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曙光を見出す  作者: 椿榎楸柊
一章 罪の奥山今日越えて

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13. 素材採取

 徐々に日差しが強くなり、暖かい日が増えてきた。隷属の首輪の改造は、全員分問題無く一回目が終わり、今は次に向けて色々と準備をしているところだ。

 今日は、いくつかの素材を採取するために、明黎と若菜と一緒に森に出ていた。

 妖魔との遭遇が確実なので、曲輪内部にいる時の簡易のものと違い、きっちりと武装もしている。


 防具は全員、長手甲(ながてこう)や脚絆(きゃはん)を着けて革足袋(かわたび)を履き、鉢金(はちがね)を額に巻いた上で、更に外套(がいとう)を羽織っている。全て素材から集めて作った錬成具だ。


 明黎の武器は、縄鏢(じょうひょう)という細縄付きの小剣に、腰に差した短刀、投擲(とうてき)用の棒手裏剣などだ。まあ、明黎が使えば、そこら辺の石や蔦でも立派に殺傷力を持つけれど。素手でも強いし。

 対して若菜は、一応、苦無(くない)を持ってはいるが、ほとんど使わない。その代わり、手甲と脚絆が特別製だ。若菜が怪我をしないように、全力でガチガチに強化している。

 私の武器は、左右の腰に差した小太刀と、投擲用の棒手裏剣、予備の匕首(あいくち)、霊薬各種など。両手利きなのと、筋力不足を補うために、手数の多い戦い方を心掛けている。

 ちなみに、今回は留守番中の哲金は、仕込み杖を使う。杖の状態でも、刀としても器用に使いこなし、防御や牽制が得意だ。なのに投擲は苦手で、何故か的に当たらない。なので、投擲武器は持たずに、近接用の小型の刃物をいくつか所持している。


 そんな完全武装状態、ただし背中には素材採取用の籠や道具を背負った格好で、私達は曲輪近くの森の中、正確には森に擬装した、隠し畑の中を歩いていた。


「蕪も南瓜も蕎麦も、よく育ってるね。維竹が少し荒らされていた以外は、順調かな」


 素材採取のついでに、通り道の隠し畑の確認もする。明黎と哲金がいる時は二人が率先して担当してくれるので、私が隠し畑の方の作業をすることはあまり多くない。が、少ない訳でもない。何故なら錬成具の点検があるので。


「畑仕事の方は、俺や哲金でも何とかなる。お前は錬成具の方の確認をしろ」

「うん、わかってる。若菜、ちょっと一緒に居てもらっていいかな」

「うん、おねえちゃん」


 点検中は錬成具の効果を切ることになるので、念のため若菜に護衛をお願いしてから、畑の中心部に設置してある≪幻影≫の錬成具の点検を始める。周囲の風景に同化するような幻(まぼろし)を、一定範囲に映し出すだけの単純な錬成具だが、害獣や妖魔、何より呪詛師からこの畑を隠すのに、無くてはならない大事な物だ。

 幸い、この≪幻影≫の錬成具を作るのに必要な素材は、隠し部屋の地下書庫に大量に保管されていた。曲輪全体の防衛機構にも≪幻影≫が組み込まれているので、その時に使った余りなのだろう。遠慮なく使わせてもらっている。おかげで、隠し畑は今も隠し畑のままだ。


 ちなみに、毒草園にはこの錬成具は必要無い。

 あの場所に生えている霊草は、自らの毒で妖魔を仕留めて捕食する側なので。


「あ。端が少し崩れてきてる」


 畑の中心部に設置してある錬成具を点検すると、本体を保護する箱の一部が腐食していた。吹(ふ)き曝(さら)しの屋外に置いているのだから当然だが、こういう損傷はわりとよくある。最近は、気温も湿度も上がってきたから、他の所もよく見ておくべきだろう。これはまだ錬成具本体に影響は出ていないけど、一旦予備と入れ替えて修繕した方がいい。


「壊れてんのか?」

「ううん、外装が劣化してきてるだけ。でも一旦持って帰って修繕するから、予備を設置するね」

「なら、そっちの筒の方は若菜にやらせろ。時間の無駄だ」

「うん」


 どうやら、護衛は明黎が受け持ってくれるらしい。


「若菜、この水筒の中身を、あっちの地面に固定してある小さい筒に入れてくれる? 零さないようにね」

「わかった」


 水筒の中身は、護扇樹の葉を煮出した液体だ。霊薬や錬成具と呼べるほどでは無いが、妖魔避けに多少の効果はある。

 護扇樹を植樹出来れば一番良いのだが、護扇樹は周囲の植物を枯らしてしまう性質があるため、畑の近くには植えることが出来ないのだ。


 入れ替えた予備の≪幻影≫の錬成具を起動して、問題無く幻で畑が隠れることを確認する。


「これでよし。若菜も終わった?」

「おわった」

「うん。じゃあ、次に行こうか」


 行動範囲を広げるために、わざと不規則に作られた小規模の畑を辿って、次第に曲輪から遠ざかる。何度も曲がりながら半里(約2キロ)ほどの距離を歩くと、似た景色が続くせいで、既に現在地の認識が若干危うい。行動範囲外に近づけば隷属の首輪が反応するので、帰る方向を間違えることは無いのだが、目的地へ迷いなく行けるかは、あまり自信が無い。


「えっと、こっち? で合ってる?」

「違う。そっちには、もう畑が無い。変な所をフラフラすんな。若菜、皓理が迷わないようにしっかり監視しとけよ」

「うん、わかった」


 予想とは少し違う方向を示されて、大人しく明黎に着いていく。方向を把握するのは、どうにも苦手だ。

 そこからもう少し歩いて、目的の場所に着いた。


「ああ、結構いるなぁ」


 視線の先には、小さい鳥型の妖魔が飛び交っている。蜜喰鳥(みつくいどり)という、無属性の、刺突武器めいた嘴を持つ妖魔で、密葉樹(みつようじゅ)という霊木と共生関係にある。言ってしまえば、蜜喰鳥は、密葉樹の守護者なのだ。

 私達の目的は密葉樹の方なのだが、密葉樹に近づけば、当然ながら蜜喰鳥が襲ってくる。致傷力はそこまで高くないが、小さくて、速くて、数が多い。しかも、迂闊に全滅させると、守護者のいなくなった密葉樹が他の妖魔に食い荒らされて、枯れる。継続的に収穫することを想定すると、なかなか扱いが難しい。正直、私一人での対処は無理なので、明黎と若菜に護衛をお願いしている。


「数が増えてんな。なるべく注意を引くようにはするが、ある程度はそっちにも向かうだろ。若菜は皓理をきっちり守れ。そっちにいく奴は、叩き落としていい」

「りょうかい」

「よろしくね」


 明黎が縄鏢を飛ばして、早速一羽を絡め取り、振り回して注意を引く。蜜喰鳥のことは二人に任せて、私は密葉樹の群生場所に駆け寄ると、収穫に専念する。必要分の枝を手早く切り落とし、籠に入れていく。

 当然、密葉樹に手を出す私に気付いた蜜喰鳥が襲ってくるのだが、私に近づく前に全て明黎と若菜に叩き落とされていて、全く危機感を感じない。

 枝が二つの籠に一杯になったら、若菜と手分けして背負って、ひと足先に離脱する。


 蜜喰鳥の縄張りを抜け、妖魔に襲われる心配の少ない、休耕地にしている隠し畑まで駆け戻る。映した幻の中に、必ず私達にしか分からない目印があるので、見分けはすぐについた。

 背中から枝の詰まった籠を降ろして、息を整えつつ、殿(ひんがり)を守ってくれた明黎が戻るまでは待機だ。その時間を使って、適当に突っ込んでいた籠の中の枝を簡単に整え、枝と葉に分けて籠に入れ直す。

 密葉樹は、緑・青属性の霊木で、樹皮や葉が気付薬や鎮痛剤、冷湿布の材料になる他、炭に加工すると、水や空気を浄化する効果を付与出来る。六月になれば、明黎と哲金が旅に出るため、浄化炭の準備は必須だ。


「……無事だな。ほらよ」


 気配を感じさせずに戻ってきた明黎が、何かを放り投げてくる。

 蜜喰鳥の嘴だ。五つある。


「獲ってきてくれたんだ。ありがとう」


 蜜喰鳥の嘴は、加工すると≪風絶(かぜたち)≫という効果を持つ投擲武器になる。私達が使っている棒手裏剣はコレだ。

 残留魔力が減らない内に、急いで素材化の処理をして、汚れを簡単にその辺の葉っぱで拭う。


「お待たせ。次に行こう」

「ああ。若菜、こっちを背負ってけ」

「うん」


 明黎は片方の籠を若菜に渡し、もう片方の籠を無造作に持ち上げて歩いていく。私の手元にある荷物は、蜜喰鳥の嘴だけだ。

 筋力にも戦闘力にも、かなり違いがあるから仕方ないとはいえ、私だけ重い荷物を持たないのはどうにも落ち着かない。無理を通して足手纏いになる気は無いが、もう少し力を付けたいとは常に思う。



 先程とは別方向に進みながら、周囲の気配を探る。

 今探しているのは、風鼯(ふうご)という妖魔だ。この辺りに棲息する中ではそれなりに強力な妖魔で、外見は青灰色の鼯(ムササビ)だ。狡猾で隠密にも長け、頭上から風の刃で奇襲してくる。そこまで頑強では無いので、遠距離攻撃の手段があれば倒せるのだが、不利を悟れば飛んで逃げるし、そのくせ執念深いので、こちらの隙を狙って再び奇襲を仕掛けてくる。ついでに毒が効かない。

 属性は無・青・黒の三つ。肝臓が解毒剤の材料として有名だが、今回は尾骨が目的だ。


 風鼯の尾骨が手に入れば、棘紅の染料と合わせて、隷属の首輪の二度目の改造が出来る。

 主人が従属者に「任せる」という類(たぐい)の言葉を使ったり、三年以上の長期に渡り不在の際は権限を移行する、≪受任≫という効果を追加する予定だ。

 一度目の改造後の経過を見るにあたり、これは問題無く付与出来ると思う。呪詛師がこのまま訪ねて来なかったり、うっかり口を滑らせてくれれば楽なのだが、流石にそれは楽観が過ぎるので、本命の権限移行に向けて、まだ改造を重ねなければならないが。


 木々の間を注意深く移動する。春の盛り。青葉が繁り、木漏れ日が落ちる森は、美しく危険だ。特に今日は妖魔避けの香を使っていないし、この辺りには蟲型の妖魔なども多い。移動だけでも、それなりに神経を使う。


ダンッ!


 一瞬視界の隅を白色が過ったことに反応して、そちらを向いた時には、ちょうど明黎の投げた棒手裏剣が回生蜥蜴(かいせいとかげ)の頭に突き刺さっていた。


「わぁ……流石」


 回生蜥蜴は、攻撃力は弱いものの、再生能力がずば抜けて高い妖魔だ。心臓か脳を一撃で破壊しない限り、切ろうが潰そうが再生し続ける。その特性故に、この妖魔の心臓は回復系の霊薬の素材になる。たぶん、蜥蜴の心臓というのは、元を知られると嫌がられる類(たぐい)の素材だろうけど、今は特に、見つけ次第確保するようにしていた。この前回復薬を作る時に全て使ってしまった、万節苔の代替素材の一つになるからだ。万節苔は海のある地方でしか採れない素材なので、頭領からの配給が無ければ手に入らない。代替素材の確保は急務なのだ。

 回生蜥蜴の心臓を素材化して取り出し、梱包してから胴乱(こものいれ)に納める。解体のために屈んでいた姿勢から、立ち上がるために視線を上げて、それに気が付いた。


「…………うん。ところでさ、明黎は<投擲技>の刻印をいつ手に入れたか覚えてる? 私はどうにも筋肉がつきにくいから、技術で補う方法が知りたくて」

「ア? ……あー、いつも何も、投擲の基礎を俺に教えたのはお前だろうがよ」

「いや、教えて無いよ。一緒に練習してただけで」


 刻印というのは、名前通り魂に刻まれる能力で、己の霊力を効率的に使う為の、道具や道標みたいなものだ。

 例えば<炎術>があれば炎を生み出せるし、<剣技>であれば、剣の腕が飛躍的に上昇する。あればあるほど便利な刻印だけど、その獲得方法は解明されておらず、「本人の魂の在り方が刻印の獲得に影響する」というのが昔からまことしやかに囁かれる言説だ。

 私は<錬成術>を始めいくつかの刻印を持っているが、戦闘に向く刻印は<刀技>だけだし、明黎は<幻影術><縄鏢技><投擲技><格闘技><隠密技>と、五つの刻印がほぼ戦闘・隠密関係なので、本人の適正というのは、確かにあるのだと思う。


 ……でも適正の不利を補うためにこそ、刻印が欲しいんだけどなぁ。


 まあ、欲しいと思ったからといって簡単に獲得出来るようなものでは無い。世の中には刻印が無い人もいるらしいし、哲金と若菜も持っている刻印は、それぞれ哲金が<刀技>、若菜が<格闘技>の一つだけだ。


「それにしても、ほとんど同じ物を食べてるはずなのに、なんでこんなに成長に違いがあるんだろう。明黎も若菜も、また身長伸びてない?」


 話しながらさりげなく動き、明黎に視線で確認を取り、若菜にも手信号で合図を送る。


「あ、う…………しんちょう、のびた?」

「さぁな。身長はともかく、筋力は鍛えれば付くだろ」

「うん、まあ、究極的にはそうなんだろうけど、なかなか思い通りにはいかないのよ、ねっ!」


ドンッ、ガッ!


 近くの樹上に潜んでいた風鼯に、私と明黎が放った棒手裏剣が連続で突き刺さる。

 

「ギイィイィィ!!」


 上手く枝に縫い留めたらしく、風鼯は悲鳴を上げて暴れているが、逃げられないようだ。


 妖魔の中には人間を見つけると問答無用で襲ってくる生態を持った物もいて、風鼯もその性質を持っている。探す時は静かにしている方がいいが、仕留める時は音を立ててこちらに誘導した方が効率的だ。今回は位置関係から私が始めに気付き、すぐに明黎も気付いて会話に乗ってきた。

 若菜も手信号の意味を正確に理解できたようで、ちゃんと会話に参加した上に、今は風鼯のいる樹に一瞬で駆け上がりっている。まだもがいていた風鼯を殴りつけてトドメを刺し、串刺しになった枝ごと降りて……いや落ちてくる。


「若菜?! 大丈夫?」

「だいじょぶ。おねえちゃん。はい」

「あ、うん。ありがとう?」


 若菜は難なく着地して、絶命した風鼯を枝ごと渡してきた。が、重い。すぐさま地面に下ろす。

 思わず若菜との筋力差に思いを馳せそうになって、いやいやと雑念を振り払う。今は集中しなければ。頭の潰れた風鼯の死骸に錬成陣を展開し、残留魔力を変換しながら、尾骨の一つに極限まで霊力を集約する。こういう加工の仕方をすると、他の部位が使えなくなるので、普段はここまでしないのだが、今回は少しでも高品質な素材が欲しい。

 風鼯の尾を切り開き、素材化した尾骨を取り出すと、油紙に包んで収納する。


「おい、他の部分はどうするんだ?」

「今回は全部埋めていくよ」


 普段は解毒剤の材料として肝臓を取り出したり、毛皮を利用したりもするが、今回は使えない。そして、毒蜘蛛を主食とする風鼯の肉は、食べるには適さない。まあ、私たちは全員毒物に耐性があるから、死にはしないだろうけど、よほど飢えない限り毒物を食べたいワケは無い。凄く不味いし。


「早めに見つかって良かったよ。あと二匹、上手く見つかると良いんだけど」

「目星を付けている場所はあと三つあるが、ここ以外は全部、行動可能範囲ギリギリだな。風鼯は群れないし、見つかるかは運次第だろ」


 次の候補地に向かって移動を始めるが、今日行けるのは、時間的にあと一箇所くらいだろう。明黎と哲金が任務で曲輪を出るまで、あと一カ月と少し。そろそろ雨の多い季節に入ることもあって少々焦る気持ちもあるものの、今までとは違い確実に前へと進んでいる実感があった。


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