第5話
十三夜
「あの、お嬢様……」
リュシエンヌはお嬢様の朝の身支度を手伝いながら、ずっとどうしようかと悩んでいました。
自分の告白を聞いたら、きっとお嬢様はがっかりして、失望のあまりリュシエンヌのことを大嫌いになられるかもしれません。お嬢様とこれまでずっと結んでいた友情と信頼を失うのはとても悲しいことです。
でも、言わないままでいるうちに事態が修復できないところまで行ってしまい、自分にもお嬢様にもどうにもできないことになってしまうかもしれないのです。
リュシエンヌはお嬢様のために勇気を奮い起こしました。
「ご、ごめんなさい、お嬢様。わたし、昨夜、旦那様に、言ってはいけないことを言ってしまいました」
マリエールは驚いて自分の侍女を振り返りました。
「どうしたの、突然」
「わ、わたし、昨日のご訪問のことで、旦那様に」
侍女のせっぱ詰まった様子に、マリエールは彼女を椅子に座らせ、自分もその隣に腰掛けて、続きを促しました。
少し気持ちを落ち着けたリュシエンヌは、昨夜旦那様にすべてを報告するよう命じられ、思ったことをすべて正直に語ったと告白しました。アンリのことを悪く言ったと。
「だってあの子の態度はあまりにも目に余るものでしたわ。だからわたし、旦那様にすべてを包み隠さず言うようにと命じられて、ありのままに語ったのです」
もし公爵様のお屋敷へ別の者が同行していたとしても、アンリのことは同じように悪い印象だったと報告すると、リュシエンヌは思うのです。
「まあ、アンリは、そうね、わたしも、仲良くなるのは難しい人だったけれど」
「そうですよね! あの子、分別ってものがありませんでしたものね!」
リュシエンヌはお嬢様の同意を得て心強く言い切りました。マリエールは言いよどみ、
「けれども、アンリはいずれ成長されて、小領主としてフレデリク様の騎士の一人となる方です。フレデリク様には若い頃からアンリと絆を結んで、いざという時には頼もしい騎士となってもらわねばならないのです。わたしへの振る舞いにちょっと不都合があったくらいでフレデリク様がアンリをお屋敷から追い出すことは、できないのですよ?」
「はい。わかります」
リュシエンヌはちょっと口を曲げました。
「でも、わたし、どうしても我慢できなくて」
「リュシエンヌ」
マリエールはしょんぼりする侍女の肩をそっと抱き寄せました。
「それで、お嬢様……」
リュシエンヌにとって、この先の話題がもっとも口にするのも恐ろしい事柄でした。きっとお嬢様を悲しませるだろうと思うと、自分も悲しく、お嬢様が自分をどう思われるか想像するのも怖くて仕方ありません。
「そのわたしの話に、旦那様がとても立腹されて……」
マリエールが侍女に寄せていた体を離しました。深い気懸かりに曇ったまなざしで、自分の侍女の次の言葉を待つのです。
「お嬢様と公爵様の、ご婚約を……」
リュシエンヌの目から思わず涙があふれました。
「ご婚約を、解消すると、おっしゃられて……」




