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CORRECTORS ~生きた異物~  作者: 新楽岡高
第七章 アメリカン・ロビン=フッド㊤
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第四話 魔の力③

◆◇◆



「まさか、この女の子……」

 見る見る、見る見るうちに彼女の傷は癒えていた。

 打撲痕はその赤味が引き始め、出血は徐々に少なくなったかと思えば止まり、小さな傷口は奥から肉がせり出して塞がっていくのである。

『護! もうじきプサッフォーがそっちに到着する!現状を報告しろ!』

「父さん……悪いけど、既に車に乗っていた三人のうち、二人は死亡した。残るは小さな女の子一人だ」

 ふと、父の声が無線イヤホンから聞こえてハッとする。

 未だに目の前の出来事に視線だけは釘付けだが、思考は状況整理に割り当てて報告すれば、父の落胆した声がしていた。

『そうか……生存は女の子一人だけか。だがそれでも生きているなら良い。すぐに回収させて手当てを……』

「いや、その必要は無さそうだよ。勝手に傷口が塞がってる。凄まじい自己再生能力だ」

『自己再生? 勝手にって……』

 俺の言っている言葉が分からないと言わんばかりに当惑した気配が、声だけで伝わって来る。

 もっとも、それも無理のないだけに俺はもう一度父に伝えてやるのだった。

「その言葉通りの意味だね。こりゃ、傷の手当てなんていらない。けど、俺らで保護をする必要があるかも、知れない」

『……能力が発現したのか。そんな小さな子に』

「魔力による影響は、もうこんな所にまで出始めて居るって事なんだろうな。かといって、どうすれば止められるのかも分からないけど」

 そう言いながら、俺は女の子の身柄を保護すべく、(かが)んで抱え上げようとした、そこで丁度気付く。

 ――サイレンの音が、間近で聞こえる?

 今更ながらに気付いた事実にぞっとして、俺は赤葡萄酒色(ワインレッド)の魔力を展開させて素顔を隠せば、まさにそのタイミングで聞き覚えのある声が耳朶を打つ。

「あの(もや)……この前の奴だな! 貴様、そこで何をしている!?」

「……くそ、またやらかしたか」

 パトカーのサイレンなど、気付かない方がどうかしている。ましてや、ここまでの至近距離だ。

 幾ら男性の末期(まつご)の言葉や、少女の異常な回復能力に傾注していたとは言え、己の注意不足に嫌気がさすというものだった。

 そんな後悔をしている間にも、階級の高そうな刑事が拳銃を構えこちらに向けて告げる。

「大人しく、我々について来い。事情を聴取したいのでね」

「…………」

「返事はなしか。相変わらず寡黙だな」

 皮肉としか取れない誉め言葉を聞きながら、俺は周囲に視線を配った。

 倒木を挟んで、その向こう側にパトカーが二、三台ほど停車し、そこから降りた警察官がここへ駆けつけて俺に銃口を向けているらしい。

 背後は、逃げ場として確保されていると見て良さそうだ――と考えを纏めていた、そこで神経質そうな男の声が思考に割り込んだ。

「……また会ったな、百鬼(なきり) 護。高校生がこんな場所に居るのは、教育上宜しくないのではないかね?」

「…………」

 その声の主は、以前に俺が右腿を撃ち抜かれた際の現場にも居合わせた眼鏡の男だ。確か、榮森(えいもり)とか呼ばれていた。

 どうやら俺の素性まで知っている様だが、ノクスとの繋がりを持っている事を考えれば、こちらの素性が割れている事はそこまで不思議な話でも無かった。

「身元を割り出されても反応は無し、か。歳に見合わない随分な胆力を持っている様じゃないか」

『……護、今度は何が起きた?』

「警察だ。面倒なことになったぞ。毛利さん達も後退させないとヤバい。俺も女の子を保護して後退する……つもりだけど、人間一人抱えて逃げるのはちっと厳しいかも」

『警察が来た? “ノクス”と組んでいるらしいとは言え対応が早いな……分かった、毛利達には後退の指示を出す。護は出来る限り後退をして、プサッフォーと合流後は即時撤退だ』

「了解」

 片耳に手を当てて、父からの指示をしっかり聞き取っていると、榮森が(かん)(さわ)る声で追及の言葉を並べ立て始めていた。

「それにしても、百鬼組は随分と酷い真似をするじゃないか。こんなに木を倒して、おまけに何の罪もない一般人を巻き込んだ。それをどう償う気かね?」

「…………」

 それを“ノクス”と組んだ警察(おまえ)が言う事なのか。

 その気がなくとも両手の拳が強く握り締められて、榮森を見る目にも自然と怒気が乗った。

 だけど、それだけの怒りを抱えても尚、俺は迂闊に口を開く真似だけは避けていたのだった。

 すると、それが面白くないのか榮森は不快そうに顔を歪めて語る。

「また黙秘か。現行法律では魔法の使用に関する処罰が規定されていないからと言って、調子に乗るなよ。法の運用次第では、貴様の様な人外を拘束するのも無理ではないのだぞ?」

「ま、待って下さい榮森課長! 魔法とは何の事ですか!? それに、百鬼(なきり)って……本当にあの百鬼組が!?」

 警察と言っても、一枚岩ではないのだろう。

 吉門と呼ばれた榮森の部下が彼の話を遮って声を上げていたが、それに対する返事は酷く冷淡で不機嫌そうなものだった。

「吉門係長、私の邪魔をしないでくれ。今は君の相手をしている場合ではない。私は今、人外を相手にしているのだからね」

「じ、人外……?」

 まるで俺のことを人間として一切認めていないと言わんばかりの傲慢な物言い。吉門もその酷い表現に言葉を失っているみたいだった。

俺としても、一体何様のつもりなのかと今すぐにでも胸倉を掴んでやりたいぐらいだが、状況はそう簡単な話では無かった。

「今日こそ、逃げられると思うな。やれ、“アーベント”」

「承知しました」

 榮森の後ろに控えていた銀髪三白眼の大柄な男――“アーベント”が一歩踏み出すと同時に、俺の顔面に強烈な風圧が押し寄せる。


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