14. 冒険者活動
「……シッ!」
上空からこちらへ急降下してきた黒い物体を明黎の縄鏢が撃ち落とす。
地面に墜落した姿を確認すれば、目玉潰という鳥型の妖魔だった。一見すると、単なる黒い鳥だが、腹部に大型の目玉が付いている。
「素材化出来るのは、この腹部の目玉みたいだね」
冒険者組合の書庫で事前調査はしたものの、初めて見る妖魔なので一応<解析術>で確認する。遠見、捕捉、などの特性を持つ素材になるようだ。
「今のところ使う予定の無い素材だし、これは冒険者組合で売っていいね」
「今回も討伐場所の報告はすんのか?」
冒険者組合で討伐報酬を受け取るためには、討伐証明部位の提出と、討伐場所の報告をしなくてはならない。
素材化してしまうと、当然ながら討伐証明部位の提出は出来ない。その場合の討伐場所の報告は、完全に任意だ。
討伐場所を報告する一番の理由は、魔力汚染を防止するための事後処理のためだ。
妖魔の死骸は、放っておくと周辺を汚染して、人間にとって有害な場所を作り出す。汚染防止のためには魔力を霊力に変換する<霊力変換>の刻印が必要なのだが、大半の冒険者はそんな刻印を所持していない。なので、冒険者組合の専門部署が事後処理を担当してくれている。
そして、素材化や霊玉化をすれば魔力汚染は無くなるので、報告は特に必要無い。ただし、妖魔の分布や冒険者本人の活動記録という別側面の情報収集には役立つので、素材化した場合も冒険者組合に報告を上げることは推奨されている。
「うん、まあ。実績証明のためには報告した方がいいし。ただ、絡まれるのが面倒臭いよねぇ」
冒険者組合は、登録も無料だし、更新手続きなども必要無い。だが、組合職員によって一定の実績が認められると、さまざまな特典を受けられるようになる。
例えば、各種手続きを別室で受けられるようになったり、種々の資料を無制限に閲覧出来たり、報酬の良い特別な依頼を紹介してくれたりする、らしい。
どの程度の実績で認められるのか、基準が明記されていなかったので、とりあえず細やかに報告をしている。
ただ、受付に並んでいると、見知らぬ人間にやたらと話しかけられる。内容は、言い掛かりからお茶の誘いまでさまざまだが、総じて面倒臭いことに変わりない。
報告に行くと、組合職員は大抵好意的な反応をするので、報告自体は続けた方が良いと思っているが、多少辟易している。
「やめるか?」
「いや、行くよ。私達の方が行動制限されるのは、何か癪だし」
迷惑行為をしてくる輩は面倒だが、面倒なだけだ。かつて相対していた呪詛師や頭領に比べれば、別にどうということもない。
目玉潰の死骸を適当に地面に埋めて、目印に長めの枝を刺す。まあ、魔力汚染の危険性が無いから、報告しても確認には来ないだろうけど、念の為。
「この辺りには、もう妖魔はいないよね。あっちの高台で地形を確認したら、今日はもう帰ろうか」
新居での生活が安定してきたので、数日前から哲金は商業組合に顔を出し初めた。
対して、私、明黎、若菜の三人は、冒険者として活動している。
と言っても、まだ地理や植生、妖魔の分布などを把握するために、外門の周辺を歩き回っている時間の方が長い。
幸いにも、生活費には少し余裕がある。
今までとは行動範囲が段違いに広いこともあって、まずは情報収集に専念していた。
「初心者講習の案内、ですか?」
冒険者組合に戻って、報告を終えると、わざわざ受付の職員に呼び止められた。
「はい。現在、初心者の戦力増強を目的とした各種講習の開設が増えておりまして。登録一年以内の方には口頭でお伝えしております」
詳細を知りたい場合はあちらをご覧下さい、と言って示された辺りには、巨大な木の板が設置されていた。
初心者講習には、元々いくつか参加するつもりだったので、早めに受講出来るならありがたい。受付の職員にお礼を言って、文字の書かれた板の方へと向かう。
「……野外活動講座、討伐証明部位の運搬方法解説、武器診断、森での索敵方法講座……あ、海や船での活動講座がある」
三日後に、先着二十名、登録一年未満の初心者優先。
講座の内容は、小型船の操作方法、船上での動き方、船酔いの対処法、水中で妖魔に襲われた時の回避方法など。早朝から一日がかりで教えてくれるようだ。
参加費は一人百文。内容を考えれば破格の値段だ。確か登録の時に見た値段は三百文だったはずだから、かなり値下がりしている。
急な講座増設といい、講習費の値下げといい、冒険者組合は本気で戦力増強を目指しているようだ。
理由は知らないけど、私達にとっては、渡りに船だ。早速、海の講座に申し込むことにする。
ただ、船という比較的狭い空間で、知らない人間と過ごすことになるので、若菜の参加は少々不安だ。
「若菜はどうする? 留守番する?」
若菜一人で残して行くのも少し心配だが、ずっと家にいるなら大丈夫だと思う。
「おねえちゃん、いっしょ」
「うん? 参加する? 知らない人が沢山いるけど、大丈夫?」
「だいじょぶ」
「そう?」
本人が頑張る気ならば、連れて行ってあげたいが、不安は残る。
「うーん、哲金も、この日だけ来れないかな?」
「本人に聞け」
「やっぱり難しいかな? 正式雇用前に、仕事の概要覚えたいって気合い入れてたし」
「アキ、おしごと、たのしい」
平地や森での活動はともかく、私達にとって海は未知の存在だ。対処法を学ぶのは早い方がいいし、哲金も一緒にいてくれれは心強い。
けれど、若菜も言っているように、哲金本人が非常に楽しそうに働いているので、こちらの都合で水を差すのも嫌だ。
どのみち、本人の登録証が無ければ講習の申し込みも出来ないし、先に私達だけ申し込んで、夕食の時にでも予定を聞いてみよう。
一階の板間に四人揃って座り、それぞれの前に箱膳を置く。
今日の夕飯は、しらすの佃煮と山椒のお茶漬けとしじみの味噌汁、焼き茄子に里芋の煮付けだ。
冒険者組合での手続きが長引いた分、おかずがやや簡素になった。今の家には地下の貯蔵庫が無いので、あまり食品の買い置きが出来ないのだ。
ただ、量については、しっかり満足出来るぐらい食べられるようになった。
「それで、私達は冒険者組合の海の講座に申し込んできたんだけど、哲金はどうする?」
「あー、三日後かぁ。ちょうど、上役の人に会わせてもらえる予定になってるんだよね。だから、今回は見送るよ。仕事の方に慣れたら講座を受けるか、兄さんに習うかする」
「わかった」
残念だが、仕方がない。
「姉さん達がその講習に参加するなら、帰りは遅くなるよね? なら、その日は僕が夕飯の用意しとくよ。何か食べたい物ある?」
「ありがとう。そうね、豆腐があれば食べたいな。調理方法はお任せで。若菜は?」
「やいた、おさかな。おみそのやつ」
「味噌だれ焼きかぁ。まあ、いい魚があったらね。兄さんは?」
「何でもいい」
明黎は、あまり食事に関して要望を出さない。それは哲金も知っているので、肩をすくめて「了解」とだけ返事をする。
「あと、講習が緑の刻の鐘で始まるから、白の刻の半鐘で家を出るね」
「分かった。掃除とかの家の雑用もやっとくよ。あ、ただもし僕が寝ぼけてたら、しっかり起こしてください」
「寝ぼけてたら、蹴り起こしてやるから安心しろ」
「いや、普通に起こして」
哲金は、相変わらず朝が苦手だ。悪夢を見る日も多いみたいだし、今度城の医者に若菜を診てもらう時に、少し相談してみよう。
「姉さん、里芋の煮付けってこれで終わり?」
「うん? あと少し鍋に残ってるけど、持ってこようか?」
「やった。お願い」
新しく買った、小さめの土鍋をそのまま運んでくる。残れば明日の朝食べようと思っていたけど、今日食べてしまっても特に問題は無い。
「はい、どうぞ。明黎と若菜は、おかわりいる?」
「……いる」
「たべる」
「うん、じゃあ器貸して」
おかずの残りをつぎ分けて、また全員で箸を動かす。四人でとりとめもない話をしながら食べるご飯は、とても美味しかった。




