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CORRECTORS ~生きた異物~  作者: 新楽岡高
第八章 アメリカン・ロビン=フッド㊦
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第三話 そうだ東京行こう④



「これが……これこそが、東京! 夜だというのにこんなに人が多いとは!」

「感動しているところ悪いけど、逸れるなよマジで。お前小っちゃいから見失ったらヤバいんだって」

「小っちゃい言わないでくれ!」

 ここは、東京の新宿。

 二十時を回る頃だというのに駅構内も、駅より出てからも人で埋め尽くされていた。

 今日が金曜日であるという事も、人通りの多さに拍車をかけている様であるが、それにしても多い。

 片田舎の都市に住んでいた身からすると、ともすれば人混みに酔ってしまいそうだ。

「つーか、何故に金曜夜の東京観光で新宿を選択したんだ……?」

「良いじゃないか。私としては一回見て見たかったのさ、歌舞伎町って奴を!」

「お前は歌舞伎町の一体何に()かれたんだ?」

 新宿歌舞伎町といえば、もはや説明不要とすら言えるような日本における有名歓楽街の一つである。

 ここには本当に色々な店が揃っており、そして色々な人間が集まる。色々集まり過ぎて治安が悪いとすら言えるくらいである。

「ほら、ゲームとかでも取り上げられているじゃないか。喧嘩とか、ヤクザとか。一回見てみたいんだよ」

血腥(ちなまぐさ)い欲求だな。喧嘩についてはもっと凄いもの経験してるだろうに……」

 主に魔法が絡んだ喧嘩とか。いや、あれはもう“ノクス”との戦闘なので、命の遣り取りとすら言えそうなものだが。

「これが……東京? 大坂城を遥かに凌ぐ建物が森のように建ち並んでいるではないか。松ヶ崎の街並みですら可愛く見えるぞ」

「うむ、何という建物の高さだ。コンスタンディノポリスなどの建物よりも……デカい。これが、未来の世界であるか」

 林立するビルたちと、それに取り付けられた看板や液晶掲示板は嫌でも目につくくらいにその存在を主張している。

 その有様を目にして、吉政とコンスタンディノスは、あんぐりと口を開けて棒立ちとなっていたのだった。

「はいはい、一昔前の田舎者丸出しムーブしてないで、二人もこっちへ来い。そこに立つと通行の邪魔だ」

「む……これは三榊殿、失礼した」

「だが、これが東京……動画を見ただけでは信じられず、実感も湧かなかったが……我の価値観が根底から覆りそうであったぞ」

「そりゃ、数百年の時間を飛び越えていきなりこの時代へやって来た人間からすればそうだろうさ。なんたってここは、世界有数の大都市(メガロポリス)だ。これより上を凌ぐ都市は現在じゃ世界を探したって数えるくらいしかないんだぜ?」

 誇らしげにそう言って笑って見せる迅太郎さんは、今度は視線をオーバンに向けた。

「で、嬢ちゃんは新宿歌舞伎町だけが見たいのか?」

「二丁目も見てみたい!」

()めろ。止めてくれ」

 目をキラッキラさせながら新宿二丁目を名指しするオーバン。しかしそんな彼女には悪いが、俺は是非とも遠慮したい。

「何だマモル、どうしてそんなに二丁目を嫌がる? 面白そうじゃないか」

「“どんまい”さんみたいなのが居るかも、と思うとね……」

 俺だって別に二丁目の人が嫌いな訳ではない。そもそも会った事も行った事も無いのだから、好き嫌いなど分かる筈がないのだ。

 ただ、松ヶ崎の歓楽街、通称“魔窟”に住まう“どんまい”とその一党が俺の心にとんでもない警戒心を植え付けてくれただけで、それ以外は本当に何も無いのである。

「安心しろ若、ここには若と嬢ちゃんって言う未成年者が二人いるんだ。新宿の人間だってそこまで露骨に手を出そうとはしないさ。警察だってあちこち見回りしてるからな」

「見回り……まるでウチみたいだよ。苦労が分かると言うか」

「いや松ヶ崎よりは遥かに大変だと思うぞ。治安も結構悪めだし、テレビでも泥酔した奴の相手とかしてるの見た事あるだろ?」

 その問いかけに、俺は強く大きく頷いた。

 確かに、ここの地区で警察官を務めている人の苦労は尋常ではない筈である。改めて働くというのは楽じゃないと、世知辛い世の中の事を痛感させられるのだった。

「こーゆーの見ると益々働きたくなくなるよな」

「同感だ。だから俺は少なくとも対人系の仕事は今までも避けてきたし、今だってそうだ」

「そういや、迅太郎さんは何の仕事してんの?」

 ふと、気になって迅太郎さんに訊ねてみる。

 まさかこの人、家族もいるのに無色でやってないだろうかとも思ったが、しかし当然のようにそれは杞憂だった。

「メインは棟梁(とうりょう)と同じで株とか投資系。後はたまーに短期のアルバイトとか? 体は動かさないと(なま)るし、いろんな人と知り合えるのは面白いぞ。今は組の仕事が忙しくて短期バイトはやってないが」

「人と知り合う、ね。俺はこの見た目だし、あんまり人は寄ってこなさそうだな」

卑屈(ひくつ)になるなって。働いてみると分かるが、同じ職場で働く相手を見た目だけで完全に断絶できる程、仕事は甘くない。そうなれば勝手にコミュニケーションも取ってくれるさ」

 ポン、と俺の肩に手を置いて慰めの言葉を掛けてくれる迅太郎さんだが、やはりどこかで面白がっている気配が漂っていた。

 けど、わざと気付かない振りをしながら俺は夜の新宿を見回す。

「……東京って凄いんだな。迅太郎さんは結構行ったことあるの?」

「そりゃ年相応にはな。だから何かあったって訳でもないけどさ」

 俺と迅太郎さんが話している後ろでは、オーバンと吉政、コンスタンディノスが田舎者丸出しと言った姿勢で口を開け、背の高いビル群を眺めている。

 今のところ、三人はしっかり俺達の後について来てくれているが、目を離せばいつ(はぐ)れてもおかしく無さそうであった。

「今日は新宿一周?」

「流石にそれは時間が足りねえよ。帰りの電車の時間とか、何より未成年連れて深夜まで連れ歩いたら補導されちまう。それこそ、ここは歓楽街だから警察の目も厳しいぞ」

「……確かに」

 一瞬だけ、ちらっとオーバンに目を向ける。

 彼女の身長は低く、顔立ちも整ってはいるが同時に幼さも備えているのだ。あの見た目では一見して未成年だと思われるだろうし、それこそ警察に職務質問の余地を与えてしまう事になるだろう。

「……てか思ったんだけど、幾らまだ深夜じゃ無いとは言え、幼い外見の女の子と残り四人全員男って面子(めんつ)で歌舞伎町巡ったら間違い無く職質案件なのでは?」

「……実際、子供には教育上宜しくない街である事に疑う余地ないしな。当然、若もそこに含まれるけど」

「それはもう今更(いまさら)なのでは?」

 百鬼組の人間として、色々な事に関わって、色々な事を見て来たのだ。教育上という言葉など、もはや考えるだけ無駄だった。

「けどまあ、このメンバーのまま歌舞伎町を巡るのは確かに警察の目を引きかねないからな……どうだ若、二手に分かれるかね?」

「それが一番だろうさ。いや、そもそもの話をするならオーバンをここに連れて行かないのが最善なんだけど」

 こっそりと首を巡らせて背後を振り返れば、オーバンは吉政とコンスタンディノスと一緒になって会話で盛り上がっている。呑気なものだ。

「もし東京観光に連れて行かなかったら嬢ちゃんは(へそ)まげて、救出作戦を手伝わないとまで言って来たんだぞ? それを今になってやっぱ止めたなんて言えないだろ」

「その通りだけどさー……もっと他に良い観光場所だってあるのに」

「あの子がここを選んでここに来てしまった以上は仕方ないだろ。で、班分けだけど、若が嬢ちゃんと一緒な。残りは俺が受け持つ」

「は!? いや、ちょっ……!?」

 ささっと素早く班の割り振りを決められて、俺は反応が遅れる。どう答えたら良いのか分からなくなって、二秒ほど言葉を失ったのだ。

「何で俺がオーバンなの!?」

「むしろそれしかないだろ。それとも若は、毛利さんとコンスタンディノスさんをしっかり統率できる自信あんのかよ?」

「う……」

 迅太郎さんの指摘通り、俺の能力ではあの二人を統率するのはかなり骨が折れる……それどころか統率できるとは言い(がた)い。

「そんな訳で決まりだ。若も、職質受けないように充分注意払えよ。万が一受けたら、取り囲まれる前に逃げろ。能力で身体強化とかすれば余裕だろ」

「分かったよ、精々見失わない様に注意するから」

「おっけい。じゃあ頼んだぜ。二十二時に新宿東口、交番前に集合で。それより早くなりそうなら連絡くれ」

「……了解」

 決まれば善は急げと言わんばかりに、迅太郎さんは吉政とコンスタンディノスに声をかけて人混みの中へと消えていく。もっとも、コンスタンディノスが巨漢なので(しばら)くはどこにいるのか一目で分かったのだが。

「それでマモル! 歌舞伎町にはどこの道へ行けば良いんだ!? まずはあの特徴的なネオンの門を生で見てみたいのだ!」

「中々マニアックな目標立ててんな」

 正直、俺には何の事だか良く分からない。だって、歌舞伎町なんて来たことが無いし、そもそも興味が無かったのだから。

 故に土地勘も無く、携帯端末の液晶画面に表示された地図へ目を落としながら、呟きを漏らしていた。

「……大丈夫なんだろうな、これ」



◆◇◆


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