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CORRECTORS ~生きた異物~  作者: 新楽岡高
第十章 斯くして人は消えた
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第四話 折り重なった抜け殻④

◆◇◆



突如として黒く覆われたショッピングモール“オメガ”は、入る事も、出る事も出来なくなっていた。そもそも、その建物の内部の様子を窺い知る事も出来んないのだ。

 おまけに連絡すら取れないとなれば、内部との連絡手段は完全に断たれたと考えて良いものだった。

 野次馬の中で、俺はマイクへ向かって怒鳴った。

「何とかならないか、オーバン! 中にはまだ(こがね)さんと大手(おおて)さんだっているんだぞ!?」

『軽々しく言わないでくれ。結界なのはすぐ分かるが、それを解析するのにだって時間が掛るんだ。おまけにこの術式……かなり古い。“ノクス”の仕業じゃ無い事だけは確かだよ』

「“ノクス”じゃない? じゃあ、一体誰の仕業なんだ?」

 思ってもみなかったオーバンからの指摘に、俺は当惑した。“ノクス”でないとしたら一体誰が、何の目的でこんな事をしたのか?

 百鬼(なきり)組の人間を外に出さない為なのだとしても手が込み過ぎているし、警察だってそんな事は許さないだろう。

「こんな事になるなんて、警察と“ノクス”は、中で何をやってたんだ……?」

「どうやら、“ノクス”が増援を呼ぶつもりだったらしいぞ。向こうの世界からな」

「増援? ……って、貴方は」

 横から入って来た男性の声にハッとして振り返ってみれば、そこには見覚えのある男性が一人立っていた。

月夜野(つきよの) 和馬だ。繋がりを気取られると面倒だ、余りこっちは見ないで貰おうか」

「失礼しました。……それで、増援っていうのは」

 彼は言ってしまえばスパイのようなものだ。実際、警察官である彼は、その内部情報をこちらに流してくれている。

 前任者だった吉門(よしかど)さんという人は殺されてしまっている辺り、危険度の高いものである事は疑いようがない。

「増援は増援だ。“(ひずみ)”がどうのというのは、俺よりもそっちの方が知ってるんじゃないか?」

「あんな所で……?」

「ああ、こんな人気(ひとけ)の多い場所でな。特務課や“ノクス”がここでゴソゴソやっているから実際に探ってたんだが、そういう事だったらしい。盗聴なんかも駆使して突き止めたばかりの情報だ。ノクスも警察も、想定外の事で混乱しているらしい」

 互いに互いの顔を見ないで、野次馬として黒く染まった建物を眺めている群衆の一人を演じる。

「父さんにその情報、まだ伝えてないんですか?」

「“ノクス”がここで何か企んでいる事だけは先に伝えてある。もっと深く探ろうと思って、中に入ろうとしたらこれだ」

 運が良いのか悪いのかと、月夜野は苦笑しているらしい。野次馬の騒めきはその大きさを増し、中には写真を撮る者すら出始めていた。

 この分では騒ぎはもっと拡大してしまう事だろう。何か手を打ちたいところだが、情報化社会となって誰でも情報発信できる現在では、それを防ぐ手立てなんてありやしなかった。

「能力者の存在がそのうち、明るみに出るかもな? そうなったら百鬼(なきり) 護、お前はどうする?」

「そんな事態には是非ともなって欲しくないんですがね。そうなるんだとしたら、能力者が実験体扱いされる様な事態を防ぐために動きますよ。必要なら保護だってします」

「御大層な事だ。その言葉をどこまで実現できるか、見物だな」

 俺の言葉を本気に取っていないのか何なのか、彼は軽く笑うだけだった。そしてそれから、一旦区切った話題を転換する。

「この状態、中には入れるのか?」

「今、解析中です。まさか入る気ですか?」

「入れるならな」

「駄目です」

 思ってもみなかった事を言われて面食らったが、それでも即座に却下の意を示す。それから間を置かず、その理由も述べておくのだった。

「恐らく父だって許可しないでしょう。こちらとの繋がりが露見する恐れだってある上に命の危険も高い。中で何が起こっているかも分からないんですよ?」

「魔力くらいなら見えるぞ、俺の目で」

「その程度で切り抜けられると思わないで下さい」

 ここまでばっさり言ってしまうのは酷かと思ったが、この人の場合これくらい言っても大人しく従うか怪しい気がした。

 そしてその予想は的中していて。

「人並み以上に戦えるぞ、俺は」

「でも所詮はただの人でしょう? 岩を砕く力がある訳でもなく、空を飛べるわけでもない。そんな人を連れて行く事は出来ません」

 尚も食い下がろうとする彼に、俺は泣く泣く追い込みをかける。俺としては、彼の気持ちだって分からないでもないのだ。実際に父の指示も無視して行動した事もある。

 だから、自分だけ蚊帳の外が許せない。今、俺の横でおろおろしている綾音だって、それが原因で色々巻き込まれてしまった。

 そんな事もあったから、ここできつく言い含めておかなければならないのだ。

「とにかく、今の月夜野さんでは危険すぎます。絶対に俺達との同行は認められません。もしもその身に何かあったら、俺は父さんになんて説明すれば良いんですか」

「高校生の君に責任を負わせる気はないぞ」

「俺が俺を許せなくなります。これ以上の犠牲は出したくないんですよ、俺の前で」

 手の中で消えていく人の体温と、命。

 吉門 海斗という人の死を看取る事しか出来なかった無力感は、もう二度と味わいたくなかった。自分と関わってしまったばかりに、失わなくて良い命を失うなんて、あって良い筈がないのだ。

「……月夜野さんは父さんへさっき掴んだ情報の連絡をお願いして良いですか? 俺は既に端末が通話中なんで。それに俺や綾音が電話するより、月夜野さんの方が正確に伝えられると思います」

「ああ、分かった」

 俺の気持ちを汲んでくれたのかは知らないが、月夜野はそれ以上食い下がらず大人しくこちらの指示に従ってくれる。

 比較的冷たい態度が多い人だと聞いていたが、話に聞くより優しい人なのかなどと思っていた、そんな時。

「……っ!」

「どした、護?」

「“アーベント”だ。アイツ、何しにここへ来た……?」

 群衆は目の前の黒く覆われたショッピングモールに目がいってしまって、上空のそれに気付いた者は居ない。仮にいたとしても、それは極少数だ。

 俺が気付いたのだって、特に理由はない。偶々なのだから。そして、偶々だからと言って見過ごせるものでは無くて。

「悪い綾音、俺は暫く話せなくなりそうだ。説明は頼むから、俺は動く」

「え、ちょ、ええ!?」

 事情説明を綾音に丸投げして、俺は人混みを掻き分けて、人気(ひとけ)の少ないところを目指していた。そうでなければ、能力(ちから)を行使して目撃されてしまう可能性が高くなってしまうからだ。

「連中にとっても想定外だろうがなんだろうが関係ねえ。こんな事態を引き起こしたんだ、説明と責任を果たして貰おうか」

 赤葡萄酒色(ワインレッド)をした魔力を脚中心に纏わせて、俺は跳躍する。目指すは、黒く覆われたショッピングモールの、その屋上だ。

 罠の可能性は薄いだろう。向こうも狼狽するような状況で、こちらを嵌めるなんて真似をするとも思えなかった。

「無事でいてくれよ……!」

 (こがね)さんと大手さん。それに、まだ外に出ていなければ長崎 慶司たちも中にいる筈だ。内部で何が起こっているかは全く分からないが、とにかく全員が無事でいてくれる事を願うばかりだった。



◆◇◆


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