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CORRECTORS ~生きた異物~  作者: 新楽岡高
第八章 アメリカン・ロビン=フッド㊦
365/565

第三話 そうだ東京行こう⑪

次回の投稿は来月一日です。

◆◇◆



『これは昨夜、新宿歌舞伎町の監視カメラが捉えた映像です』

 ナレーターの声と一緒に、ある映像がテレビ画面上で再生される。

 撮影時間帯が夜であるせいで映像は黒の占める割合が多いものの、街灯の光もあってそこで何が起こっているのかは一目瞭然だ。

『御覧の通り、この映像では三人の男性が二十人以上の男を相手に壮絶な格闘戦を繰り広げているのです』

「…………」

 シンと静まり返ったお茶の間に響き渡るそのナレーターの声と映像は、(とど)まるところを知らない。

 まるでプロレスか何かの実況でもしているかのように、ナレーターの声は熱が籠り、実際にその乱闘は熱を帯びていく。

 だが、それとは対照的にそのお茶の間の空気はどんどんと冷え込み始め、遂には強面の男達が顔面を蒼白にして、()()うの(てい)で襖を開けて居間から脱出していく。

『ここでラリアット! 一気に三人を薙ぎ倒す! 片やこちらは……木刀でしょうか? 先程から振り回して、誰一人として近寄らせません!』

「…………」

「…………」

 その映像を放送しているニュース番組はノリノリで編集したのだろう。気合を入れてアツいBGMまで流し始める始末だった。

 でも、やっぱりそのお茶の間はぐんぐんと冷え込んでいくばかりだ。ともすれば、湯気の立つ湯呑すら凍り付いてしまいそうなくらいである。

『ここであーっと! 大柄な男性が二人の首根っこを掴んで投げ飛ばしました! 何という怪力でしょう!』

「……あれコンスタンディノスだな」

「ああ、あの大柄は間違い無い。木刀を振り回しているのは毛利殿、そしてあと一人は……体格からして三榊(みさかき)殿だろう」

 瞬く間に制圧されていく無数の男達。彼らはたった三人を相手に手も足も出ず、まさに蹂躙と呼ぶにふさわしい光景が出来上がっていたのである。

 しかし、これでニュースの話題が一つ終わったかと思えばそうでもなく。

『また、新宿の別の場所でも乱闘が起こっていた様で、更に別の映像を御覧ください』

「…………」

「…………」

 場面が切り替わり、今度は携帯端末から隠し撮りされたと思しき画質の悪い映像が放映される。

 そこの中心に映るのは、大柄な男と小柄な少女だ。男の方が少女を守るように動き回っているが、彼ら二人を取り囲む男の数はこちらも二十を超えている。

『こちらも視聴者から提供いただいた動画ですが……何と、狭い路地でこんな激しい格闘戦が繰り広げられていたのです』

「護と……オーバン、しかいないよな」

「でしょうな。あの小娘、撮られているとも知らずに、(つぶて)とは言え能力を行使している」

 夜という時間と画質が荒い事も相俟(あいま)って、テレビ局も気付いた様子はないものの、それは事情を知る者からすればすぐに分かるものだった。

「あいつら……綾音ちゃんみたいな囚われた人を助ける為に派遣した筈なんだがな、どうして新宿に居る?」

「怠惰と言うべきか……いや、休息を取った事は責めるに値しないだろう。それより、こんな風に映像を撮られた方が重大だ」

 バリ、と煎餅を口にしてから緑茶を口に流し込んだ孫臏は、そこで一度息を吐いた。

「これで、“ノクス”に私達の戦力の一部が東京へ出向いている事を知らせてしまった訳だ」

「こちらの救出作戦を察知される可能性が高くなるな。済まない孫臏、隠密作戦を立案してくれたというのに……迷惑をかける」

「いえ、そちらは余り気にする事ではない。やりようなら幾らでもあるからな。問題は……私達の方だ」

 煎餅を食べる手を止め、(いれずみ)の入った顔に皺を刻む孫臏の言葉。それに引っ掛かりを覚えた百鬼(なきり)組棟梁――百鬼 真之は問う。

「と、言うと?」

「戦力の一部が東京に向かった事を知られたのだ。つまり、本拠地(こちら)の戦力が手薄になったと知らせているようなものでもある。敵本陣に奇襲をかける筈が、逆に奇襲を受ける間抜けな事態を招きかねない。棟梁殿、今から警戒態勢を厳にするよう組全体に指示を」

「そう言う事か。言われてみればそうだな。今この瞬間に警察と“ノクス”が連携して先手を打って来てもおかしくない。……気が休まらないな」

 ずず、と茶を啜った真之は湯呑を卓に置いて腕を組む。

「そう気を揉まなくて問題ない。これはこれで良くはないが、悪くもないからな。敵の目をこちらへ()らせる事が出来れば、救出作戦も多少やり易くなる」

「救出作戦が成功して、護達が帰って来るまで耐え抜けば良いのか」

「敵の攻撃規模によっては相当厳しい事になるがな」

 言いながらも、孫臏はどこか余裕を感じさせる態度で煎餅に手を伸ばす。再び食欲を解放する彼の姿に、真之は心の底から感心すらしていたのだった。

「稀代の策士は相当厳しい事でも動じない、か。貴方の胆力には恐れ入る。一体何手先まで見透かしているのか……」

「出来る事をやっているだけだ。それに、友の裏切りを見透かせぬ小物に感服しないでいただきたい。一秒先すら、正確に見通す事は出来ぬのだから」

「そうは言うが……流石に護たちがここまで暴走するのを見抜けというのは、誰にも無理だと思うがね。まさか同じ場所で二件別々に事件を起こすとは誰が予想できるか」

「…………」

 真之が苦々しい顔をすれば、孫臏もまた苦々しい顔をしてテレビ画面に目を向ける。

 そして、そこで視線が釘付けになった。

『こちらも昨日、東京へ向かう電車内で撮られた一幕です。映像提供者の話では、車内で喫煙していた男性が乗客にいちゃもんをつけて絡んだそうで……』

「これは……」

豎子(こぞう)だな。あの馬鹿どもが、日に二件どころか、三件も事件を起こしていたのか」

 小太りの男に絡まれている体格の良い男性が誰であるかは、もう疑う余地もない。

 電車内という照明も揃った環境では、携帯端末で撮った動画だろうとハッキリ写っていて、例え顔が隠れていようとも簡単に身元を割り出せるのである。

「今頃、SNSに拡散されて手遅れの状況になっているだろうな」

「情報の回りが早いとは恐ろしいものだ。遠征組には後で必ず何かしらの制裁を加えねばなるまい」

「全く、無駄な仕事を増やしてくれる……」

 二人は仲良く、溜息を吐いていたのだった。

 だが彼らの口振りは、必ず護たちが作戦を成功させて帰って来ると信じている様でもあった――。







【幕間】

迅「ネットニュース見たんだけど、若達もやらかしてたってマジ?」


護「……そうだよ。しょうがなかったんだ。電車で相手した奴が数連れて来てお礼参りに来たもんだから」


迅「フィーバーしちゃった?」


護「しょうがないだろ! あの状況でどうしろってんだ!?」


迅「それは俺にも言えるんだぞ!? 毛利さんとコンスタンディノスさんの二人が客引きの泣き落としに負けてホイホイ店に入ったが最後……ぼったくりに掛けられたんだから!」


護「何で止めなかったの!?」


迅「止めたよ! めっちゃ止めた! でも聞かなかったの!」


護「責任者なんだからそんなの通じる訳なく無い!?」


迅「その言葉そっくりそのまま若に返してやるよ!」


護「う……あ、電話だ」


迅「誰から?」


護「父さんから……」


迅「…………」


護「あ、こら逃げるな!」


迅「結果だけ教えてくれよー」


護「そんな事を言うなら父さんにある事ない事吹き込んでやるけど、どうする?」


迅「…………ちっ」


護「取り敢えずスピーカーにして応答してみるわ」


迅「ああ、頼む」


護「もしもし父さん?」


真『ああ、護か。迅太郎はそこに居るな?』


護「うん、いるけど……代わる?」


真『その必要はない。二人がそこに居るのなら、このまま用件を伝えるだけだ』


護「よ、要件っていうのは……」


真『お前ら帰ったら覚えてろよ』


(ブツン)


護「え、父さん!? ちょっと待って要件それだけ!? ねえ切らないでよねえ、一方的に通話切らないで!」


迅「……年貢の納め時か」


護「俺、ノクスに投降しようかな」


迅「待て若、血迷ったか」


護「だって怖すぎ……」


迅「否定はしない。単刀直入に言って、即切りだもんな。帰ったらどんな罰が待ってるか……」


護「どうせなら他の三人も巻き込んで死なば諸共に持っていきたくなるな……」


迅「ああ……俺の諫めを無視した恨み、晴らさずに置くべきか……!」


オ「……何か知らんが、あの二人悪い顔をしてないか?」


吉「嫌な予感がするのう」


コ「気のせいではないか? なぁに問題ない、何かあったとしても我の筋肉が何もかも解決してくれるさ」


吉「何を呑気な……」


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