑属性の霊薬。
最後に、砂糖葛の粗糖液。
植物の性質を持つ魔物、砂糖葛の偽花を煮詰めたものだ。この液体を更に煮詰めれば、名前通りに砂糖が採れるが、今回は液体のままの方が使いやすい。無・緑属性。
冬獣夏茸、回復薬、活力薬は付与予定の術式の効果を考えると必須。砂糖葛は蒸留酒にしたものと翠参を反応させた時に月雫榴に次いで相性が良かったのと、属性の調和に有効な無属性の素材ということで、性質と効果の向上を期待して用意した。
最初に作る薬の配合は、一番簡素なものからだ。
翠参を刻んで月雫榴の蒸留酒に入れ、低温で加熱、加圧。圧力に関しては、現状揃う器具だけでは難しいので、錬成陣に干渉して調整する。最後に固形物を濾し取って、抽出酒を作る。
次に冬獣夏茸の粉末を薬匙一杯分と、回復薬と活力薬の混合薬に投入し、加熱攪拌しながら成分を抽出する。一度錬成して≪効果≫の付与されているものを再度素材として使用するのは、少し難しい。それぞれ完結している錬成陣を組み直して複数の効果が無理無く一つにまとまるように細かく錬成陣を組み直す。こちらも残留物を濾過して混合抽出薬を作成。
作成した翠参の抽出酒と混合抽出薬をゆっくりと混ぜ合わせながら、錬成陣も統合していく。
翠参の抗老化の性質を錬成陣の中心に据え、周囲にその効果を高める自己治癒力増進、活性化、強壮、造血、造液、排毒、鎮痛、消炎など多数の組成式を配置。
更に≪原状回復≫≪心身改善≫≪健体調和≫の術式を描き込む。月雫榴の白属性をもとに≪遡及≫≪即効≫の術式を組み入れ、無属性は各効果を融合させる補助として分散して配置。冬獣夏茸由来の黒属性も、連接する円陣の中に矛盾しないよう入れ込み、薬効の効果吸収を高める≪受容≫の術式を描き加える。
錬成陣の全体像を再度見直して、問題無いことを確認する。錬成陣を薬液に統合させたら完成だ。
すぐさま<解析術>を使用して効能を確認する。
一定期間の自己治癒能力の極大強化。
傷が塞がる前ならば、欠損部位の再生も可能。
内臓疾患の大半に効果有り。
血液、筋肉、神経の正常化。
精神負荷による身体異常を軽減。
酔っ払う。
「うん、だいたい想定通、り……? うん? 酔っ払う??」
なんだか想定していない、妙な効果が付いている。
「……ええと、基材に蒸留酒を使っているから、かな?」
うん。新しい処方を試しているのだから想定外な事もある……いやでも、これはちょっと意味が分からない。
分からな過ぎて、凄く気になる。
「え? ええと、錬成陣……組成式と術式の、この部分が酔いに関係している、のかしら? 抗老化の組成式が酒精の組成式とこの回路で繋がってて、術式の一部が組み込まれてるから……代わりにこっちを繋ぎ直したら……駄目か。無理に取り除くと錬成陣全体が崩れちゃう」
治癒効果については想定以上の効果が出ているのに、その中に余分な効果が混ざり込んでしまっている。しかも主要部分にガッチリ食い込むような形になっているせいで、取り除くことも出来そうにない。
「酔う……≪酒酔い≫かな。一時的な効果で、身体への害は無い……なら一応、成功かな」
とりあえず、目指していた治癒効果のある霊薬は出来た。基本の処方はこのままでいいだろう。
≪酒酔い≫については改善点として木片の裏に書き留める。次の配合を試す時に回路の繋ぎ方を変えて様子を見よう。
その前に、まず若菜の血で拒絶反応の有無を調べなければ。
小皿の上で、錬成した霊薬と若菜の血を混ぜ合わせ<解析術>を使って異常反応がない事を確認。ついでに自分の血でも確認しておく。
「大丈夫、だね」
あとは、実際に飲んでみないとわからない。
何やら妙な反応をした霊薬だ。若菜に飲ませる前に、自分の身体で試すべきだろう。
少量、一口分だけを小皿に移し、一気に呷る。
次の瞬間、身体がカッと熱くなって視界が歪んだ。




