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曙光を見出す  作者: 椿榎楸柊
三章 大きなのっぽの錬成工房

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13. 小間物屋での買い物(後)

「こっちも色々あるね」


 髪紐は、店内の壁に打ちつけてある棒に掛けて並べられていた。土埃を避けるためか、ちょうど目線の位置に掛けてあるので選びやすい。


「房飾りは無い方がいいし、紐が太過ぎると結びが甘くなるから……」


 明黎の黒髪に映えるのは明るい色だとは思うが、明黎の好みからは外れてしまう。

 一つ一つじっくり見ると、私の知らない編み方で作ってある紐もあって面白い。


「おい、凝ったやつはいらねぇぞ」

「うん……」


 単色の物もいいけど、複数色の撚紐も使いやすそうだ。市松模様や縄目模様も悪くない。

 目に付いた物を手に取って、じっと見比べる。どれが一番明黎に似合うだろう。


「これと、これと、これ……かな。明黎、どれがいい?」


 艶のある紫檀色の四組編と、黒、銀鼠、紺の撚紐、色味の違う幾色もの黒糸で編んだ縄目模様。

 吟味の結果、最終的に残った三つを明黎に見せる。


「あ? 別になんでも……いや、この撚紐は止めろ。暗い場所で目立つ」

「分かった」


 そうなると、残りは二本。


「ちょっと髪触るね」

「ああ」


 手に持った紐を、明黎の髪へ近づける。


「うん。やっぱり、紫檀色かな」


 黒も紐単体だと美しいが、明黎の黒髪に結ぶと色が似過ぎて紛れてしまう。


(……こっちの黒も、凄く綺麗なんだけど……)


 名残惜しくも、黒紐を元通りに掛けようとしたら、手からするりと紐が抜き取られた。


「明黎?」

「お前、結局自分の分は選んでねぇだろ。コレはお前用に俺が買う」

「え?」

「おら、哲金にもなんか買ってくんだろ。二人で選んでろ。若菜、皓理が絡まれないようにしっかり見とけよ」

「わかった、おにいちゃん」

「え?」


 驚いている間に、明黎はさっさと会計に向かってしまう。


「え…………えっ、と……哲金のやつ、探そうか」


 とりあえず、布小物が置いてある店内の一角に向かいながらも、何となく呆然としてしまう。


(えっ、何か、さらっと凄いことされた気がする……)


 今までだって明黎は優しかったけど、それは厳しさとして表現されることが多かった。

 こんな風に分かりやすく気遣われたことはない。


(いや、うん。ここは曲輪じゃ無いし、もう隷属の首輪も無いんだから、明黎だって、少しは気を抜けるようになったのかも)


 何度か無意味に頷いて自分を納得させ、哲金に渡す紙挟みを選ぶ。


 紙挟みは、懐紙や書類を懐に入れて持ち歩くための携帯用具だ。


「哲金なら、幾何学文様(きかがくもんよう)の染め布か、革製のやつがいいかな」


 刺繍が入っている物もあるが、そちらはどちらかというと可愛らしい雰囲気だ。


「うーん、この中からなら七宝柄かな?」


 鶯色の生地に鬱金色で柄が染め抜かれている布は、上品な色合いながらも華やかだ。


「決まったのか?」


 明黎に声を掛けられて、ぴくりと肩が跳ねる。

 髪紐の会計はもう終わったらしい。


「うん、決まった、から、会計してくるね」


 選んだ紙挟みと、手に握ったままだった髪紐を持って、店の奥へ会計に行く。

 先に預かってもらっていた若菜用の簪も合わせて代金を支払うと、個人用の財布がだいぶ軽くなった。


「ありがとうございました。またお越しください」


 店員に会釈して商品を受け取ると、一旦籠に入れてから店を出る。


 店を出てすぐ、明黎が手に持っていた黒の髪紐を手渡された。


「ほら、これ」

「……うん。ありがとう」


 手の中の髪紐を見てると、凄く嬉しいのに、同時に、何だか申し訳ないような気持ちが湧き上がってきた。


「えっと、何か、わざわざごめんね。乗り気じゃない買い物に付き合わせた上に、私の物を買わせちゃって」

「あん? 別に謝ることじゃねぇだろ。皓理も俺に買ってんだし」

「いや、でも、それは私の我儘だし……」


 どちらかというと、欲しがってもいない物を押し付けている気すらしてきた。


「別にいいって言ってんだろ。俺が買いたいから買ったんだし、お前から貰ったモンはちゃんと使う」


 そう言いながら、私の持った籠から紫檀色の髪紐を取り出して、懐にしまい、片手に持っていた箱を持ち直した。


「それに、お前のやりたい事に付き合うって、約束したからな」


 何でも無い風に付け足された言葉に、目を見張る。

 それは、約束と言うより、私の一方的なお願いだったはずだ。


(……覚えていてくれた上に、上乗せして叶えてくれるとか)


「……本当に、明黎は優しいね」

「は?」


 怪訝そうな顔で振り返る明黎に、どうしようもなく笑みがこぼれる。


 明黎は、いつも、私を本心から大事にしてくれている。

 それを感じる度に、身体が、心が、魂が、あたたかいもので満たされていく。


 私は本当に幸せ者だ。


「明黎、髪紐、ありがとう。荷物置いたら、早速使わせてもらうね」

「ああ。俺も家についたら結ぶ」

「若菜も、家に帰ったら髪を結び直して簪挿してみようね」

「うん」


 三人で、家路を歩く。

 多少の問題はあったが、買い物は楽しかった。

 次の買い物の時は、哲金も一緒に四人で出掛けられたらいいと思う。



 ちなみに。

 仕事から帰ってきた哲金に紙挟みを渡すと、とても喜んでくれた。

 ただし、その後で今日の買い物内容を聞くと、反物を買った時に値切らなかったことを、物凄く怒られた。

 いやでも、あの場で値切るのは……と言葉を濁していたら、商品の値引き交渉をするのは、商人としては基本中の基本だと追加で叱られ、今後の大きな買い物は必ず哲金が同行することが決定した。


21時に間に合いませんでした……

明日も9時に間に合わないかもしれません。

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