第11話
客室に落ち着いた公爵様は、傷の手当も受け夕食もいただき、今は去りがたく隣に腰掛けたマリエールと向かい合っていました。
「もう夜も更けました。部屋へお戻り下さい」
マリエールはふるふると首を振り、小さくささやきました。
「もう少しおそばにいさせて下さい」
もう手を取り合えない場所へ去りたくはありません。まなざしを見交わせない隔たりは耐えられそうもないのです。
このままでいたい。
昼間のような危険な場所へフレデリク様を送り出すのは何よりも恐ろしいことで、そんな日がいつかまた来てしまう予感がマリエールの胸を締め付けました。フレデリク様を失いたくない。マリエールは心からそう思いました。
「マリエール」
フレデリク様は困ったような、それでいて愛おしさがあふれるのを隠さないまなざしでマリエールを見つめていました。
「昼間のような決闘になら何度でも挑みます。あなたのために何度でも勝って見せましょう。けれどもわたしは、あなたの涙には勝てない」
言われてマリエールが思わずふふふ、と小さく微笑んでまたたくと、雫がぽろぽろと頬を転がり落ちていきました。
「またあなたの父上の怒りを買うことになるかもしれません」
「その時はわたしも一緒に剣を取ります」
本気でした。彼と一緒なら何でも出来る気がします。
フレデリク様はやさしくマリエールの手を自分の両の手で包み込み、
「頼もしい方ですね」
ささやいて、少しだけマリエールの気持ちを待つような、そんなつかの間を置いて、口づけをしました。
その夜は満月に近い月が出ていました。ちょうど大窓から翳りのある光が静かにそそいで二人を陰の中に浮かび上がらせていました。
まるで世界が魔法にかかったようにマリエールには思えました。
世界中が声をひそめ、ゆっくりとまぶたを閉じ、すみやかに深い眠りへと落ちてしまい、この世で息づいているのはフレデリク様と自分、二人きりになったような。
こんなやさしい夜に、同じ屋敷にいてどうしてフレデリク様と離ればなれにならなければいけないのでしょう。




