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CORRECTORS ~生きた異物~  作者: 新楽岡高
第七章 アメリカン・ロビン=フッド㊤
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第五話 実行あるのみ②

「良いから言ってみろ、それが駄目かどうかは事情を聞いてから決める。護も話の続きが気になって仕方ないようだしな」

「いきなり俺に? ……まあ確かにそうだけど」

「ありがとよ。んで、どうして俺がこんな話をここへ持って来たのかってところに(さかのぼ)るんだが……」

 冷え切りかけた空気が、俺というワンクッションを挟んだ事で僅かに温められたお陰か、紅床の強張った表情に少しだけ緩みが生じる。

「知っての通り、俺は能力者だ。アンタらには殆ど意味を為さなかったが、透明化の能力が使える。つっても、ここ最近になって気付いたら使える様になってただけで、身の回りで何か変わった事があった訳じゃねえんだけどな」

「……純粋培養の能力者、か。少量の魔力に触れたのだろうが、それだけで能力が発現するとは、君はそれだけ適性があったのだろうな。この前、ここで捕まえた時も君はその供述をしていたのを覚えているとも」

 後頭部を掻きながら自分の軽い身の上の話を始めれば、紅床の話を引き継ぐみたいにオーバンが口を開く。

「そう言うアンタは……俺達を兵器の実験体にした奴だな。また生きた的にするとか勘弁してくれよ?」

「なってくれたら嬉しいのだがね。どうだい、報酬は弾むぞ?」

「結構です」

 NO! とはっきり掌を突き出して拒絶の意志を示す紅床。その毅然とした態度は薬物乱用防止ポスターのモデルに起用しても良いのではないかと思えるくらいには模範的だった。

 惜しまくは、彼がそもそも特殊能力を悪用した犯罪者である事だろうか。

「……俺が特殊な力を持っているって事を、どうやら警察も殆ど気付いていなかったらしいんだが、ちょっと前に留置所を脱走した辺りから風向きが変わってな」

「あー、あの留置所での戦闘か。お前、あの空間を喰らう異常な能力者につけ狙われてたもんな」

 まだまだ、記憶にも新しい松ヶ崎警察署敷地内での大立ち回りを思い出して、俺は乾いた笑いを浮かべる。

 あれだけ大勢の前で能力を行使しているところを見られて、恐らくだが警察内部で映像も撮られていると見て良さそうだ。

 とは言え、留置所が破壊されて犯罪者一名逃走という警察組織にとっての不祥事である手前、その映像が外部に公表される事はなさそうなのが、唯一の救いか。

「アンタ、百鬼 護だっけか? その節はどうも助かったぜ。お前らの助けが無かったら脱走どころか、あの訳わかんねえ奴に体を消されていたかもしれねえ」

「気にすんな。目の前で人が殺されるのなんて見たくもないからやっただけだし」

「俺より若く見えるのに、鷹揚(おうよう)な奴だな。っと、そこについては今どうでも良い。何度も言うが問題は俺が留置所を脱走してからなんだ」

 話が脇道に()れかけて、紅床は途中で気付いて慌てて軌道修正を掛けていて、そんな彼の言葉を引きついで俺は先回りの質問を投げてやる。

「“ノクス”について、だろ? さっき、インターホン越しでも気にしてたし」

「そう言う事。あいつら、いきなり俺の所在を突き止めたと思ったら、投降しろって言って来て、拒否ったら即攻撃だ。こっちからしたら(たま)ったもんじゃなかったぜ」

 ふう、とそこで一旦言葉を切った彼は湯呑に口をつけてから、続いて話す内容を纏めたらしい。会議室のようにロの字に配置された卓と、そこに座る面々を一巡してから俺に視線を止める。

「で、アンタが助けに来てくれたお陰で俺は逃げ延びられた訳だが……あれは一体何なんだ? 何を目的にして、俺を狙う? しかも、後々様子を窺ってみれば、警察とも繋がりがあるみたいじゃねえか」

「……簡単に言えば、“ノクス”ってのはこことは違う魔法ってものが存在する世界――並行世界(パラレルワールド)からやって来た特殊組織だ」

「はぁ? じゃあなんだ、アイツらは異世界人ってか?」

「そうだ」

「そうだ、って……冗談きついぜ。頭痛くなって来た」

 眉間を揉み(ほぐ)し、それから頭を抱えた紅床は湯呑の中で湯気を立てる緑茶に視線を落とす。

「でも、お前だって俺らの言う事が全く理解出来ない訳じゃないだろ? それこそ、自分自身が持ってる特殊能力の話とか」

「確かにそうなんだけどよお……連中は異世界人ですって言われてハイそうですかと言えるような世界じゃないだろ、ここは」

「因みに、“ノクス”がこの世界へやって来た理由はここにいるクソチビ……もといヴィオレット・オーバンの身柄を確保して連れ帰るため、らしい」

「誰がクソチビだ! この顔面凶悪犯め!」

 親指で俺が灰色髪の少女を指差してやれば、彼女はそんな雑な人物紹介が腹に据えかねたらしい。卓を両掌で叩きながら中腰になって抗議していた。

「へえ、じゃあこの子も異世界人って訳かい。見た目、外国人っぽいけどそれ以外に変わった点はない気もするけど」

「魔法が存在している点以外に、目立った違いがないみたいでな。意思疎通だって容易に図れるもんだから、“ノクス”の連中もこの世界に橋頭堡(きょうとうほ)を築いて、徐々に俺らを追い詰めようって考えてるんだろうさ」

 俺がそこで言葉を切ったところを見計らって、オーバンが更に話を続ける。

「そしてその一環で“ノクス”って奴らは警察と手を組んで、おまけに俺を捕まえようとしている訳か……。でも、そうまでして俺を実験体にしたいもんかね?」

「この世界基準で見てみれば、能力者ってのは希少だからな。そこにいるマモルだってこの前の戦闘では、生け捕りにされかけたくらいだぞ」

「ほー……こいつが」

 意外そうに、紅床が俺に目を向ける。

 何となく、それは自分のプライドみたいなものが傷付けられたような気がして、俺は素っ気ない態度と自覚を持ちながら言っていた。

「“ノクス”はともかくとして、その“ノクス”と手を組んでいる警察側からしてみれば能力者サンプルってのは喉から手が出るほど欲しいだろうさ。だって、この世界には無い筈の物質を行使しているんだから」

「そう言う事だ。もっと言えば、その未知の物質を入手・独占・研究・開発を行えば、この世界で日本は新たなブラックボックスと技術的優位を獲得する事になる。この世界に於いて及ぼされる影響は計り知れないものになるのが簡単に想像出来る」

 少し前までは研究以外の事に興味を向ける事が少なかったオーバンだが、これまで多くの会議に臨んで来た成果なのか、政治などにも関心を持つようになったらしい。

 彼女の成長が垣間見られた気がして、俺は父親にでもなった様な気持ちで微笑ましい視線を向けていた。

「……何だマモル、その気持ち悪い視線は」

「大した事じゃない。それより、話の続きだ。どうしてアンタが百鬼組(おれら)に仲間を助けてくれって頼むのかについて、な」

 怪訝そうな顔を浮かべるオーバンの追及をさっと逸らして、同時に話題を本筋に引き戻す。こうすれば、いかに空気の読めないオーバンとて強引に話をぶった切るような真似は出来ないからだ。

 そして俺の誘導に乗っかって、紅床は話を続ける。

「ああ、そういやそうだ。話してて気になった疑問ばかり解消してそっちを忘れてたぜ。で、アンタらに危機を救われた俺は、(しばら)く様子を見る事に決めた訳ヨ。どっちが俺にとって本当に敵っぽいのかなって」

「……その見極めの為に、百鬼組(こちら)の門を叩くのが遅れた訳か」

「平たく言えばそうだな。だってそうだろ? “ノクス”とか警察は言うに及ばず、アンタらだって俺達を偉い目に遭わせてくれた訳だからな」

 だからこれ以上、百鬼(なきり)組に来るのが遅れた事を(とが)めるのはやめてくれよと言わんばかりだ。

 もっとも、その言い訳があろうとなかろうと俺達にそこを更に追及する意図は最初から無かったのであるが。

「そうやって見極めた結果、こちらを選んでくれてありがとな。こう言っちまうのもあれだけど、アンタは正解を選んだ」

(こがね)さんの言う通りだ。それで、お前が百鬼組(こっち)を選んだ決め手は何だったんだ?」

「……警察の連中が、俺の仲間を実験体としている事を掴んだからだ。もっと言えば、これもインターホン越しにアンタへは言ったと思うが、小さな女の子までがその施設に運び込まれるのを見ちまってな」

 紅床(くれとこ)の両手が、湯呑を包む。

 立ち上る湯気をじっと眺める彼は、次に何から話していくか、言葉を探している様でもあった。

「……誰が敵か見極めるってさっきも言ったけど、俺はどっちも定点カメラを置いて観察しててな。透明化の能力も駆使すればそれくらいは余裕だったんだ。で、そしたら刑事と“ノクス”の連中まで出入りしている建物……研究施設らしい場所を突き詰めた」

「そこで、お前の仲間が実験体に?」

 ここまでを個人で突き止めるのだとしたら、大した執念である。それも、彼はまだ留置所を脱走してまだ日が経っていない。だというのに、そこまで知っているとなれば、短時間で相当の労力を費やしていると見て良さそうだ。

「ああ。でも、俺だって中に潜入して確認する、なんて真似は出来なかった。百鬼組(ここ)の連中みたいに、姿を隠してもそれを看破されるかもしれないって考えたら、迂闊な真似はすべきじゃないと思ってな」

「じゃあ、どうやって仲間がそこで囚われてるって判断した?」

「そりゃ、まず松ヶ崎警察署の留置所で拘留されていた筈の仲間の姿が忽然と消えていた事と、研究所を出入りする人間の会話を盗み聞きして、な」

 姿が多くの人間には見えず、感知されない事を利用して、警戒しながら施設を出入りする人間の会話を至近距離で盗み聞きするなどしていた紅床は、確信を持ったらしい。

「俺の仲間は、どう解釈したってあの研究施設で実験体としての扱いを受けている。もっと言えば、それは決して人間を扱う内容のモンじゃねえ」

「……そんなにか?」

 少し温くなったらしい緑茶に口をつけ、語る彼の態度に嘘は見受けられる気配がない。ただ、この場の誰もが彼の言葉に黙って耳を貸し、必要以外の言葉は発さない。

「ああ、そんなにだ。だから俺は百鬼組(ここ)を頼るべきだと判断した。で、この情報を引っ提げてアンタらを頼って、ついでにタレコミも入れてやろうと思った矢先、遂には小さな女の子まで運び込まれている事実まで掴んじまった訳だ」

「……それが、インターホンで俺に言った事に繋がる訳だな」

「そーゆーことだ。ってなわけで、俺はアンタらに助力を願うのよ。棟梁さん、どうだい?」

 すっかり空になった湯呑を掴んだ右手の人差し指を伸ばし、紅床が指差す先には父――百鬼 真之(さねゆき)が座して瞑目していた。

 だけど、その沈黙と瞑目も次の瞬間には止めたらしい父は、(おもむろ)に口を開く。

「……お前のその話、まずは信じよう。で、その研究施設の場所は?」



◆◇◆



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