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CORRECTORS ~生きた異物~  作者: 新楽岡高
第七章 アメリカン・ロビン=フッド㊤
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第三話 罠に嵌って木立に入って➈

「問題ねえ。この程度ならどうって事ねえのよ。ひひひひひっ、不意討ちとはやってくれたな百鬼 護?」

「……!!」

 狂気に滲んだ笑みが、そこにはあった。

 青色の目は血走り、全身から殺意を漲らせて俺だけに注視していたのである。

「“レーヴェ”! 駄目だ、冷静になれ!」

「うっせえぞ“エーデルシュタイン”。俺だってやられっぱなしじゃいられねえんだよ」

「……“レーヴェ”! ああ糞っ、クリュザンテーメ! お前が百鬼 護を押さえておかないから……!」

 全く聞く耳を持つ気配の無い“レーヴェ”に、“エーデルシュタイン”は頭をボリボリと掻きながら少女の方に目を向ける。

 しかし、責められている彼女はと言えば、相変わらず乏しい表情で俺の攻撃を受け止めつつ、淡白に言った。

「私だけに責任を問うのはおかしい。油断していた“レーヴェ”も悪いし、こんな状況に振り回されている全員が悪い。敵よりもこっちの方が数は多いから、普通なら奇襲を受けたからと言ってこんな苦戦しないから」

「……“アーベント”の教育の賜物か、口だけは随分達者になったな、殺戮マシーンがっ」

 無感情、そして無神経とも言える様な彼女の発言に、余計に苛立ちを募らせる“エーデルシュタイン”は、徐々に冷静さを失いつつあるようにも見える。

 この調子で行けば、彼らは戦闘中に勝手に自壊してくれるのではないか――とすら思ったが、流石にそれは認識が甘かったらしい。

「落ち着け“エーデルシュタイン”。“クリュザンテーメ”に当たり散らしてどうする? ただでさえ、“アドラー”だって激しやすいんだ。お前まで冷静さを失ったら俺が過労死しちまう」

「……悪い、“シュピーゲル”」

 頭に血が上りかけた“エーデルシュタイン”に声をかけたのは、“シュピーゲル”だ。黒髪の彼は鉱石魔法を操り、オーバンと吉政へ巧みに牽制の攻撃を放ちながら事態の収拾を図っていたのである。

「この際だ、百鬼 護の相手は“レーヴェ”に投げろ。“クリュザンテーメ”、交戦相手を“レーヴェ”とトレードだ。下手を打ってヴィオレット・オーバンを殺すなよ」

「了解。ヴィオレット・オーバン、今度こそ貴女を拘束する」

「言ってろ! 私だって腕を上げているって事を証明してやる!」

「……所詮は素人。私の敵に……っ!?」

 水の壁がオーバンから射出される岩石の杭を受け止めるが、その中の幾つかは壁を突破して“クリュザンテーメ”の皮膚を掠める。

 その事実に、“クリュザンテーメ”が息をのんでごく小さな動揺を露わにするのを、オーバンは得意気に見ていたのだった。

「腕を磨く時間も、相手にも不足していないのだ。私がこの世界にやってきた当時みたいな、何の訓練も受けていない素人丸出しの能力者と思ったら大間違いだ」

 自信満々としたオーバンのその声を耳にしながら、俺は目の前で全身に帯電させている様に見える“レーヴェ”と対峙する。

「……さて、百鬼 護。俺に血を出させたこと、後悔させてやろうじゃねえか」

「アンタ、さっきまでとキャラ変わり過ぎだろ。そっちが素なの?」

「どっちも素だよ。血を、特に自分の血を見ると胸の奥が熱くなってさ、どうしようもなくぶっ壊したくなるんだ。特に、俺を傷つけた原因に関しては徹底的にな」

 ぐしゃり、と“レーヴェ”がその右手を握る。

 相変わらず血走ったままの目は俺を捉えて放さず、言葉だけでなく態度でも俺を完璧にロックオンしている事実をしつこいくらいに主張していた。

「……なるほど、その尋常じゃない魔力と電力はそういう事か。けど、仲間を巻き込みそうとか思わないのか?」

「へっ、今そんな事が関係あるのか?」

「おい……正気かよ」

 明らかに思考が沸騰して、目の前の敵以外のことが視界にも思考にも入っていない。ある程度の手傷を負わせられたとはいえ、厄介な敵に目を付けられたと思わない道理はなかった。

「悪い孫臏さん。俺は面倒な奴の相手に入って動けなくなる。オーバン達から応援要請が入ったらすぐ送れる様にだけはしといてくれよ」

『ああ、必要ならすぐにでも送ろう。豎子(こぞう)、くれぐれも怪我はするな』

「了解」

 その遣り取りの後、俺は無線イヤホンに向けていた意識を剥ぎ取って、目の前の脅威に集中する。

 今も絶えず、体の周囲で青白い静電気状のものを火花のように走らせては消して、“レーヴェ”は途轍もない威圧感を醸し出していたのだった。

「黒焦げだ……決めた、お前の体は全てを真っ黒にしてやるよ。その上で、炭化した体を粉々にしてやる」

「そりゃ、随分と念入りな事で。けど果たしてそれが出来るかっていうと……出来んのか?」

「余裕こいてられるのも今の内だけだ。やってみれば分かる。貴様が黒焦げになる事は確定事項だ!」

「……おおっと!?」

 “レーヴェ”が右手を突き出したその瞬間、(またた)く間もなく閃光が走る。

 魔力の動きや気配から、それを一拍早く察知していた俺は、素早く跳躍してその射線から逃れていたが、本能が打ち鳴らす警鐘は鳴りやまない。

「何つー威力だ!?」

「一丁前に俺の攻撃を見切った? ひひひひひっ、その缶の良さは褒めてやる! だが、雷の速度で迫る攻撃を、一体いつまで避けられるか!?」

 黒焦げになった木々と落ち葉を目にすれば、冷や汗がどっと浮き出るのも納得だ。

 喰らえば一溜りも無いその威力は、恐らく掠っただけでも致死性の威力を誇っている事だろう。

 でも、それで恐れて防戦一方、後退一方になるかと言えばそうでもなくて。

「偉そうな事を……ならその雷魔法は、俺の攻撃を防御できんのかよ!」

「――っ、この原住民のガキがぁぁぁぁア!!」

 的にならない様に、素早く動き回りながら放った赤葡萄酒色(ワインレッド)をした魔力の弾丸は、運よく“レーヴェ”の額に直撃する。

 それでも彼を昏倒させるにはまだ足りなくて、むしろ余計に激昂させる結果を招いてしまうのであった。

「逃げんな、逃がすと思うなァ!」

「一撃でも貰えば駄目なんだから、動き回るに決まってんだろ」

 幸いにして、ここは木々の生い茂る山の中。避雷針となる場所は幾つもあって、彼の雷魔法も制御が難しくなっている様であった。

「もう少し引き付けないと……オーバン達が放電に巻き込まれかねない、な」

「まだ逃げんのか!? あぁ!?」

「悪い悪い、もうちょっと追い掛けてくれよ。頼む」

「ふざけんじゃねえぞ! 死ね、死に晒せ!」

 強化した脚力で木々の隙間を縫うように走れば、それこそ“レーヴェ”の雷は全く当たらない。

 (たま)に高火力の攻撃を放って来たとしても、予備動作の大きさが影響して回避する事もそう難しいものではなかった。

「……この辺まで来れば、俺もアンタも味方を巻き込まずに済むとは思わねえか?」

「要らねえ気遣いをどうもありがとうよ! お礼に黒焦げじゃなくて消し炭にしてやらあ!」

「止めてくれよ、怖いな……と?」

 他の者とは離れた場所までレーヴェを誘導して、そうして仕切り直し……と思った俺は、視界の隅にてアスファルトで舗装された道路を見付ける。

 片側一車線のそれは幸いにも車通りはないものの、もしも万が一戦闘を目撃されたりしたら厄介な事この上ないだろう。

「こりゃ、安全を期してまた場所を変えるべき……っ!?」

 そう考えたのも束の間、このタイミングで最悪の事態が訪れつつあることを悟る。

 つまるところ、山林の中を九十九折(つづらおり)にグネグネと続くこの車道を登る、一台の車の姿があったのだ。

「おいおい、止めてくれっての!」

 眼下からゆっくり、ゆっくりと登って来る白色の軽自動車に、そんな俺の願いなど届く筈もない。何も知らないであろう一般人の乗る車は、そのまま道なりに俺達の居る方へ登って来るのであった。


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