第3話
十三夜
「あの若造は、マリエールを大事にしてくれそうか?」
その夜、マリエールお嬢様の侍女リュシエンヌはボワエルデュ侯爵に呼びつけられて、公爵様のお屋敷での出来事を事細かに報告するよう命じられました。
リュシエンヌは公爵様ご本人や宮宰や従者や召使たちの態度は大変に満足のいくものだったし、公爵様もマリエールお嬢様を心から大事に思っていらっしゃる様子があふれていて、わたしも幸せな気分でしたと報告をしました。
「ですが……」
と、彼女は顔を曇らせ、不愉快な気持ちも正直に付け加えました。
「あちらの小姓の方は、てんで躾がなってないんですのよ。お嬢様に馴れ馴れしい口をきいて。とても無礼なんです。わたしがそれを咎めたら、まるでわたしを蔑むような目をするのです。あんな子がいたのでは、お嬢様が本当にお幸せになれるかどうか、わたしはとても不安です」
それを聞いたボワエルデュ侯爵様は、ぽんっと膝を叩いて椅子から飛び立たんばかりに立ち上がりました。
「やはりそうか。わたしの大事なマリエールの心を奪っただけでも許し難いというのに、あの男はやはりそういう、表と裏のある男だったのだな」
侯爵様も自分が何を言っているのか、充分その理不尽さを分かっています。
しかし、未だ癒されない娘を奪われた父親の傷心が、ずっとあの男をこの世に二人といない大悪党に仕立て上げたいと待ちかまえていたのです。
だから侍女の報告は、まるで熾火のくすぶりに真新しい薪がくべられたにも等しく、侯爵様はごおごおと反感の炎を燃え上がらせたのでした。
「うむ~。マリエールに拗ねられてつい許してしまったが、やはり駄目だ。あの男はわたしの大事な娘にはふさわしくない。マリエールの婚約は解消だ!」




