第12話
十三夜
「お、お嬢様」
壁際からリュシエンヌがささやき声と共に出てくると、テーブルに飛びつきました。
「わたし、お食事をお下げしますね」
トレイに手早く食器類を載せていきます。目のすみで部屋の鍵を探し出し、それも他の食器とまったく同じもののようにトレイに載せます。
「失礼いたします」
一礼すると、リュシエンヌは静かに部屋を出ました。
急ぎながら音を立てないよう扉を閉じ、すぐにトレイを下に置いて鍵を取り上げました。周りに誰もいないのを確認して、鍵穴に差し込みます。
すごい音が出て誰かに気づかれませんように。短く祈って、鍵をひねります。
カチリと小さく金属音がし、ちゃんと鍵がかかったのがわかりました。今のリュシエンヌを見とがめた者もいません。
リュシエンヌはほっとして鍵をポケットに押し込むと、トレイを取り上げました。
厨房からお嬢様の部屋へ向かうと、今度はお嬢様の部屋を整え、思いつく限りの明日の朝の用意をすべて済ませて、扉の内側に身を潜めました。
しばらく待ちます。
なんだかそわそわしてその場をうろうろしたりもしてしまいましたが、辛抱強くこらえていると、やがて足音が聞こえてきました。
リュシエンヌは背筋を伸ばし、すました顔でお嬢様の部屋を出ました。廊下で部屋に向き直り、
「お休みなさいませ、お嬢様」
いつもよりはっきりした声で言って頭を下げ、扉を閉めます。
ちらりと目を向けると、廊下の奥を召使が一人、去ってゆくのが見えました。
あの人、わたしに気がついたかしら。確かめたい気もしましたが、声をかけるのは不自然すぎてかえって不審に思われそうです。
リュシエンヌは静かに自分の部屋へ行きました。
同室のアデールはもう寝間着に着替え、髪をとかしているところでした。リュシエンヌもいつもと同じように寝る準備を整えました。侍女の衣装を脱ぐ時、鍵をどうしようかと思いましたが、取り出したりしてアデールに見とがめられてはいけません。そのままいつも通りに衣装を衣装棚にしまいました。
「リュシエンヌ、今日ね……」
アデールが話しかけてきました。別に何でもない話題で、リュシエンヌも何事もなく受け答えをし、今日は疲れたわ、と言って早々にベッドに入りました。枕に頭を落ち着けたら、同じように枕に頭をのせたアデールが言いました。
「あなた、お嬢様と一緒に公爵様のお屋敷に行くの?」
「さあ、どうなのかしら。わたしが決めることじゃないから」
できればお嬢様とご一緒したいけれど。こういう人事に、召使の気持ちは大事ではありません。
「お願いしてみなさいよ、公爵様に。あなたがついて行った方がお嬢様も心強いでしょう」
リュシエンヌはじっと天井を見上げました。
小さい頃から一緒に過ごしてきた方です。自分にも素敵な人があらわれたら、どれほどお願いされてもお嬢様の元を離れてしまうかもしれない。でもその日までは。
「そうね。今度お願いしてみるわ」
お嬢様も口添えをしてくださったら、あの方はわたしたちの望みを叶えてくださるような気がする。少なくともそうなるように、努力はしてくださる。
「消すわよ」
「うん」
アデールが蝋燭を吹き消し、部屋は真っ暗になりました。
「おやすみ」
「おやすみ」
リュシエンヌは明日にでも早速お願いしてみようと決心し、目を閉じました。
明日は早起きしなくちゃ。




