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曙光を見出す  作者: 椿榎楸柊
三章 大きなのっぽの錬成工房

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12. 小間物屋での買い物(前)

 素材屋を出て、家の方へ向かって道を歩く。

 確か、この道沿いに小間物屋もあったはずだ。


「おい、小間物屋なんぞで何を買うんだ? 嵩張る物なら後日にしろ」


 そう言う明黎の両手には、木箱が抱えられている。中身は反物だ。

 若菜は刺繍糸を、私は染料を一籠ずつ持っていて、どれも重くはないが、確かに少々嵩張る。これ以上荷物が増えれば、咄嗟の行動が取りづらくなるだろう。


「うん。ほら、まだ曲輪から逃げ出したばっかりの頃、明黎の髪紐と若菜の簪を買いたいって言っていたじゃない? 服も新調するし、折角だからそっちも買いたいと思って」


 ちなみに哲金の算盤は、早々に自分で買ってきていた。代わりに何か、哲金にも小物を買って帰りたい。


「……別に、わざわざ買う必要もねぇだろ。組紐くらいなら、自分達で作れるし。若菜も装飾品に興味あるか?」


 明黎に問われて、若菜も首を傾げている。

 そう言われれば、そうなのだけど。


「二人が嫌なら、やめるけど」

「嫌なわけじゃねぇが……髪紐なら、むしろ皓理、お前の分を買うべきだろ?」

「え、私?」


 何でそんな、わざわざ勿体ない…………って、ああ。

 明黎も同じような感覚なのか。


「うーん……じゃあ、私のも買う。それならいい?」

「いい、っつーか……そもそも、なんでそんなもん買いたがってんだ?」

「え? 何でって…………何でだろう」


 改めて問われると、上手く説明出来ない。


「ええと、贈り物とか、ちょっとした贅沢に対する憧れ……?」

「それは貰う側の…………まぁ、いい。行くぞ」


 言葉の途中で何故か乗り気になった明黎がスタスタと早足で店の方へと向かう。


「あ、待って。若菜も行くよ」

「うん」


 早足の明黎を、若菜と小走りで追いかける。追いついた所は、ちょうど小間物屋の前だった。

 この店は、店の前の道に台を出して商品を並べている、半露店形式の店だ。道を行き交う人達が、気軽に商品を眺めていく。


「で、欲しいのは髪紐と簪か?」

「うん。あと、哲金に小物……紙挟みか何か買っていくつもり」


 明黎と話しながら、台に置かれた商品を覗き込む。一番目立つ位置には、簪や櫛がずらりと並んでいた。

 簪だけでも、簡素な木製の物から、小粒の石が嵌った金属製の物まで、様々な物がそろっている。


「へぇ、綺麗だね。若菜、どれか気になるのはある?」

「…………」


 選択肢が多過ぎるからか、若菜からの返答は無い。けれど、視線が簪の上を行き交っているので、興味が無いわけではないようだ。


「うーん、一本軸より二本軸の方が安定するかな? 若菜の髪色なら金属よりは木製か他の……あ、この辺いいかも」


 私が目をつけたのは、鼈甲(べっこう)の簪だ。透明感があるのに濃い黄色が、若菜の黄緑色の髪によく映える。

 並んだ簪の中では高級品の部類だが、素材ではないし、驚くほど高額なわけではない。


「若菜、この中ならどれが好き?」

「おねえちゃん……これ」


 そう言って若菜が指差したのは、二本軸の平打ち簪だ。


「可愛いね。これは、月と菜の花、かな」

「きれい」


 若菜が選んだのは、菜の花畑が彫り込まれて、白っぽい螺鈿細工で月が表現されている。色も濃いめで、若菜の橙色の瞳に近い。


「うん。じゃあ、若菜のはこれにしよう」

「ありがとう、おねえちゃん」


 若菜がにこりと嬉しそうに笑う。

 その笑顔は、曲輪にいた頃とはやはり違ってきている。毎日見ていると気付きにくいが、少しずつ回復しているのは間違いない。


「若菜が喜んでくれて、私も嬉しいよ」


 自分より高い位置にある若菜の頭を撫でてから、選んだ簪を店員に預かってもらう。

 次は髪紐だ。


小間物での買い物の後半はまた本日夜に投稿します。

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