表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
CORRECTORS ~生きた異物~  作者: 新楽岡高
第十章 斯くして人は消えた
493/565

第五話 朱塗りの記憶②

◆◇◆



 松ヶ崎市の中心市街地にあるショッピングモール、「オメガ」。その屋上駐車場では、激しい戦闘の余波で幾つもの車が大破していた。

「責任の取り方を教えてやるよ、“アーベント”!」

「ちっ……ここで君達にかかずらっている余裕はないというのに!」

(やかま)しい、こっちにはあるんだよ、責任追及の必要性がね!」

 風が俺の頬を叩く。

 息も詰まりそうなくらいの風圧だが、知った事では無かった。ここで攻撃の手を緩める訳にはいかないからだ。

「テメエらのやった事だろう!? 自分でやっておいて責任も取れませんじゃ、話にもなりやしねえ!」

「……耳の痛い事だ。しかしだからとて、ここで君達の自己満足に満ちた裁きとやらを、甘んじて受けるつもりはない」

「散らかしたら散らかしたまま、放置するってのか!? どこまでも身勝手で無責任な奴らだな!」

 頭上に魔力を集結させて、赤葡萄酒色(ワインレッド)をしたハンマーを形作る。それだけで“アーベント”は威力を想像したのか、血相を変えて後退していた。

「正気か君は? 下手をすれば建物を壊し、無関係の一般人を巻き込むぞ?」

「今の俺達の足元は強力な結界に覆われている。簡単に破れそうにも無いのは、アンタらだって分かってんだろ?」

 宙に浮いた巨大なハンマーは、俺の意志に従って独りでに振るわれる。風圧などものともせず、水流による軌道の逸らしも大した意味を為さなかった。

 何故ならそもそもが大きいので、攻撃範囲が広いのだ。

「ちっ……どうする“アーベント”!? ここは分が悪過ぎる! 一旦退くべきじゃねえのか?」

「分かっている、だが……この状況でどうやって被害少なく撤退出来ると!?」

 緑髪の男――“ゼー”がポーチから取り出した種子が、瞬時に発芽して、ハンマーを絡め捕る。

 それによって強引に軌道を逸らされ、惜しくもハンマーによる一撃は誰も捉えられなかった。強固な結界に直撃した事で硬質な音が辺りに響き渡り、俺の思考が強烈に揺さぶられるのだった。

「堅いな、この結界……! 頼もしいやら、憎らしいやら」

 強烈な反作用が頭痛を(もたら)して、ハンマーのイメージをボロボロに崩してしまい、途端に赤葡萄酒色(ワインレッド)の魔力は霧散してしまった。

 (もや)状になったそれを手元に引き戻しながら、俺は状況を見渡し、整理する。

 現状、(ノクス)は三人。“アーベント”、“ゼー”、“クリュザンテーメ”だ。もしかしたら他に伏兵が居るかも知れないが、この期に及んでまだ出てこないとは考えにくい。他の者は動けないのだろう。

 対するこちらは俺と吉政、そしてコンスタンディノスが前衛。後方にはヘンリーとローダが狙撃手として控えている。数の上でも戦術の幅でも、こちらの方が圧倒的に有利だ。

 もし万が一不利な状況に陥ったなら、プサッフォーに頼んで瞬間移動で後退すれば良い。

「簡単に逃げられると思わない事じゃな!」

「ぬはははは、我が剣の切れ味をその目に焼き付けよ!」

 吉政とコンスタンディノスの二人が振るう得物は、どれも黒い刀身を持つ。魔力に対する抵抗力を持つコーティングが施されているので、能力者相手でも十分な脅威となっているらしい。

 今も、“クリュザンテーメ”と“ゼー”が苦い顔で攻撃を躱し、反撃の隙を窺っている。

「どうした、植物男! お得意の植物も、根を張る場所がなくば役立たずも良いところだな!」

「あーらら、バレてんのか。首狩り蛮族に見えて、意外とよく見てるじゃねえの」

「先程から、種を取り出して発芽させてはすぐに枯れて……それを繰り返し見せられているのだ、気付かぬわけがなかろうて!」

 今も、急速に成長して巨大化した蔓が、一瞬にして枯れて塵になっていく。魔力によって一時的に維持が出来ても、根が張れないのでは長く持たない様だ。

「コンクリートならまだしも、足場が結界じゃ、どうしようもねえ……」

「……水草の種、持ってない? 私の水の中で育てれば」

「お前の水は重水だろ。植物なんざ育たねえよ。冷静になれ“クリュザンテーメ”、らしくねえぞ」

 見るからに分かる。確実にこちらが“ノクス”を追い詰めている。勝てる、今日こそ。完全な勝利が手に入る。こいつらを倒して、それから中に取り残されている人たちを助け出す。

 これでもう、こんな連中に街を好き勝手させずに済む――!

 徐々にアーベントらの逃げ道を奪いながら、その確信から達成感を覚え始めてすらいた時だった。

 突風が、俺を吹き飛ばして強引に距離が開いた。即座に体勢を立て直しながら視線を離さずにいると、“アーベント”はその三白眼で真っ直ぐ俺を見据えて口を開いた。

「……一つ、私から提案がある」

「この期に及んで命乞いか? 見逃してなんざやらないよ。アンタらはそれだけの事をしたんだ」

「提案だと言っている。君達にも、この結界を破る手助けをして欲しい」

「何を言い出すかと思えば……」

 鼻で笑って見せながら、微かに俺の心が動いた。

 この足元に広がっている結界はショッピングモールを覆い、内部の状態が一切分からないまま既に三十分ほどが経過している。

 しかも、百鬼(なきり)組の人間だってそこに取り残されているのだ。もしも危機的状況に陥っているのだとすれば、すぐにでも助け出したいと思うのは当然のことだった。

「まあ待てよ。この結界を破って中に入るのは、お前らにとっても有益な筈だ。俺は知ってるぜ。仲間が二人ほど、取り残されているんだろ?」

「……!」

 “アーベント”の言葉に続いて、“ゼー”が発した言葉に、俺は弾かれたみたいに顔を向けた。

 それがこの上なく分かり易い反応だったのか、“ゼー”はしたり顔になって話す。

「攻撃がいつになく荒っぽいのも当然だよな? 中で何が起こってるのか分からないんだから、不安から苛立ちもする」

「……それで、何だというんだ?」

「ここは大人しく休戦協定と行かないかね? お互いに、中で取り残された奴の救出を最優先目標にしてるんだからさ。こんな事をしている間に、お仲間の身に何かあったら嫌じゃね?」

 どうだ? とわざとらしく肩を竦め、片方の眉を上げて見せる“ゼー”は、演技なのか本心なのか分からないが、余裕そうに見える。どっちにしろ、この状況でその態度が取れるのなら大した胆力であった。

「別に同盟を結ぼうって言ってる訳じゃねえ。戦闘に割いてる人手を救出に使おうってだけだ。中にはどれだけの一般人が取り残されている事やら……その対処でてんやわんやになるだろうなあ」

「……結界を仮に突破できたとして、お前らと手を結んでいる警察が救助に動かないなんて事があるのか?」

「そりゃ動くだろうさ。でも内部がどうなってるか分からないんだ。魔法も使えない警察が対応したところで、対応力はタカが知れてると思うぜ?」

 こちらの質問に対し、全く考える素振りも見せないで即答してくる“ゼー”は、頭と舌が良く回っている証なのだろう。

 俺の横に立つ吉政が、苦々しい顔をして「胡散臭い男じゃな」と嫌悪感を露わにしていた。

 でも、そんな彼の提案を即座に切って捨てられる程、俺は思い切りが良くない。判断に迷って、俺はより上位の者へと決断を仰ぐのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ