第9話
十三夜
公爵様が身支度を調えて中庭に出てくると、ボワエルデュ侯爵家の方々がそろってテラスで椅子に座っていました。侍女に付き添われたマリエールが立ち上がりました。
「フレデリク様。兄は、わたしには優しい兄なのですが、昔は乱暴者で知られていた人で、領地の若者を集めてはもめ事を起こして……」
「決闘相手は、あなたの兄上でしたか」
マリエールは青ざめた顔で頷きました。公爵様は兄上を見やり、マリエールに微笑みました。
「兄上は確かにお強いでしょうが、人々はたいてい身分の高い若君に勝ちを譲るものです」
「フレデリク様は兄をご存じないから」
「兄上が若い頃に学ばれたのは、人を率いる能力でしょう」
それにこの決闘で重要なのは、マリエールの父が納得することなのです。鮮やかな勝利は必須ではありません。兄上もそれをわかっているなら、彼という人がどういう状況でもただ自分の勝利がほしいだけの顕示欲のみの人でなく、兄として妹の結婚を祝福する気持ちでいるならば、難しい決闘にはならないはずです。
と言って、公爵様も自分の読みに安心して油断をするつもりはありません。それこそ、その程度の甘い男と見切られたら終わりなのです。
「わたしも、公爵の責任として自分の気持ちを後回しにしたことは幾度もあります。でもあなたのことは、譲る気はありません」
公爵様はもう一度マリエールに笑みを見せ、家族の元へ戻るよう背中を押してやりました。
マリエールの兄上が、決闘の前に公爵様に握手を求めました。
「ロベールだ、フレデリク殿」
「よろしく、ロベール殿」
ロベールは決闘相手に同情し、それでいて今の状況を楽しんでいる顔で、公爵様に話しかけました。
「申し訳ないね、父の酔狂に付き合わせて。マリエールが結婚するのは、父にしてみればまだ数年先のことだと思っていたのだ。あの子も適齢期を迎えたばかりで、これからじっくりとよい相手を考えてあげるつもりでいたら、その前にマリエールの心を奪った男があらわれた。父親としては、寂しい限りなのだよ。わたしも、同じ気持ちだがね」
はじまりの合図に剣を合わせた時、ロベールがその交わった剣越しに不敵に笑んで言いました。
「フレデリク殿。少し痛めつけられておきなさい」




