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曙光を見出す  作者: 椿榎楸柊
一章 罪の奥山今日越えて

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3. 霊草と揚水機

「「「「いただきます」」」」


 昼ご飯は、朝炊いた雑穀米に蕗のとう味噌を塗った焼きおにぎりだ。

 元々一緒にいた若菜と、ちょうど帰って来た明黎と哲金も一緒に、四人揃って囲炉裏を囲む。

 炭火によって、蕗のとう味噌の僅かな油がパチパチとおにぎりの表面で弾ける。色付いて香ばしく焼き上がったおにぎりを頬張ると、蕗のとうのほのかな苦味と味噌の旨味、米の優しい甘味が口いっぱいに広がった。

 合間に蕪の酢漬けをつまみ、二つ目のおにぎりを手に取り、口をつける前に話しかける。


「毒草園はどんな感じだった?」

「袋罌(ふおう)と醒酔葉(せいすいよう)の作付け場所の土起こしは終わった。宵見玉(よみだま)は新しい葉が出てチラホラ花が咲いてたな。午後は袋罌の場所に灰を撒いてくる」


 既に三つ目のおにぎりを食べ終わった明黎が、簡潔に説明するのに、哲金から補足が入る。


「帰り際に少し見たけど、維竹(いたけ)も新芽が順調に伸びてたよ。あと、裏手の竹林でそろそろ筍が取れそう。午後は兄さんと一緒にある程度灰を運んだら、薪用の木を切ってくるよ」

「うん、お願いね」


 明黎の説明した、袋罌・醒酔葉・宵見玉は、毒草園で育てている霊草だ。


 袋罌は、睡眠薬や麻酔薬の原料になるが、扱いが難しい上に精製の仕方を間違えれば重篤な副作用を起こす霊草だ。しかも、特定の蟲の妖魔を招き寄せる香りを放つので、栽培そのものも難しい。

 醒酔葉は、名前通り酔ったように高揚して、一時的に身体能力が増加する効果がある。その代わりに非常に依存性が高く禁断症状が強い、扱い辛い霊草だ。危機的状況の最後の手段としては有効だろうが、常用すれば身の破滅しかない。

 宵見玉は、神経に作用する猛毒で、原液を一口でも飲んでしまえばまず助からない。それどころか触っただけでも経皮吸収で死ぬ可能性があるほどの毒草だ。


 どれもこれも、当然のことながら国から栽培を禁じられている植物だ。真っ当な人間に発覚すれば確実に罪に問われるだろう。

 だからこそ、と言うべきなのか、裏ではそれなりに需要があるらしい。忌まわしい事だが、この曲輪が頭領に存在を許されているのは、これらの霊草の供給源である事も理由の一つだ。

 どれだけ嫌悪を覚えようと、死にたくなければ栽培し続けるしかない。


 一方、哲金の言った維竹は、頭領や呪詛師といった、私達の監視役には隠れて栽培している。見た目は細くて背の低い竹のような霊草で、比較的簡単に繊維をとることが出来る。

 山生活では不足しがちな糸や布を作る為に育てているのだが、同時にその繁殖力の強さを利用して、私達の行動範囲を定義する『曲輪に付随する畑』の範囲を拡張する為でもある。

 こちらも発覚(バレ)ると、ただでは済まないだろう。

 もっとも、生きて自由になる為に、こちらの栽培も止めるつもりは無い。ただ、隠蔽工作は錬成具まで使って神経質なほど念入りにしている。


 今、私達の監視というか管理をしているのは、年に二回、食糧と引き換えに霊薬や素材を持っていく呪詛師だ。

 あの男は、こちらに無関心な癖に偏執的で残忍なので、行動が全く読めなくて困る。

 実際に、私達以外の子供が死んでしまったのは呪詛師のせいだ。頭領は実験を生き残った子供達は全員育てる心積りだったようなのに、呪詛師は自分の都合で私達を妖魔の前に放り出した。

 一応今は、この曲輪を存続させるという頭領の方針に従っているようだが、油断は出来ない。


「あ、姉さん。近いうちに隠れ家の様子を見に行ってもらっていい? 遠目に確認したら、あの辺、雪のせいでちょっと景色が変わってるみたいなんだ。≪幻影≫の錬成具の調整した方がいいかも」

「うん、わかった。近いうちに見に行くね」


 隠れの家の主な用途は、呪詛師が来た時の若菜の避難所だ。いくら彼奴らが私達やこの場所に興味が無いと言っても、同じ敷地内に居て隠し通すのは極めて難しい。

 普段は使っていない場所だが、確かにそろそろ手入れをしておいた方がいい時期だ。

 頭の中で予定を調整しながら、最後の一口を咀嚼し、囲炉裏から薬缶を持ち上げる。


「はい、お茶。熱いから気を付けてね」


 食後のお茶を淹れて、全員に湯呑みを配っていく。茶葉も、常葉木の葉で作った自家製だ。聞くところによると、茶葉も場所によっては高級品らしいから、ちょっとした生産者の特権だろう。


「はあ、あったまる。若菜、熱くない?」

「だ、だいじょぶ。あた、あったかい、よ」

「まだ寒いもんねぇ」

「だいぶマシになってきただろ」


 近頃は雪が溶けて、霜が降りる事もほぼ無くなった。まだまだ暖かいとは言えない気候だが、そろそろ春の種蒔きの季節だ。おかげで、今は畑仕事が忙しい。


「午前中に予定してた錬成は終わったし、素材の下処理は若菜がしてくれたから、私は午後は薬草園の方にいるね。水やり以外は南側の区間にいるつもり」

「分かった」

「りょーかい」


 今は耳につけた通信機である程度連絡が取れるけれど、お互いの居場所をなるべく把握出来るようにしておくのは、昔からの習慣だ。


「若菜は私のお手伝いをしてもらってもいい?」

「お、おねえちゃん、と、いっしょ」

「うん。よろしくね」


 囲炉裏に灰をかけて火の始末をすると、午後の仕事のために立ち上がった。



 曲輪内の薬草園は、外壁の端から端まであらゆる場所にあって、全てを合わせるとかなりの広さになる。

 それと言うのも、以前まだ頭領が滞在していた頃に、実験を生き残った仲間の一人が<栽培>という植物の育成に特化した刻印を持っていた事に端を発する。<栽培>持ちの彼女に様々な稀少な霊木草を育てさせようと、元々は単なる庭や空き地であった場所まで全てが薬草園へと変えられたのだ。

 彼女が呪詛師の起こした内部抗争のとばっちりで妖魔に殺され、薬草園も一時はかなり荒れたのだが、今は全てきちんと手入れしている。

 霊木や通年で収穫できる霊草に水や肥料を与え、適宜剪定(せんてい)や収穫を行い、畑の土作りをする。どれも、今ではすっかり慣れた作業だ。


 特に三年ほど前に、私が<園芸>という刻印を獲得してからは、かつて持ち込まれた稀少な霊草が、止まっていた成長を取り戻すかのように大きく育つようになった。

 その稀少な霊草のひとつ、翠参(すいじん)の前で、私は首を捻った。


「これ、は……?」


 翠参は、名前通り翠色の根に薬効のある霊草で、例によって一時期成長が止まっていた。だから、発芽から五年経った今に至るまで、一度も収穫出来ていない。

 その翠参の根の一部が、盛り上がって土の上に顔を出していた。


「昨日までは、全部埋まっていたよね?」


 横にいる若菜に聞いてみるが、首を傾げられてしまう。


 これはやっぱり、収穫出来るほどに株が育ったということだろうか。

 翠参を植え付けた当時は、私は畑仕事にほとんど関与していなかったから、詳しい生態を知らない。あやふやな文献の記載と<園芸>からくる感覚頼みで、何とか育てている。

 ただ、現在栽培されている霊草の中では、総緑樹と並んで強い治癒効果を持っている、という話は聞いていた。詳しくは実際に解析してみなければ分からないが、あらゆる傷や病に効くという事前情報が正しければ、もしかしたら若菜が元に戻るかもしれない。

 否が応にも、期待は高まる。


「うん、よし! この二つは収穫しよう」


 若菜に指示を出しながら、他の作業を手早く終えると、慎重に翠参を掘り出していく。枝分かれした細かい根も千切れないように気を使うので、結構大変だ。横で同じように土を掘っている若菜は、意外とこういう根気のいる作業が得意で<園芸>の刻印がある私と作業速度がほとんど変わらない。

 元々が農家の生まれだと言っていたから、そのせいかもしれない。単純に腕力の差である可能性もあるけど。


 今回収穫した翠参は二本。

 残り三株は、まだ慎ましく土の下に植っている。


「若菜、お疲れ様。そっちの籠を持ってくれる?洗い場に持って行こう」

「う、うん」


 井戸の横の洗い場で、若菜と霊草に付いた泥を落としていると、哲金がやって来た。


「姉さん、若菜。手伝うよ」

「あれ? 薪割りはいいの?」

「まだ途中だけど、僕で手伝える事は手伝うよ。姉さんしか出来ない作業も多いんだし」


 会話しながら、既に揚水機(ポンプ)で汲んだ水を桶に溜めている。


「ありがとう、助かる」


 泥が混じった洗い桶の水を入れ替えて、更に念入りに霊草を洗浄していく。薬に使うのに土が付いているのは論外だし、雑に洗えば傷が付く。難しい手順など何も無い単純作業だが、ずっと水を使うと手の感覚が麻痺してくるから、手伝ってもらえるのは結構嬉しい。


「あり、がと。ア、アキ」

「どういたしまして。袖濡れてるよ、気をつけな」


 若菜の方の水も入れ替えてあげたらしく、お礼を言う声がする。若菜の中では、哲金は年下認識なのか、「アキ」とあだ名で呼ぶ。

 実際に世話を焼いているのは哲金の方なのだが、本人は特に気にした様子は無い。


「……哲金も、丸くなったわよね」


 ここに連れて来られた当初、哲金はものすごく荒(すさ)んだ子供だった。

 当時は八歳。明黎と私に次いで、三人目の実験通過者だったけれど、口を開けば言葉の刃を突き立てるような会話しかしなかったし、笑いと言えば嘲笑だった。ここに来る前もかなり酷い境遇だったようで、完全に人間不信。私達にも陰湿な嫌がらせをしてきたり、明黎に突っかかって逆に半殺しにされたりと、中々の問題児だった。

 若菜が来た頃には、多少落ち着いていたものの、表面を取り繕っただけという感じだったのに、今ではこの好青年ぶり。

 年月は偉大だ。


「……急に何の話?」


 哲金の低く抑えた声に、はたと我に帰る。

 今日は本当に物思いに囚われがちだ。


「あ、ごめん。皮肉とか嫌味のつもりじゃ無いんだけど……」


 そのつもりでは無かったけれども、哲金がこの話題を嫌がるだろう事は分かる。かと言って、褒めたつもりの言葉に謝罪を重ねるのも、あまり良くない気がする。

 言葉に詰まって、思わず泳いだ視線の先に揚水機があった。


「えーっと……あ、これ。この揚水機って、いくらくらいするのかな。向こうの井戸には付いて無いから不便だと思ってて」


 白々しいのは承知の上で、強引に話題を変える。

 曲輪の敷地内には南側にもう一つ井戸があるのだが、そちらには揚水機は無くて、滑車の釣瓶(つるべ)だけしか付いていない。南側の薬草園からはそちらの井戸の方が近いのだが、力があまり強くない私には、釣瓶での水汲みはちょっと大変だ。

 それに比べて、多少霊力は必要だけど把手(とって)を傾けるだけで水が出る揚水機は、かなり便利だ。とは言え、かなり高度な素材が必要そうな錬成具だし、付属の金属の部品も多いから、おそらくかなりの高級品だ。本来は、こんな山奥にあるような物ではなく、村単位で共同で使うのために購入したり、貴族の屋敷で購入するような物だろう。

 買い物の自由すらない私達が買えるものじゃないし、自作するにも部品を揃える事から難儀しそうなんで、本当にただの話題逸らしでしか無い。

 哲金も私の誤魔化しは分かっているらしく、若干視線が痛い。


「…………まあ、いいけど。昔姉さん達に迷惑かけたのも事実だし……で、揚水機だっけ? んー……ん、まあ、いっか。それさ、頭領の開発した錬成具らしいよ。街で聞いた。ここにあるのはたぶん試作品」

「え?」


 頭領? って、頭領だよね。私達を誘拐してきて違法実験をした、犯罪組織の。

 あの倫理観皆無の外道錬成術師が、揚水機を開発。

 うん。うん?

 開発、は納得できる。自称天才錬成術師だし。本人も霊薬より用具系錬成具の錬成を好んでいたから、まあ。

 こういう、人の役に立つ錬成具を開発することが意外だっただけで。

 でも、哲金がそれを街で聞いたって事は、犯罪組織の頭領という立場ではなくて、表社会で活動してるって事よね?


 …………は?


「僕も任務で街に出るまで知らなかったんだけどさ、あの人、当代随一の錬成術師って呼ばれてるらしいよ。高位貴族だか王族だかが後援についてるとか何とかで、結構色々発明してるみたい。その揚水機とか、護身用の自動盾とか」

「うん??」


 うん、何かちょっと受け入れ難い情報が聞こえたな。

 百人以上の子供を誘拐して人体実験で大量殺戮した殺人鬼が? 

 盗難殺人違法薬物何でも有りの犯罪組織の頭領が? 

 貴族の後援を得て、富と名声まで獲得してるの?

 は???


「開発するのが高級品ばっかりだから、一般の知名度はそこまで無いけど、任務の標的は結構あの人のこと知っててさ。頭領が指定した標的が、頭領の開発した自動盾持ってて、危うく任務に失敗して死ぬかと思ったよね。あの人本気で性根腐ってんなって再認識したよ」


 あはは、と軽く笑う哲金も若干目が据わっている。当然だろう。私達に望みもしない犯罪の片棒を無理矢理担がせておいて、その元凶は表の世界で堂々と幸せを享受しているのだ。しかも、その尻拭いだか何かに、更に利用されている。


「……ふ、ふふっ」


 瞬間的に湧き出した怒りを、目を閉じてやり過ごす。

 あいつが外道だなんて、今更だ。

 感情に振り回された所で何の益も無い。荒れる感情を抑え付けるのは、慣れた作業だ。

 瞼の裏に、いつも不機嫌な顔をした頭領の姿が浮かび上がる。



 そもそも、頭領が私達を使って行った実験の目的は、子供の暗殺者を作り出すことだった。


 本来、未成年は霊力が使えない。

 霊力の源である、魂が覚醒していないからだ。

 成人に際して行う『覚醒式』を経て初めて、霊力を使うことが可能になる。

 それと同時に戸籍の登録を行うので、法律的には、未成年とは、人未満、家畜や財産と同じ扱いとなる。

 もちろん、人情や倫理の観点から、実際に財産扱いされる事はほぼ無いが、決して成人と同じ扱いをされる事も無い。

 何故なら、魂の覚醒の有無で明らかに生き物としての格が違うからだ。

 覚醒して霊力が活性化すれば、それだけで身体能力も傷病に対する耐性も明確に向上する。

 更に霊力の扱いに習熟すれば、<刻印>を通して様々な超常の能力を行使出来るようになる。

 妖魔が蔓延(はびこ)るこの世界で、強さとは極めて重要なものなのだ。


 だからこそ、未成年は軽んじられるし、警戒もされない。

 その認識を逆手に取って、警戒されず、疑われる事も無い子供を暗殺者として仕立て上げる。

 その為に私達は集められ、子供への覚醒実験が行われた。

 しかし、結果は惨憺たる有様で、ほとんどの子供が覚醒ではなく死に向かった。

 生存したのは百人中十二人。確率で言えば僅か一割二分。

 成人の覚醒式の成功率が九割九分を越えることを考えれば、信じ難い程の成功率の低さだ。

 二年間、六回に渡る暴挙の末に、実験は中止された。


 生き残りの十二名に隷属の首輪を嵌め、訓練を施して手駒にする算段だっただろうに、ある日突然頭領は側近と共にこの曲輪を出て行った。

 おそらく、櫓の地下の隠し部屋、防衛機構のある場所でで何か(・・)を見つけたのだと思う。この曲輪を、あの巨大で精緻な防衛錬成具作った、始まりの錬成術師が遺した何かを。


 取り残された、私を含む子供達は、訓練や監視の為に残った人員に従って生活していたけれど、頭領がいなくなってからの訓練は、まさに箍(たが)が外れるという言葉通りで、過酷で杜撰な、まさしく地獄の有様だった。

 さらには、管理者であるはずの大人達の間で内部分裂が起こり、諍いが激化。

 挙句の果てに、管理者の一人だった呪詛師の策略で、ある夜、曲輪には妖魔が大挙して押し寄せてきた。当時、頭領が何かを持ち去ったせいで防衛機構が機能を停止していたので、曲輪は瞬く間に妖魔によって蹂躙された。

 必死で曲輪を守る私達を他所に、呪詛師は敵対人員を背後から襲い、次々と始末していった。

 結局、その襲撃に巻き込まれて、私達四人以外の子供は全員が死亡。

 首謀者の呪詛師は、辺鄙な曲輪に留まるのが嫌だったらしく、手下を連れて下山。当然の事ながら、呪詛師は頭領に管理不行き届きを咎められたようだが、結局奴は自分用の拠点を別の場所に用意したらしい。呪詛師は年に二度の物資の受け渡しの時以外、ここへは来ない。


 結果、私達はほぼ放置されている状態で今に至る。

 ただし、私達の首には、未だに隷属の首輪が嵌ったままだから、この場所から逃げられない。

 加えて、明黎と哲金は、夏の間は呪詛師に連行されて、人里で様々な任務に駆り出されている。二人は任務の内容を詳しく話さないが、おそらくは潜入、暗殺の類だろう。


 ちなみに、若菜が生き残っていることを、頭領や呪詛師は知らない。今の状態の若菜が見つかれば、十中八九殺されてしまうので、全力で隠している。



「……ふぅ」


 気分を切り替えて、こちらを向いたままの哲金と目を合わせる。

 うん。笑ってるね。

 目が据わってたさっきとは違って、とってもイイ笑顔。


 私は、七年間、ずっとこの曲輪から出る事を許されていない。

 けれど、明黎と哲金は、任務をこなす為に、夏の間は彼方此方(あちらこちら)へと連れ出されている。

 つまり、頭領の表社会での地位名声、というこの情報はとっくの昔に知っていて、敢えて黙っていたのだと思う。


 なのに、今、わざわざそれを告げたのは、


「……意趣返し?」

「何のこと? 僕は質問に答えただけだよ。ほら、僕、丸くなったから」

「……あー……うん……」


 うん、はい。失言の意趣返しだね。

 笑顔がとっても白々しい。

 けどまあ、意趣返し以上の悪意があるわけじゃ無いのは分かる。

 そもそも、ここから離れられない私が知っても不快になるだけの情報を、今まで伏せててくれた事自体が、好意によるものだろう。

 だから文句をつけるような真似はしない、けど。


(やっぱり、哲金もイイ性格をしてるんだよね……)


 全開の笑顔を前に、ため息は堪えられなかった。


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