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曙光を見出す  作者: 椿榎楸柊
ニ章 我が新しき住家なれ

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17. 海の妖魔

 昼休憩を挟んで午後。今は、予定通り沖に出ている。

 教官の口振りでは、妖魔との戦闘はあまり想定していないようだったが、既に二匹目の妖魔に遭遇している。


「ボオォベェエエエェェーー!!」


 爆音にやられないように、耳を防衛強化していてもかなり煩(うるさ)い。音で攻撃してくる妖魔、鰾魚だ。帆が不穏にはためき、耳を押さえて倒れる者が出た。

 銛を使って攻撃していた人の一人が倒れたので、慌てて落ちないように船の中心部へ引き摺(ず)っていく。銛の数が足りていないので、私と若菜は攻撃に参加していない。


「耳の防衛強化が出来ない奴は、船の中央に寄れ! 海に落ちたら食われるぞ!」


 教官が声を張り上げているのは分かるが、半ば音を遮断しているので聞こえ辛い。おそらく倒れた者達の救助要請だと判断し、倒れている人達を一箇所に集めて帆柱に縄で縛り付ける。


「くそっ! 当たんねぇ!」


 冒険者の一人が投げつけた銛を回収しながら悪態を吐く。

 鰾魚は、攻撃してくる時しか水面に上がってこないから、そこを狙うという話だった。しかし、攻撃中というのは、あの爆音が響いている時ということなので、当然、投擲の威力や精度にも影響が出る。それを加味して当てるとなると、練習の時とは難易度がまるで違う。

 でも、まあ、私は全く心配していない。


「ギビィエエェェー!!」


 先程とは、質の違う音が上がる。たぶん悲鳴的なものだろう。

 視線を転じて確認すれば、明黎が縄鏢の縄を手繰っている。おそらく命中させたのだろう。

 倒れた人達の応急処置を終えて、明黎のところへ行くと、教官から褒められていた。


「凄いな。まさか、初めての遭遇で鰾魚を仕留めるとは思わなかった」

「いや、別に当てるだけ……なんで」

「その、当てるだけが、普通は難しいんだよ。よほど腕がいいんだな」

「…………」


 教官はなかなか褒め上手なようだ。明黎が褒められているのを聞くと、顔が緩んでしまう。

 二人は、明黎が倒した鰾魚を網で掬って引き上げている。今回は講習だし、倒した妖魔の素材の取り分はどうなるのかと思っていたが、明黎が受け取っていいみたいだ。


「海の妖魔は素材化した方が高く売れる場合が多い。よければ、素材化担当の錬成術師に紹介しようか?」

「いや、必要ない。皓理」

「うん。任せて」


 引き上げられた鰾魚に<解析術>をかけ、次いで錬成陣を使って素材化する。

 鰾魚の素材は鰓(エラ)と浮き袋だ。鰓の片方は貫かれて駄目になっているが、それは仕方ない。


「驚いた。あんた、錬成術師か」

「はい。まだ資格はありませんが」

「いや、その若さで刻印持ちならたいしたもんだ。しっかし、そうなると、あの男はますます立場ないなぁ」


 ……どういう意味だろう。私が錬成術師だと、誰かが失脚するのだろうか?


「あの、どなたのことでしょう?」

「ん? ああ、あんたが船に乗る前に軽くあしらった男がいただろう。アイツだよ。あんたの専門は錬成術なんだろ? 専任冒険者でもない、若い女の子に絡んで返り討ちにあうなんて、恥晒しもいいトコだしな。これに懲りて、少しはマトモに腕を磨いてくれるといいんだが」


 …………あの男か。どうでもいいから忘れてた。


「磨くのは、むしろ腕より品性かと。ああいう人がいるから、冒険者は子供達に嫌がられるのでは?」

「……耳が痛いな」


 冒険者組合の職員としては、領地の人と距離があるのは、頭の痛い問題なのだろう。是非改善に向けて努力して欲しい。

 話しながらも手と頭は動かしていたので、ほどなく素材化は終わった。棲息場所が厄介なだけで、そこまで強力な妖魔というわけではない。


 「よし、終わり。残りの部分はどうしたらいいですか?」


 素材を提供してもらった木箱に入れて、残った死骸の処理方法を聞く。


「このまま乗せていく。金にはならないが、霊木用の肥料の材料になるからな。荷物になるから捨てることもあるが、今回はもう帰港するからな。ついでだ」


 教官の言葉に、つい空を見る。まだ日は高い。帰りの時間を考えても、あと半刻は余裕があると思うのだが。


「流石に失神者が出た状態で講習は続けられんからな」


 教官に言われて、自分が帆柱に縛りつけた人達を見る。……四人か。


「気付薬なら足りますが」

「いや、帰港するって言ってるだろうが。無理に起こしたところで講習は続けないぞ。今日はやけに妖魔が多い。いつもなら、こんなに立て続けに遭遇したりはしないんだ」


 ちなみに、最初に遭遇したのは飛針で、全員素直に板の影に隠れたので、怪我人はいないが、素材も獲れていない。


「そうですか。残念です」

「……あんた、思ったより脳筋だな」


 久しぶりの評価に、思わず破顔してしまう。


「明黎、明黎。脳筋って言われた」

「なにを笑ってんだよ、お前は」

「いや、最近、儚げとかなんとか、全然似合わないこと言われてばっかりだったから」

「……俺は皓理より図太いくてイカれた奴を知らねぇ」

「言い方」


 相変わらずの口振りだけど、そんな風に私を知っていてくれる明黎の側は、居心地がいい。


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