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CORRECTORS ~生きた異物~  作者: 新楽岡高
第八章 アメリカン・ロビン=フッド㊦
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第四話 望まぬ再会、再戦①

 無言が、室内を埋め尽くす。

 誰もこの気持ちをどう言葉にすれば良いのか分からず、宿のベッドや椅子に腰かけたまま口を閉ざし続けていた。

 が、痛いくらいの沈黙に辟易としたらしい吉政が、静寂を破って溜息を落とす。

「まさか猫に驚かされて、撤退まで視野に入れてしまうとは……これでは、富士川で水鳥の羽音のために大失態を演じた(たいらの) (これ)(もり)を笑えんな」

「平……? 誰?」

「俺も詳しくは知らんが、源平合戦の話じゃなかったか? 聞いた事あるだろ。水鳥の羽音に驚いて敵襲と勘違い、そのまま戦わずして撤退した話さ」

 そこはかとなく教養を感じさせる吉政の言葉について行けず顔を(しか)める俺に、横に居た迅太郎さんが補足をしてくれる。

 しかしそんな補足を聞いても、聞き覚えがあるような無いような……使わない知識に対する人間の記憶力はトコトンいい加減なものであった。

「何はともあれ、大した事では無くて良かったのではないか? “ノクス”と無関係であるのなら、まだ作戦は続行できる筈であるぞ」

「呑気で図太い神経してんな……」

「そんな楽観的な考え方だから、コンスタンティノープル陥落なんて事態を招いたんだろ」

「今それは関係無かろう!?」

 呆れた迅太郎さんの言葉に続いて俺がコンスタンディノスの過去に言及してやれば、それだけで彼は目を血走らせて反駁(はんばく)してくる。

「とは言え、コンスタンディノス殿の言う通り作戦の遂行にまだ支障はない。任務は続行するとして……こやつはどうするのだ?」

「まさか今から送り帰すのも手間だしな」

 四人の視線が一斉に集中した先には、一心不乱に水で希釈した牛乳を飲み続けている子猫の姿がある。

 希少な雄の三毛猫――我が家で保護した三毛衛門は、どういう訳か俺達の荷物の一つに紛れ込んでいた。

おまけに俺達が新宿観光をしている間に、どうやってかキャリーバッグを内側から開けて客室を満喫していたのである。

 どれぐらい満喫していたかと言えば、水洗トイレを使いこなすくらいには満喫していた。一体どうなっているんだこの猫は。

「元々、保護した頃から普通の猫って感じはしなかったけど……」

「滅多に人前へ姿も見せんし、甘えもしない猫じゃからのう。ちゅ〇るを出せばたちどころに(とりこ)となっていたが」

「そこは数少ない猫らしいところだけど、雄猫のくせに綺麗好きだもんなあ。色々と普通の猫からずれている部分が強いが……」

 議論は、真剣に転がる。俺も吉政も迅太郎さんも、この特異な猫についての考察を続けていく……その途中で、コンスタンディノスの大欠伸(おおあくび)が話題を遮る。

「別にそこまで議論せんでも良かろうて。可愛いのだから、それ以外に尽くす言葉もないのではないか?」

「確かに一理ある」

「ねーよ。猫の事になるとマジで若の偏差値が一桁に爆下がりなのは相変わらずか……」

 牛乳を飲み続けている三毛衛門の背中をワシワシ撫でながら、俺はコンスタンディノスの言葉を首肯する。けれど、即座に迅太郎さんが俺の後頭部をシバいてくるのは理解に苦しむ話だった。

「迅太郎さん、可愛いは正義だよ?」

「その強面(こわもて)に似合わねえ発言だな」

「ならこの可愛さを認めないと?」

「それとこれとは別問題だ」

 俺が撫で続けている間に、三毛衛門は牛乳を飲み干したようで、煩わしそうな視線を俺に向けてから立ち去ろうとする。

 しかし、そうはさせじと三毛衛門を抱き上げて確保した俺は膝の上に置いて撫で繰り回す。

「猫は触って眺めて世話をして……それだけで十分な究極完全生物だよ。まさか三毛衛門が非凡だからと言って解剖する訳にもいかないでしょ。議論するだけ無駄だって」

「いや、別に俺もそこまでして研究とか考察する気はないんだけど……」

「なら三毛衛門は作戦終了までこのビジホで待機して貰う方向で確定だな。父さん達にもメッセージだけでも送って連絡しとかないと」

 面倒臭そうな顔をしながら、俺に撫でられるがままの三毛衛門はその場から動き出す気配を見せない。もう(しばら)くこのモフモフを堪能できる事実に、俺は内心で盛り上がっていた。

「ああ、連絡は俺の方でやっとくよ。他には食べ物さえ用意しとけば、トイレも大丈夫そうだしな。不安なのは爪とぎとかなんだが」

「迅太郎さん、もしこの客室内で何かやっちゃった場合は俺の小遣いから弁償する。安心してくれ」

「こう言うところはマジで金払い良いよな……若、社会人になってから金遣いのベクトルがとんでもない方向に行きそうで心配だ」

 心の底から心配している眼差しを向けられて、俺は若干不服である。だって好きでやっている事なのだから!

「帰還までこのビジホに泊まるんなら、早速ちゅ〇るは買ってあげないとな。良いだろ、迅太郎さん?」

「……俺達は三毛衛門の世話をする為に東京まで来た訳じゃないんだがな」

 ベッドに上体を倒しながら、迅太郎さんは呆れ混じりの呟きを漏らしていたのだった。



◆◇◆



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