第四話 望まぬ再会、再戦④
「あれが……」
「そう言う事だ。意外と年季入ってるよな。どうも、元々別の施設だった物を改築したらしくてよ。中は割と綺麗だぜ」
まだまだ、建物まで距離はある。
木の隙間から見えるだけだし距離もあるものの、それでも俺達は念の為に身を屈めていた。
建物の周囲は川が流れており、見た感じでは中洲とでも言えるような場所に立っているらしい。
「大雨とか降ったらどうする気なんだ……?」
「そうなっても平気なように盛り土をして護岸工事までしてあるのだろう。恐らく、見た目以上にしっかり基礎工事もしてあるはずだ。水量も、ここまで来ないと言うところを想定しているのではないかな」
「……であるのなら、難攻不落と言える館じゃな、あれは。川の中州にあるのなら、進むにも引くにも障害となる。水深も決して浅いとは言えない、だったか?」
両岸には橋が渡されている。そしてそこを通る者がいないかを見張っているのか、手を後ろに組んだ警備の者の姿を確認できる。
「その通り。俺が透明化して潜入しようにも苦労したぜ。水の流れと深さもそうだが、透明化してたって水を掻く音はするし、水流に影響も出る。監視カメラもあるし監視の人間もいるから、それを悟られるのは絶対に避けなくちゃいけない」
「橋は吊り橋だから、透明化して渡ろうにも揺れてしまってすぐばれる恐れがある……か。逆にお前はどうやって一回潜入した?」
これだけ厳重な警備体制を取られているというのに、紅床は透明化能力を駆使して前に潜入に成功している。
そうであるとすれば、やはり突破する手立てはある筈だと、俺が問うてみる、が。
「気合いだ。透明化した状態で夜明け前の糞寒い夜に川に入って、くしゃみ堪えて、低体温症になりかけながら川を渡ったんだ。で、震えながら朝になって人が出入りを始めた時に一緒になって潜入した」
「危険すぎだろ馬鹿かお前」
余りにもアテにならない作戦内容が返って来て、俺も迅太郎さんも、誰もが呆れた顔を作っていた。
「そりゃ孫臏さんも現地の細かい情報と、俺達から見た地形に関する意見を求めてくる訳だ。紅床の作戦は奇策にも程があるからな」
「奇策って言うか……気策っていうか……気合で何とかしようとするのは不安定だもんね」
呆れ一色の言葉を漏らす迅太郎さんに、俺も同意を示して追従する。
「因みに参考までに訊くんだけど、コンスタンディノスさんなら、これどうやって潜入する?」
「奇策潰しの布陣の館であるのなら、ここは真正面から潰しに掛かるのが良いと思うが?」
「潜入についての話を聞いたはずなんだけど?」
おかしい。会話が成立していない。どういう事だ。コンスタンディノスに訊ねた俺が間違っていたという事なのか。いや、何となくこんな答えが返って来そうな気配はしていたけれども。
「毛利さんはどうする?」
「うむ……オーバンの能力を駆使して、穴を掘るのはどうか? 地下から攻めれば敵も気付けまい」
「地下か……確かにオーバンの能力なら可能かもな。奇襲効果としても絶大なんじゃねえ? オーバン的には?」
「厳しいな。そんな大規模な術式を行使構築するとなると手間も魔力も掛かる。三日四日では終わらないのは間違いない」
その返答に、俺も迅太郎さんも穴掘り作戦を断念する。時間が掛かり過ぎると、それだけ松ヶ崎の百鬼組の戦力が手薄になる期間が長引くのだ。そんな危険な状態の継続を許容できる筈がなかった。
「マモルはどんな作戦が良いと思う?」
「俺? んー……俺の能力で空に足場を作って、上空から夜に乗じて潜入、とか?」
「……君の能力は本当に便利だな。空から潜入する選択肢を取れるのは、反則級じゃないか?」
「反則だろうが何だろうが使えるもんは使わないとな。それに今は競技をしてる訳じゃない。どんな事をしたって敵を出し抜かなくちゃいけないんだ」
助けると決めのだ。その為には、“ノクス”の人間が命を落とそうとも辞さない。だってその甘さを捨てきれなかったせいで、一人の幼い女の子の両親を死なせてしまって、更にはその子も連れされてしまったのだから。
それだけじゃない。綾音だって、連中に連れ去られてしまった。何重にも借りがある相手に、手加減をしてやる道理などなかった。
「……手段を選ばぬというなら、儂にもう一つ妙案ある。聞くか?」
「ああ、頼む」
不意に、そこで手を挙げて新たな策を提案してくるのは、吉政だ。伊達に安土桃山の時代を生きてきただけではないからか、彼の戦術に関する頭の回転には舌を巻かされる。
「オーバンの能力を駆使し、この川の上流を堰き止める。そこに強襲を掛けるか……もしくは、一気に堰を落とすか。これだけで敵の虚を衝けるのは間違い無い」
「……それはまた、規模のデカい話だな。それに、水量次第だと綾音達の身にも危険が及びかねない」
「そこで護の能力の出番だ。お前の能力で壁を作り、囚われている者のいる場所を囲い、水を防ぐ。これだけで敵の猛者は殆ど死に絶えるじゃろう」
その策に、一瞬誰もが言葉を失う。分かってはいた事だが、その作戦を仮に実行に移した場合、一人二人ではきかない数の死人が出るからだ。
それも、“ノクス”だけではない。警察の人間の中からも間違い無く亡くなる人間が出てくる。
「……無茶言ってくれる。堰を落として鉄砲水を起こすって事は相当な勢いだぞ? もし万が一俺の能力が不足して、壁の耐久力が足りなかったら、その瞬間に綾音達が御陀仏だ。それに、囚われた人たち全員がどこにいるか一人一人把握できている訳じゃない。もし把握漏れをしていたら、救うべき人を死なせる危険があるんだぞ」
「儂のはあくまでも提案じゃ。オーバン、お主は川の流れを堰き止める事は出来るかの?」
「場所を選べば多少は出来る筈だ。もっとも、そう長い時間は持たないだろうがな」
「うっひゃー、恐ろしい話だな」
実際に鉄砲水を起こす事が出来るという事実に、迅太郎さんは茶化しの色を混ぜながらも顔を引き攣らせていた。
「ま、実行するかはさて置いて……その辺は纏めて孫臏さんにも報告しとくぜ。あの人も作戦を立てる上で俺らの意見を参考にするって言ってたからな。で、他に意見ある人は?」
「うむ、我から提案がある」
「どうぞ、コンスタンディノスさん」
「ここはやはり筋肉で突破すべきなのだ!」
「はい、次の方―」
「我を無視するでない!?」
その後も十分ほど、能力者の見地から様々な提案が続いていく――。
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