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曙光を見出す  作者: 椿榎楸柊
一章 罪の奥山今日越えて

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1. 箱庭

 ふと、瞼に光を感じた。

 どうやら夜が明けて、既に太陽が顔を出しているらしい。朝だ、と目覚めていく身体と裏腹に、心は何とか夢の残滓を辿ろうとする。けれど、続きを追いかけようとすればするほど、覚えていた筈のことまで薄れていってしまう。


 とても大切な何かを、夢に見た。

 忘れてはいけない、大切な。大切な……


 ……何か。何、だった?


 ちゃんと思い出した筈なのに、わからない。忘れてはいけない筈なのに、どれほど記憶を探っても、影すらも見つからない。


「はあ……」


 しばらく粘ってはみたものの、いつまでも無為な時間を過ごす訳にはいかない。既に日が昇っている以上、やる事はいくらでもあるのだから。

 ため息ひとつで夢への未練を吹き消すと、気持ちを切り替えて起き上がった。


 横に寝ている仲間達を横目に薄い衾(ふとん)から出て、部屋の中央にある大きな円柱の陰で身支度を整える。

 一度上衣を脱ぎ、寝乱れた肌着を整えて、動きを阻害しない部分に最低限の武装をした後に、小袖と袴を着付けていく。

 襟を整える時に指をかすめた感触に、首に絡み付く首輪の存在を強く意識してしまい、僅かに顔を顰める。普段は最早馴染んでしまって気にしていないが、改めて認識してしまえば不快感を禁じ得ない。


 再びため息を吐いてから、頭を振って立ち上がり、換気と明かり取りの為に部屋の窓を開けていく。

 考えても仕方ないことを考えるのは、時間の無駄だ。


 まだ寝ている二人を避けて寝床の上の窓を開けると、早朝の空気が入って寒かったのか、仲間の一人、若菜(わかな)が身震いをして身を起こした。


「おはよう、若菜」

「お、おは、おはよう」


 まだ眠いのか、橙色に輝く大きな目を力任せにゴシゴシと擦る手を、やんわりと止める。幼い仕草は、若菜がここに連れてこられた九歳の頃のままだ。

 ……あれから、もう五年近くが経っているのに。


 私達は、それぞれ無理矢理拐(さら)われて、この曲輪(くるわ)に連れてこられた。

 違法な人体実験の、被験体として。


 この場所は、元々この国に錬成術をもたらした渡来人の研究施設だったらしい。その始まりの錬成術師……彼自身は錬金術師と名乗っていたらしいが、とにかくその人は亡命者だったらしく、この国に来てからも辺鄙(へんぴ)な山奥に隠れ住んだ。

 やがて彼が亡くなり、その弟子も各地に散逸して無人となったこの曲輪は、どういう経緯なのか今現在は犯罪組織の拠点の一つにされている。


 もっとも、百人もの子供達を使って行われた実験は、ほぼ失敗と言える結果で終わってしまっている。何故なら、ほとんどの子供は死んでしまったので。

 実験と過酷な訓練、犯罪組織内部の勢力争いも重なって、最終的に生き残れたのは、私を含めて四人だけだ。


 若菜の赤くなった目元を撫でて、そのまま黄緑色の髪を手櫛でとかす。


「うん。今日は調子が良いみたいね」


 笑いかけると、首を傾げて笑い返してくれる。その反応に、ほとんど感情が乗っていなくても、笑えることを嬉しく思う。


 約五年前、若菜は瀕死の重症を負った。

 ここの管理を命じられた、犯罪組織の呪詛師が、僻地での滞在を嫌がってこの曲輪(くるわ)そのものを潰そうと企んだせいだった。妖魔の襲撃と、大人同士の仲間割れ。とばっちりを食らった子ども達は、次々と妖魔に殺されていった。

 若菜は、なんとか一命は取り止めたものの、後遺症でいまだに意志と声が上手く出せない。

 生存に必要な最低限の事は出来るし、会話も不可能ではない。指示をすれば、言われた通りの事はこなすことも出来る。

 けれど逆に言えば、それ以外の自主的な反応がほぼ無いに等しい。誰かの指示が無ければ、日がな一日ぼんやりと虚空を眺めていることもあるくらいだ。

 身体では無く、魂に負った傷が治っていないのだろう。


「着替えて髪を結んだら、哲金(あきかね)を起こしてくれる?」

「う、あ、うん。わかっ、た、おねえ、ちゃん」


 お姉ちゃん、と呼ばれて苦笑する。若菜の言動が幼いままなので錯覚しがちだが、私と若菜は、たぶん同じ歳なのだ。私も若菜も誕生日を覚えていないから、正確なところは不明だけど。

 髪をすいた手でそのまま頭を撫でながら、まだ若菜の向こう側で寝ている、もう一人に目を向ける。


 眉間に皺を寄せて寝苦しそうな険しい顔で転がってるのは、薄い金髪の男の子。こちらは誕生日がわかっているので、確実に十四歳。


 本来ならば、血縁の無い十五歳(せいじん)間近の男女が同じ部屋で寝るのは、あまりよろしくは無い。けれど、ここにいないもう一人の仲間を含めた私達四人は、いつも同じ部屋で寝ている。

 理由は、単純に防寒と防衛の為。

 この曲輪は、辺鄙な山中にあるには不釣り合いな規模の施設なので、据え置きの設備は一通りあるし、部屋自体も多い。けれど、施設の規模に対して圧倒的に物資が足りていない。

 つまり、余分な暖房器具どころか、碌(ろく)な寝具も無い。まだ寒さの残る今の時期に、慎みよりも体温という熱源を優先するのは至極当然だろう。


 寝起きの悪い哲金のことは若菜に、若菜の事は起きた後の哲金に任せて、私は階段を上がって上階の窓と扉も開け放った。


 私達が拠点にしているのは、曲輪の中央に位置する物見櫓(ものみやぐら)だ。櫓とは言っているが、ここの造りは極めてしっかりしているので、どちらかと言えば塔と呼ぶべきかもしれない。


 最上階である三階の室内から、外が見渡せる廻縁(まわりえん)へ出て、高い位置から周囲の景色を見下ろした。

見渡せる範囲に不審な倒木や煙、動く影などの異常が無いかを、一周ぐるりと歩きながら確認する。

 見慣れた光景ではあるが、どちらを向いても視界に映るのは、ほとんど木々の群ればかりだ。例外は北の方に伸びる細い街道と、敷地内の巨木の影になって見えない南東方面くらいだろうか。


 外の景色に特に問題が無い事を確認してから、階段を降りて寝床の様子を伺う。若菜が辛うじて座った状態の哲金の肩を揺すっているので、完全に起きるにはもう少し時間がかかりそうだ。

 先に別の日課を片付ける事にして、そのまま一階まで階段を降りていく。


 一階は、寝床にしている二階と比べると、多少は荷物が多くて雑多な印象を受けるが、構造自体はあまり変わらない。天井が高くて仕切りの無い、直径4間(7メートル)ほどの円形の部屋だ。

 こちらも上階と同じ、建物全体を貫く部屋中央の巨大な円柱へと歩み寄り、その根元を補強するように四角く覆っている金属の塊を覗き込む。

 金属塊の表面には装飾があって、多数の円が連なったような模様が彫り込まれている。これは、錬成陣を模した仕掛けで、これを正しい組成式の回路に直さなくてはならない。

 ほぼ毎日していることなので、慣れた手付きで仕掛けを解除すると、微かな解錠音と共に目の前にぽかりと穴が開いた。

 隠し扉だ。


「っ、と」


 身を屈めて足から潜り込んだ穴の中を少しだけ落下する。着地して、柱がある方の壁に手をつき霊力を流すと、ごく僅かな光がぼんやりと灯った。

 うっすらと見える螺旋状の階段をぐるぐると降りていくと、程なく上の部屋と同じ広さの部屋に着く。


 地下に隠されたこの部屋は、一見何も無いように見えるが、部屋全体が大規模な錬成具の一部なのだ。

 錬成陣を視る事が出来る、錬成術師しか理解(わか)らない機構があちこちに張り巡らされている。


「はぁ……相変わらず、緻密な錬成陣だなぁ……」


 感嘆のため息を吐きながら部屋中央の柱に向き直り、部品が欠けたように空いた穴に手を差し入れる。そこから、この曲輪全体の防衛の要(かなめ)となる錬成具に霊力を供給する。

 今の私には、まだこの複雑で精緻な錬成陣の全てを把握する事は出来ないけれど、特に重要な効果については理解している。


曲輪の敷地全体を幻で覆う≪幻影≫

人間の出す、音や匂いといった諸々の気配を隠す≪隠蔽≫

妖魔や、登録の無い霊力に反応する≪警鐘≫


 領主の<聖域結界>に守られていないこの場所で、この三つの効果が正常に機能していないと、昼夜を問わず辺りを彷徨(うろつ)く妖魔に襲われ続ける事になる。錬成具を構成する錬成陣に不具合が無いか、日々の点検は欠かせない。

 不備なく霊力が巡っているのを確認して、点検兼霊力の供給を終える。


「うん、異常無し」


 霊力を大量に放出して多少気怠い身体で、地上への階段を登って行く。階段を登った後は、穴の横にある梯子(はしご)を登って、狭い隠し扉から外に這い出る。


 仕掛けを弄って扉の施錠をしていると、ちょうど二階から哲金と若菜が降りてきた。


「おはよう、姉さん」

「おはよう、哲金」


 青い瞳を細めて笑う顔は、寝ている時の険しい表情とは打って変わって柔和そのものだ。

 そして、哲金もやっぱり、私を姉と呼ぶ。

 私自身、仲間の三人の事は家族だと思っているから、別段そう呼ばれるのが嫌な訳では無い。

 けれど、若菜も哲金も、私より少し……結構、背が高い。外見的には年下に見えるだろう私を、哲金が何故姉と呼ぶのか、かなり不思議に思う。理由を聞いても何故か教えてくれないし。


「若菜も、哲金を起こしてくれてありがとう」


 哲金と一緒に来ていた若菜にも声をかけると、こくりと頷く。今日は反応に遅滞が無いので、本当に調子が良いみたいだ。


 三人連れ立って、櫓を出てすぐ近くの建物にある厨(だいどころ)へと向かう。周囲の哨戒(みまわり)に出ているもう一人の仲間、明黎が戻ってくる前にお湯の一杯くらいは沸かしておきたい。


 竈(かまど)に火を付け、朝食の準備する。水で戻しておいた干し椎茸、干し大根と、昨日収穫したほうれん草の幼葉をまな板で刻んでいく。椎茸は味噌汁の具材、ほうれん草と干し大根は和え物用だ。

 竈の火が付いたら片方に薬缶(やかん)を、もう片方に鍋を置く。鍋のお湯が沸いたら、ほうれん草をさっと湯通して水を切り、干し大根と薬草塩で和えて、こちらは完成。

 お湯が沸いた薬缶も下ろし、代わりに米と雑穀を入れた羽釜(はがま)を設置する。

 もう片方では、昨日採ってきた蕗のとうを少量の油で炒める。これは味噌と混ぜて、お昼に使う分だ。炒め終わった蕗(ふき)のとうを火から下ろし、次は味噌汁用の鍋を設置する。


「哲金、若菜。竈の火の番をお願いしていい?」


 井戸から水を汲んできたり、食器の準備をしていた二人に声を掛ける。

 米が炊けるまでの間に、上から見た時には巨木の死角となってしまう南東方面に異常が無いか確認しておきたい。


「もし私より先に明黎が戻ってきたら、お茶を入れてあげて。薬缶にお湯が沸いてるから」

「了解。残りの水汲みは僕がするから、若菜は竈見てて」

「う、ん」


 厨を任せて、勝手口から外に出た。


 曲輪の敷地にある建物は、中央に位置する円形の櫓と、中庭を囲んだコの字型の平屋の二つだ。建物の無い南側には様々な霊草を植えた広い薬草園がある。平屋の玄関は北側の中央で、厨は西側の棟の奥。建物の周囲には、こちらも薬効のある霊木や霊草が植えられてられていて、更にその周囲を高い外壁が囲っている。


 南東に生えた巨木、総緑樹(そうりょくじゅ)へと向かい足早に駆けていく。樹の下まで来たところで軽く助走をつけて跳び、掴んだ枝を起点に、身体を上に回転させて樹上に上がる。日々の鍛錬のおかげで、手足に霊力を満たして強化すれば、これくらいは私にも簡単に出来る。

 そのまま壁の外が見える高さまで枝を登って行って、高い位置から先程見えなかった場所に異常が無いか、目と耳を凝らして確認する。外壁周辺の開けた場所にも、近くの森の中にも、特に異常は見当たらない。


「うん、大丈夫」


 ひとつ頷いて、枝を伝って下へ降りていく。

 地面まで降りて踵を返した瞬間、外壁の方から何かが降ってきた。


 感じた殺気に咄嗟に飛び退いて、腰の小太刀を抜いて身構える。


ギィンッ!


 金属同士がぶつかる高い音と共に首を狙う斬撃をいなし、相手の力を利用して跳び退くと、身体を捻って先程までいた樹の枝上へと退避する。

 襲撃者と目を合わせ、追撃が無いのを確認してから構えを解き、再度地面へと飛び降りた。


 物騒な挨拶を仕掛けてきたのは、哨戒から戻った仲間、明黎(めいり)だ。

 長い黒髪を雑に括っていて、朝焼け色の美しい紫の双眸は、推定十五歳という年齢に不釣り合いなほどに鋭い。


「おはよう、明黎。おかえりなさい」

「……気配が漏れてやがったぞ。油断すんな」


 返事ではなく注意が返ってきた。どうやら、苦言代わりの奇襲だったらしい。

 口振りからして、私が樹上で索敵をしていた時に、外壁近くに明黎がいたようだけど、全く気付かなかった。

 先程の奇襲の時も、私に気付かせるために、わざと殺気をぶつけてきたのだろう。


 まあ、そもそも、明黎が気配を消していたなら、私が感じ取れるはずもない。私も鍛えてはいるけれど、明黎とは実力が違い過ぎる。

 身長の倍以上ある場所から飛び降りた筈なのに、明黎は姿勢すらほとんど乱れていなかった。そんな規格外の身体能力の持ち主と同等の技量を求められてもなぁ、とは思うものの、わざわざ明黎が指摘してくるくらいなので、今日の私は調子が悪いのかもしれない。


「哨戒は終わり? 何も無かった?」


 さっさと歩き出す明黎を追いかけながら話しかける。歩幅がだいぶ違うので、必然的に私は小走りだ。


「道には人影も野営の跡も無し。大型の妖魔の痕跡も特に無え。ついでに狩猟罠の方も作動してなかった」

「了解、お疲れさま。うーん、お肉はお預けね」


 この辺りは、妖魔が嫌う香りを放つ霊木、護扇樹(ごせんじゅ)を植えている影響で、動物もやや少ない。獲物を獲ること自体はそう難しくは無いけれど、短期間に乱獲し過ぎて動物が更に寄り付かなくなってしまえば元も子もない。

 罠猟は時間の節約と、獲り過ぎ注意に丁度いいのだけど、最近は不発が続いている。


 警戒より食欲を優先したように聞こえたのか、横目で睨まれる。明黎は私達の中で一番警戒心が強く、常に危険に神経を尖らせている。

 私も警戒を怠っているつもりは無いのだけれど、食料の調達具合が気になってしまったのも事実なので、笑って誤魔化す。

 食料が気になるのは、特別に私が食い意志が張ってるとかでは無くて、純粋に食料の備蓄が減ってきているからなので、怒らないで欲しい。


 私達が普段行動可能な範囲は、『曲輪の外壁内の敷地及び付属する畑周辺』の、ごく限られた場所だけだ。そんな狭い範囲の、しかも山の上で調達可能な食糧など高が知れている。

 けれど、私達をここに拐(さら)ってきて押し込めた張本人である頭領か、その手下の呪詛師の許可がない限り、私達はこの範囲から出られない。

 何故なら今も首に巻き付いている、隷属の首輪に掛けられた制約の一つが『指定範囲外への逃亡禁止』だからだ。


 もし禁止事項を破れば、首が絞まって、死ぬ。


 もちろん、座して死を待つつもりは無いから、色々と小細工をして、多少なりとも行動範囲を広げてはいるけれど。それも一朝一夕でどうにか出来るものでも無い。


(……この忌々しい首輪が無ければ、すぐにでも逃げられるのに)


 この曲輪に連れてこられて七年間、ずっとここに囚われ続けている。七年の間に、多くの子供達が拐われてきては死に、頭領と呪詛師もここを去っていった。

 半ば放置されているのに、逃げることは許されない。地下書庫の書物を読み込み、錬成術師として研鑽を積んだつもりなのに、こんな薄い首輪ひとつ外せない。

 何の糸口も掴め無いまま、七年。


「皓理(あかり)?」


 名前を呼ばれて、我に返る。

 足が止まったのを不審に思ったのか、明黎が振り返って立ち止まっていた。


(歩き出す時はさっさと行っちゃうくせに、こういう時はちゃんと待っててくれるのよね)


 いつも通りの、わかりにくい優しさに、ちょっと笑ってしまう。


「何でも無い。早く朝ご飯食べに行こう、お腹空いちゃった」


 どんな時でも、笑えば元気が出る。元気があれば、頑張れる。家族が一緒にいるなら尚更だ。


 こんな場所に囚われていても、一緒に笑える家族がいる事だけは、たぶん幸せな事だ。


 追いついて笑いかけると、何故か明黎は眉間に盛大な皺を作り、急に方向を変えて歩き出す。

 同時に、耳元からコツ、コンッと一定の調子で音が鳴る。音の発生源は、耳に付けた通信の錬成具で、送信者は明黎。内容は『大広間に集合』


「え? 明黎、どうかしたの?」

「どうかしてるのは、お前の方だろうが。何をごちゃごちゃ考えてるんだか知らねぇが、寝ぼけてねぇで、さっさと目を覚まして身体を動かせ」


 言われて、目を瞬く。

 確かに、忘れた夢に引き摺られてすっきりしない目覚めだったけれど、態度に出ている自覚は無かった。


(……でも、確かに少し感傷的になっていたの、かも?)


 改めて思い返せば、どうにもならない事に思考を割いて足を止めるなんて無駄なこと、普段なら絶対にしない。


「……うん。確かに寝ぼけてたみたい」

「先刻の一撃じゃ、お前を叩き起こすには足りなかったみてぇだからな。きっちり叩きのめしてやる」

「あ、うん。お手柔らかに、ね?」


 いつもは夕食前に行う鍛錬は、今日は朝食前に時間変更になるらしい。

 おまけにこの様子だと、かなり厳しい内容になりそうだ。先程集合がかけられた大広間は、主に道場として使っているから、哲金と若菜にも意図は伝わるだろう。

 朝から急な予定変更に巻き込んで申し訳無いが、まあ、二人は許してくれるだろう。

 そこまで考えて、ふと笑い声が漏れた。


「ふふ」


 自分でも気が付いていなかった不調に気付いてくれるあたり、やっぱり明黎は優しいし、当然許してくれると自然に思わせてくれる、哲金と若菜も優しい。大好きだ。


 先刻は少々感傷的に過ぎたけど、感じた想いは嘘じゃ無い。


 明黎と若菜と哲金と。


 大好きな家族が一緒にいてくれて、私はとても幸せだ。


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