第8話
十三夜
ボワエルデュ侯爵家に到着すると、ホールに公爵様一行を出迎えたのはマリエール本人でした。
「お嬢様!」
リュシエンヌがすぐさまお嬢様に駆け寄ろうとしましたが、いつもならお嬢様も侍女へやさしくねぎらいの言葉をかけてくださるのに、この時のお嬢様の一途なまなざしは自分の侍女へは向けられませんでした。
「フレデリク様」
マリエールは両の手をさしのべて軽く駆けるように公爵様へ歩み寄ると、公爵様もその手を受け取り彼女を引き寄せました。そしてその指先に口づけて、マリエールの様子をつぶさに見やり、
「マリエール、さぞ落胆しているだろうと思っていましたが、お元気そうで安心しました」
悲しい思いは確かにその薄茶色の瞳に浮かんでいましたが、マリエールはまだ悲嘆にくれてはいませんでした。
「わざわざいらしてくださり、ありがとうございます、フレデリク様。こんなことになってしまって。父は、時々言い出すと聞かないことがあるんです」
公爵様はマリエールを元気づけるようにその手を強く握り、
「わかっています。とにかく、父上とお話をしてみましょう」
二人は手を取り合い、侯爵様に面会を申し込みました。
マリエールの父が姿を現したのは、公爵様を昼時に三時間以上も待たせた後でした。自分を呼びに来た娘を客間へ戻すこともせず、召使に一切接客もさせず三時間。
公爵様はそこで、苛立って自分の従者に様子を見に行かせることはせずにじっと待ち続けました。
マリエールの父上が部屋へ入ってくると、公爵様はすぐさま立ち上がり、軽く頭を下げました。父上の後からもう一人、青年も入ってきて、父上の脇に立ちました。
公爵様は今日の来訪の意図を告げ、丁寧に述べました。
「先日のお嬢様のご訪問の際、お嬢様に不愉快な思いをさせてしまったことは、わたしも大変残念に思っております。けしてお嬢様や侯爵様をご不快にしようと意図したわけではありませんが、屋敷の者へのわたしの言いつけが行き届いておりませんでした。申し訳ありません」
すると父上は、それ以上の言葉を手で制し、
「いやいや、そのことはもうよい。世間知らずな子供の言動をいちいち大げさに取り上げるほど、わたしは非寛容ではない」
「はい」
「ただ、今日来ていただいたのは、だ」
父上は公爵様を探るように見やりました。その鋭い視線には、これまで領地を手堅く治めてきた者のしたたかな光がありました。口先だけで話の済むような相手ではありません。
「わたしもこの目でしっかりと確認をしたい気になったのだよ。はたしてそなたは、本当にわたしの娘を任せるに足る男なのかどうかを」
公爵様は理解を示して頷いて見せ、次に出てくる言葉を用心深く待ちました。
「イヴォンヌ夫人はなんでも、そなたを試すために決闘をさせたそうだな。そしてそなたはわたしの娘のためなら何度でも決闘をしてみせると豪語したそうではないか」
公爵様もだいたい、次の展開が見えてきました。
父上の隣に並ぶ青年をちらりと見ると、少年の頃から剣の技を鍛えてきたとうかがえる体格のよい青年で、表情にもすでに話を承知しており、充分に腕に覚えのある自信と余裕がうかがえました。
「男二人が剣を交えた結果は、神聖な神の裁きに等しいと言う。そなたがご自身で、ご自分をわたしのマリエールにふさわしい男と証明してみせたならば、わたしも神の裁きを受け入れよう。いかがかな?」




