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CORRECTORS ~生きた異物~  作者: 新楽岡高
第八章 アメリカン・ロビン=フッド㊦
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第一話 看過せざる事態⑥

◆◇◆



 重い足取りのまま廊下を歩き、悔しさを噛み締めた俺は居間へ続く(ふすま)を開ける。

「……ただいま」

「帰ったか。無事で何よりだ」

 そこには、父や孫臏(そんぴん)を始めとした百鬼(なきり)組の頭脳を担う面々が黙して座っていた。俺は襖を開けるなり彼らからの視線が一気に集中したのを感じ取りながら、自分もまた沈黙を保って最寄りの座布団に座るのだった。

 そしてそれを確認してから、父が満を持して議題を取り上げる。

「さて、今回の作戦結果だが……孫臏(そんぴん)はどう捉える?」

「救出目標はその約半数の八名ほど、こちらの損害は無し……と考えれば、七割方は目的を達成したと言っても良いのではないか? もっとも、実験体とされていた人間全てを救出する事を絶対条件としたら作戦失敗とも言えるがな」

 父の問いに、(げい)面の男は視線すら上げずに淡々とした調子で応じる。彼はタブレット端末を見事に使いこなし、恐らくは今回の戦闘に関する情報や経過、結果などを纏めているらしい。

 ともすれば失礼とも取れる態度であったが、俺の父である真之は気分を害した様子も見せないで話を続けた。

「七割か……何故そう考える?」

「まず、救出目標の約半数を助けた。これで目的は五割達成したと言える。そして我々に被害が無い事から一割を加え、そして救出した者から敵に関する新たな情報が得られる事を考えたら更に一割。これで七割方は目的を達成したと言えるのだ」

「……だ、そうだ。だから護、そんなに責任を感じる必要はない。お前はしっかりと半数の人間を救い出せたんだからな」

 天井から照明の白い光が降り注ぐが眩しくて(うつむ)きがちでいた俺に、父が水を向けてくる。正直、その気遣いの言葉は今の俺にとって鬱陶しい以外の何物でもなかった。

「幾ら父さんがそう言っても……助けられたのは半数だけだ。綾音や、あの小さな女の子を含めた残り半分を救えなかった。救う為に、あそこへ駆けつけたのに」

「ふん、豎子(こぞう)百鬼(なきり)殿も言ったが、お前ばかりの責任と思うな。そもそもお前は控え、第二の矢のつもりだったのだ。本来なら、第一の矢だけでも救出作戦は実行可能な筈だった。つまり、豎子(こぞう)を責める前に責められるべき者が居る。そうであろう?」

 腕を組み、鼻を鳴らす孫臏がその鋭い視線を向ける先には、肩身を狭そうにして正座している三人の男の姿があった。

 その中の一人に向けて、まず孫臏は口を開く。

紅床(くれとこ) 悠太」

「へ、へい」

「お前に関しては戦闘力など最初から期待していない。役目として透明化付与と潜入、御苦労だった」

「ど、どーも……」

 時折操作している手元のタブレットに視線を落としながら評価を下す孫臏(そんぴん)に、紅床(くれとこ)は毒気を抜かれた様な顔をしながら後頭部を掻く。

 正直、この場の誰もが紅床へ厳しい言葉を投げ掛けるものと思って空気が凍る事を覚悟していたのだが、杞憂に終わった。

 俺も内心でその事に安堵していた、その時。

「毛利 豊前(ぶぜんの)(かみ)、それとコンスタンディノス」

「う、うむ」

「おう」

 一際低い声でその二人の名が呼ばれた時、場の空気は一気に氷点下まで下がった、ような気がした。それくらい冷たく、背筋がゾッとするような声を、孫臏は出していたのである。

「貴様ら何をしていた? 何の為に二人を一緒にして行動させたと思っている? 敵と遭遇したなら即撃滅、無理なら二手に分かれて片方が敵を攪乱でもすれば、囚われていた人々の救出は間違い無くもっと上手くいっていたぞ」

「し、仕方ないであろう? “アーベント”に“クリュザンテーメ”だぞ? ここで放置しては後々に支障が出ないとも限らない。あそこは儂ら二名で足止めするのが最善策じゃった」

 吉政とコンスタンディノスという、歴戦の猛者二人をしても孫臏の纏う怒気だか殺気だか分からない雰囲気には顔を青くせずにはいられないらしい。

 弁明する吉政の口調は冷静だが、心なしか冷や汗が額に浮き出ていた。

「透明化の能力を駆使すれば、一人は早急(さっきゅう)に離脱、もう一人は攪乱くらい出来ると思うが?」

「そう思うなら貴様がその指示を出せば良かろう! 我らばかり責められるのは納得がいかぬぞ!」

「現場にいない私の指示では状況に則さない場合がある。そもそも、私にどうして状況に関しての報告を逐一行わなかった? それでは出せる指示も出せないぞ。終わってから貴様らの話を聞くに、紅床の能力(ちから)で透明化したまま遊撃に徹していれば、一人でも相手取れた筈だ」

「…………」

 逆切れをするようにコンスタンディノスが声を荒げるも、それを即座に孫臏は切って捨てる。

 余りにも呆気なくバッサリと主張を折られたせいで、コンスタンディノスは呆けた顔を見せていた。

「二人共、豎子(こぞう)に尻を拭いて貰って情けないと思え。何度も言うが、豎子(こぞう)は予備兵力だったのだからな」

「め、面目ない……」

「うむ……」

 大の大人、それもどちらも四十歳は超えている男二人が首を垂れて正座して反省している有様は、シュールである。

 どんな人にも失敗ってあるんだなーなどと何気なく考えていた俺だったが、そこでふと孫臏からまた視線を向けられている事に気付いて身を固くした。

「な、何か用でせうか……?」

「いや、今回は目的に固執せずに冷静な判断を下せたみたいだからな。それは称賛に値する。よく耐えたな豎子(こぞう)、お前は正しい事をしたのだ」

「……綾音達を見捨てる事が正しいって言うならそうなんだろうな」

 不貞腐れたように顔を背けながら吐き捨てる俺は、我ながらまだ子供っぽいと思う。でも、こういう時にどんな態度を取るのが正解なのか分からなくて、結局何も変わらない自分がいた。

 だけどそんな態度を取られても尚、孫臏は気分を害した様子を見せなかった。

「そうだ。お前は正しい。何よりも味方の損害を押さえるという意味でな。それに、助けられなかった者らはまだ生きている筈だ。これから救出した者達から詳細な話を聞き出す予定だが……今回助けきれなかった者達を助けられる機会はまだある」

「本当に……?」

百鬼(なきり)組の人間やその伝手(つて)をあちこちで動員しているのだ。それが通用しない道理など無い。現に、今回の作戦の際も組の人間を四方八方に伏せさせて、研究施設に出入りする者の行き先を(ことごと)く探らせている。今回救い損ねた者達の居場所が割れるのも時間の問題だろう」

 打てば響くように、そしてこうなる事態を(あらかじ)め考えていたかのように、孫臏はスラスラと語る。彼の姿と言葉に不自然さは無くて、道理ばかりが見える有様は、自然と周りを安心させる魅力を持っていた。

「……その話、信じて良いんだな?」

「無論だ。もっとも、(しばら)くは囚われた人々の行方追跡に相応の時間が掛るだろう。それまで我らは情報収集と研鑽に努めるばかりだ」

 自信たっぷりに彼が語り、俺が納得して沈黙へと戻る。するとそれと入れ替わるみたいに手を上げる者が一人。

「ああ、そう言えば孫臏殿、少し訊きたい事が」

「何かな、毛利殿」

「囚われた人々の行方を追うとは言うが……下手をしたら囚われた彼らは彼方此方(あちこち)に散ってしまう恐れがあるのではないか? その場合、どうするつもりか?」

「心配ない。能力者を研究する施設だぞ。この世界は魔法の事なんて殆ど知らないのだから、研究施設とて作るにしても時間が掛る。そう考えたら、一度に複数の施設を作るのは現実的ではない。よって、囚われた人々がバラバラに散る心配はない。精々が二か所に分かれる程度だろうな」

 これもまた打てば響くように、理路整然として断言して見せる孫臏。だが、それでもなお吉政は食い下がっていた。

「他に研究施設がない保証はあるのか? 流石に全国を網羅出来ている訳ではあるまいに」

「確かにそうだが……その辺についてはオーバンの小娘からも墨をつけて貰っているぞ。それに、研究する側もある程度は対象が纏まってくれないと実験もやりづらいだろう」

「むぅ……なるほど。儂の抱える一番の疑問も氷解した。説明、感謝する」

 顎髭をなぞりながら謝意を述べる吉政。伊達に彼も一軍を率いた経験のある武将ではないのだろう。ただ、横に座るコンスタンディノスはポカーンとした顔をしていたが……。

「この程度なら毛利殿に感謝される事でもない。では百鬼(なきり)殿、議題をまた進めようか」

「ああ、分かった」

 今後の展望は今回の作戦の反省について、大まかなところを終えた会議は、更なる話題へと移ろっていく――。



◆◇◆



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