客人【ジョゼ】
小隊長と彼の部下たちが帰ってから、屋敷はすっかり静かになった。 彼らは騒がしい訳ではなかったのだが、揃ってでかい男たちは気配がうるさかったのだと、いなくなってから気がついた。東の集落からやってきた下働きのポールとメグ夫妻は敷地内の別住居に住んでいるし、新しく料理人になったコリーはにぎやかな男だが、通いだから夜はいなくなってしまう。
屋敷は1人で番をするには広すぎて不安が募り、眠れなくなった。風の音にも飛び起きて屋敷の見回りを始める姿をみかねたのか、お方さまがガチョウの群れを飼い始めた。ガチョウたちは普段からグワグワ賑やかだが、見慣れぬものが近づこうものなら大変な騒ぎになる。それはそれはすごい騒ぎなので、ガチョウさえ静かなら安らかに眠れるようになった頃、フットマンと侍女を連れたいかにも高貴な身なりの女性が黒塗りの馬車に乗って屋敷を訪れた。
「お久しゅうございます。次官。エイダさんとルースさんも」
客人に興味津々な様を隠せないコリーが後ろ髪を引かれつつ帰って行ったあと、女性がにっこりとそう言った。
「ジャスミンを遣すとは、領宰も念の入ったことだ」
お方さまが半笑いだ。フットマンも御者も騎士団の先輩だったし、侍女は何とビー小隊長だ。厳重な護衛具合に驚いていると、ルースさんがこっそり教えてくれた。
「ジャスミン様は、バートン様のはとこに当たる方よ。東の領主の直系ね。
ナサニエル様の亡くなられた奥方様の姪でもあるから、今は義理の従姉でもあるわ」
先代領主ナサニエル様と当時の東の領主の孫に当たる奥方様との婚姻披露の席で、ナサニエル様の妹君と奥方様の従弟が出会い、後日生まれたのが現領主のバートン様である。一方のジャスミン様は、奥方様の妹の娘であるそうだ。義妹が義従妹で、はとこが義従姉。複雑な家系図である。
まぁ、どちらにせよ領主一族の出身の方だ。護衛が厳重なのも当然だし、生まれながらに高貴な振る舞いが身についた客人は「託宣を求める者が遠方から招きに来るほど高名な巫女」と言う設定の補強になるだろう。
「それにしても、ビーが来たのにブラッドは一緒じゃないんだな」
「アレは目立つので」
ビー小隊長はそっけない。先輩たちが笑っている。
「団長を置いてくるのは骨が折れました」
「子どもたちがいるんだから、どちらかは残らないとダメだって小隊長が」
「アンタに侍女が出来るのか?って詰めたら、ようやく諦めたよ」
溜め息をつくビー小隊長と、笑い声を上げるお方さまとジャスミン様。
「ん?お方さまとジャスミン様はどう言う関係なんだ?」
「勿論、上司と部下よ。あの子、この領地の在り方を聴いて憧れてたみたいで。成人と同時に家を飛び出してこっちに来ちゃったのよ」
行動力がありすぎるわよね、とルースさんが笑っている。おっとりしたご令嬢そのものに見えるのに、人は見かけによらぬものだ。
「それで?設定の補強のためだけにこんなとこまで来た訳じゃないよね」
「勿論です。御前会議への召喚状をお持ちしました。帰還の護衛も兼ねています」
「…その手で来たか」
ジャスミン様の笑顔の圧が強い。その晩は、お方さまが頭を抱えると言う珍しい光景を見たのだった。




