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御者の葛藤  作者: 猶崎 迅


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失いし日 〜その2 【オーウェン】

あの日の昼過ぎ、護衛隊の班長たちが招集された。今朝方、全隊員の前で告げられた家宅捜索の件だと思って集まった我々に、ソフィアは手短に告げた。


「明日の朝を予定していた手入れだが、今夜決行する」


朝令暮改どころか朝令昼改である。驚いて目を丸くしていると、ソフィアが困ったような、哀しいような、複雑な表情でこちらを見た。


「告げ口に行った困った男が居たのです。オーウェン隊長」


それが誰のことを指しているか判ってしまった。また君は彼を断罪するのか。また俺は君に断罪させてしまうのか。


「隊長。彼を受け入れた貴方は正しい。でも正しいことが受け入れ難い場合もある。

彼のことを思うなら、この任務にだけは連れて来ない方が良かったのです。

例え彼が貴方に見捨てられた気分になったとしても、その方がましだった」


見習い文官として出会った娘が自分の持ち場で護衛隊を必要とした時、私は真っ先に手を挙げた。幼い頃から大人の中で責任を負わせてきた側の責任として、当然のことだと思ったからだ。一方で刑罰は社会的赦しの代償であるべきだと考えていた。そうでなければ刑罰を受けた意味がないからだ。だから服役を終えたかつての副官を部下として迎え入れた。正しいこと同士が両立しない。

それが俺には切なかった。


「彼は急襲班に入れます。時間まで、彼を見ていて下さい。オーウェン隊長」


今でも考えている。あの時、公邸を守る人数が少ないのを知っていたのは誰か。そしてソフィアが公邸に居ないのを()()()()()()のは誰か。

知っていたのなら、当然出先を襲っただろう。その方が邸を襲うよりずっと容易なのだから。


両方を知っていたのは、まず宿直班だ。いるべき者がいなければ自然に判ることだから。急襲班のもう半分、マティルダの班は知っていたようだ。文官の中に紛れたソフィアが現れても、誰も驚いた様子がなかった。当然、当夜家宅捜索に参加していた文官たちも知っている。

逆にそれ以外の者は、急襲班が出立するまで殆どが両方を知らなかった。彼も知らなかった。仮に知っていたとしても、誰にも告げられなかった。それは俺自身が見届けている。ソフィアの不在に至っては、急襲班である俺たちすら途中までは気付かなかったくらいだ。公邸からの見送りの中にレオがいたから、ソフィアも当然公邸に残っているものと思い込んだ。

弓矢を用意し、人数を集めるには相応の時間がかかる。出立から公邸襲撃までの時間は短かった。急襲班の出立後に公邸の守りの薄さを知らせては遅すぎる。急襲を事前に知っていたのは5人の班長。そのうちソフィアの不在を知っていた2人は斃れ、俺は内通者ではない。もしかすると当夜は非番だった文官2人も、急襲は知っていたかもしれない。それでも容疑者はたったの4人だ。

そこから容疑者が絞れない。俺に絞れずとも、ソフィアにできないとは思えない。


何を見落としているのか。何が間違いなのか。答えが出ないでいる。

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