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CORRECTORS ~生きた異物~  作者: 新楽岡高
第八章 アメリカン・ロビン=フッド㊦
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第四話 望まぬ再会、再戦③

◆◇◆



 翌朝。

 俺と迅太郎さんは、どんよりとした気持ちでホテルの食堂で朝食に手を付けていた。

「……どうしたんだ、マモルとジンタロウは」

「いや、ちょっとな」

「ちょっとと言われても……それだけで納得は出来ないのだが」

 すっかり習熟した箸を使いこなし、だし巻き卵を掴んで見せる灰色髪の少女――ヴィオレット・オーバンは、怪訝そうに俺達を見遣って来る。

 けれど、そんな彼女に事情全てを話す気にはなれなくて、言葉少なに俺は白米を頬張るのだった。

「モウリ、あの二人に何があったのだ?」

「それは儂にも良く分からんが……どうやら起床直後に棟梁殿から連絡があったらしくてな。その直後から元気がないのだ」

「ふー……む。どうせ碌でも無い事をやらかしたのだろうな」

「…………」

 聞こえてきた、如何にも他人事と言わんばかりのオーバンの物言いに、俺は握っていた箸を折ってしまいそうになる。

「誰のせいで父さんから電話が来る羽目になったと……」

「落ち着け若。俺も同じ気持ちだが、まだ本命の作戦が始まってすらいないんだ。出だしから喧嘩で消耗する訳にもいかないだろ。ブチ切れるのは全部終わってからだ」

 暴発しそうになる感情を迅太郎さんの(いさ)めを受けて抑え込み、腹に朝食を押し込む。

「今日は現場の下見だ。オーバンも飯食って準備整えたら、十時にホテルのフロント集合な」

「了解した。ではしっかり腹ごしらえしておかなくてはな!」

「……余り食い過ぎて身動き取れないとかアホな事態だけは勘弁してくれよ」

 既に、彼女の茶碗に盛られた白米は三杯目を数えている。おかずに関してもお代わりを貰っていて、ホテルの人からは瞠目(どうもく)されていた。

「家で食う食事に比べたら及ばぬが、ここも美味いのう。米や味噌の味が違うのも、また旅先に居る(おもむき)があるというものじゃ」

「ぬははははは、筋肉が喜んでおるわ!」

「お前らも、もう少し食う量を自重してくれないかね……」

 こちらの二人もオーバンを超える健啖(けんたん)家である。既に何度茶碗を空にしたのか数えるのも億劫(おっくう)であり、厨房に引っ込んでいるコックの苦労は推して知るべし。

「バイキング形式の朝食をやってるホテルで良かったな。これがそうじゃ無かったら、確実にあの三人は飯が足りてないぞ」

「その辺も勘案した上でこの宿を取ったんだろうけどね。父さんの先見の明は流石と言うべきか……御馳走様」

 すっかり空になった食器を纏めて返却口に置いた俺は、自分の部屋へと一足先に戻っていたのだった。





 東京、多摩地区。

 何度も言うが、そこは地方都市にも似た雰囲気が漂う場所である。例外も勿論あるものの、場所によっては緑が豊富にあったりするくらいだ。

 だけど、知っていたけれど、それでも俺は驚きの気持ちをそのまま口に出していた。

「……ここまで山奥だとは思わなかった。ここ、ホントに東京?」

「ああ東京だ。ま、そんな立地だからこそこんな場所に能力者の研究施設を作ったんだろうがな」

 迅太郎さんもここに来るのは初めてだからか、興味深そうに周囲をキョロキョロと見回していた。

 頭上では名前の知らない木の枝が、その一部に花を咲かせている。名前の知らない草本が芽を出し、名前の知らない鳥の(さえず)りが木立を縫って辺りに響く。

 遠方に峰が望め、これから緑の衣を纏おうとしている木々の群れの隙間を縫って、小川が流れていた。

「驚いた……初めて見る土地ではあるが、儂が居た時代にはそこかしこで見られた景色ではないか。まだこのような場所が残っていたのか」

「そりゃ、日本全域が現代的になってる訳じゃないからね。手つかずの自然なんてまだまだ残ってるよ」

「我にしてみれば手つかず過ぎて動きづらいぞ。木の枝に雑草と……一々ぶつかって来てかなわん」

 煩わしそうに枝を払い除けるのは、コンスタンディノス。確かに彼ほどの大柄な人間にしてみたら人の手が入っていない、道も無いようなところを通るのは面倒だろう。

「何故に道を使わなんだ? 我に対する嫌がらせか?」

「アホ言え、この研究所に続いている道は一本だけなんだぞ。しかも、その道の行く先は研究所で、しかも関係者以外立ち入り禁止の看板までついてる。そんな道を白昼堂々通って見ろ、見付けて下さいって言ってるようなもんだ」

「むぅ……」

 俺が携帯端末を片手に、先頭の迅太郎さんへナビを飛ばしながら答えてやれば、コンスタンディノスも文句を飲み込んで沈黙する。

「これが夏だったら蚊は居るし蝉は煩いし、雑草が生い茂るしで最悪だったろうな。まだマシだって思っといた方が良いぞ」

「そこまで言うのならそうなのだろうな。して、いつになったら目的地に着くのだ?」

「もうちょいだ。道もへったくれも無いから、一直線に進むだけだしな」

 仮に崖などの障害があったとしても、迅太郎さん以外の全員が能力者なのだ。その程度ならホイホイと越えられる。

「思ったより起伏が少ないお陰で早く目的地に着きそうだぞ」

「そんな事を言って、ここに来て迷うなんて事は無いだろうな?」

「安心しろって。“ノクス”と警察の研究施設は組の偵察班が発見してるんだぞ? そいつらが常時見張っている訳だ。近くにまで来たら迎えに来てくれるっての」

 既にその辺の情報の遣り取りは終わっている。何も無ければ、そろそろ偵察班の人間が迎えに来てくれる頃合いで――。

「おーう、待ってたぜ。お疲れさん……っていう程、疲れて無さそうだな」

「あんまり起伏も無かったからよ」

「起伏も無いって……そりゃ崖とか滝は少ないけど、普通に歩いたら割と危ないと思うんだけどなあ」

 じわじわと、何も無かった空間に人の姿が浮かび上がる。そこに現れたのは、二十代半ばの男――紅床(くれとこ) 悠太。透明化の能力を持つ、能力者である。

「施設の様子は?」

「人の出入りはあるが、変わらず囚われた人間が外に連れ出された気配はない。もっとも、地下通路とか作られてた場合はその限りじゃないだろうけどな」

 偵察班の人間として、目立たない迷彩服を纏う彼の肌は若干日に焼けている。それだけで少なくとも彼がこの辺りに長く留まっている事を示していた。

「ずっとこの辺で野営してるんだろうけど、平気なの? 色々」

「そりゃ野宿続きだから多少は不便だが……自然ばかりだし綺麗な川もある。冷たいけど温めれば体洗うにも苦労しねえよ」

 ついて来な、と言って背を向けて先頭を歩き出す紅床に、俺達は大人しく続く。

 すると五分もしないで野営地に行きついて、そこは生活感の溢れる物品があちこちに配置されて基地と化していた。

「小型とは言え発電機まであんのか……」

「見つかったり、山火事や有害な菌糸を発芽させない為にも火を使えないからな。これがあるお陰で冷たい水が温かくなるし、飯作るにも困らねえ。まー、レトルトばっかりで偶には新鮮な飯も食いたくなるが……」

 確かに、こんな場所では新鮮な食材を口にする事は中々難しい筈である。山の幸を得ようにもまだ三月半ばであれば、必然的に獲得できる食材は少ないものだ。

「悪いな、苦労かけてるみたいで」

「気にすんな。俺も好きでやってる……というか、俺の為にやってるんだ。まだ俺の仲間はあそこに捕まったままなんだからな。必ず助けだしてくれよ?」

「言われなくてもな。こっちだって知り合いが捕まってんだ。ここでまた取り逃がすなんてヘマはしねえよ」

「そうか。で、例の研究施設だが……こっちだ」

 俺との雑談もそこそこに、すぐに紅床は本題へと持っていく。

 彼の後に続いてほんの少しだけ歩いてみれば、木々の隙間から明らかな人工物が見えてくるのだった。

「あれが……」

「そう言う事だ。意外と年季入ってるよな。どうも、元々別の施設だった物を改築したらしくてよ。中は割と綺麗だぜ」

 まだまだ、建物まで距離はある。

木の隙間から見えるだけだし距離もあるものの、それでも俺達は念の為に身を屈めていた。


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