第2話
十三夜
アンリは急いで使用人棟へ駆け戻り、忙しく立ち働いている人々の間から執事のウジェーヌ・ドゥリヴォー氏を見つけ出し、袖を引いてすみに来てもらいました。自分たちだけがわかっていればよいことで、これは他の下級召使たちの耳に入るべき話題ではないと判断したのです。
「今、マリユスが来てるんですよ」
ドゥリヴォー氏は一瞬眉を上げました。
「それが変なんですよ。あいつのこと、カヴァルカンティさんったらめちゃくちゃ丁寧にもてなしてさ。あれじゃまるでどこかのお嬢様だ」
「そうですよ。あの方は、ボワエルデュ侯爵様のご令嬢、マリエール様です。アンリも粗相のないよう気をつけなさい。公爵様にとって決して無礼があってはならない方ですから」
「はあ?」
アンリはいやいや、と首を振り、
「ボワエルデュ侯爵様のご令嬢? 何言ってるんですか? あいつは、」
しばらく前にうちで小姓やってて、奥様のところにもらわれていった子じゃないですか。
しかしアンリがそれを問いただす前に、
「アンリは公爵さまにお使いを頼まれていたはずです。すぐに行きなさい」
ドゥリヴォー氏は人に呼ばれてそちらに戻ってしまいました。今は皆、大事なお客様のおもてなしで忙しいのです。
「ちょっとさあ、ドゥリヴォーさんもちゃんと本当のことを言ってくださいよ。あいつはあの、ちょっとのろまのマリユスしょ?」
アンリは辺りをくるくると見回しました。誰もが自分の仕事に、何の疑問を持った様子もなく専念しています。 アンリは唖然茫然です。
「みんな、どうしちゃったんだ?」




