第二話 散弾銃バンバン!⑪
◆◇◆
「…………」
携帯端末のアラーム機能が設定された時刻を告げ、否が応でも俺に覚醒を促す。
寝ぼけ眼を擦りながらそれを止めた俺は、もぞもぞとしながら体を動かして、起き上がろうとした――が。
「痛ぇッ!!?」
不意に右太腿を中心とした激しい痛みが全身を駆け抜け、俺は布団の中で太腿を押さえて悶絶する。するとその騒々しさのせいで、布団の上で寝ていた猫集団が起きたらしい。
もぞもぞとした猫の足が掛布団越しに俺の全身を蹂躙し、やがて遠退いていった。
「くそ……やっぱ一日寝ただけで治る訳ないわな」
一瞬にして額にジワリと浮かんだ冷や汗を拭き取りながら、激痛が収まった事を確認して仰向けになる。
「……もしかしてこれ、俺もう動けなくね? 学校どうしよう」
何だかんだで昨日は理由を付けて早退して、その後で“ノクス”と戦闘して、右太腿を撃たれて、馴染みの医者に極秘で手術して貰って、今に至る。
現状としては太腿に入っていた拳銃の弾丸は摘出済みで、残りは回復を待つのみなのだが、完全に治癒するまではまだまだ時間が掛るだろう、との事だった。
「これでもし万が一、戦闘が勃発した日には……」
俺はもう暫く、碌に戦闘もこなせない。機動力が死んでいる以上、特殊な装備を持っていない警察相手でも数が多ければ逃げ切る事は難しい。
「今日、っていうか暫くは学校休もうかなあ……」
苦労して布団から立ち上がって、左足だけでケンケンの要領で移動するにしても、跳ねて着地した際の振動で傷口は痛む。
これでは、真面に移動するだけでも難儀しまくりだ。
日常生活を送るだけでも憂鬱な気分になって、自然と溜息を漏らしたそんな時、不意に自室の部屋のドアがノックされる。
「マモル。起きたのかしら? 随分と痛そうな呻き声まで聞こえていたけれど、大丈夫?」
「ああ、プサッフォーさん……まあ平気かどうかで言えばヤバいくらい痛い、かな。動かなければどうって事もないけど」
壁に立てかけてあった松葉杖を確保して安定して立つ事に成功しながら、ドア越しにプサッフォーと会話する。
彼女は普段通りの上品さと妖艶さを兼ね備えた良く通る声に、気遣いの色を見せてくれていた。
「あらあら、やっぱり大怪我をすると大変ね。肩くらいなら貸してあげるけど?」
「……お構いなく。松葉杖もあるから、歩けなくは無いし、それにアンタの助けを借りると対価が怖い」
「そこまで警戒しなくても良いじゃないの。美人からの申し出を辞退するなんて、身が固すぎるわよ?」
「これまでのお前の行いを見てればそうもなる」
今の今まで、彼女の奔放過ぎる振る舞いのせいで生まれた被害者は数えきれない。大体の事件は未遂で終わっているものの、彼女が居る限り今後もその危険性は常に孕み続ける事となる。
「この組の治安を考えたら、アンタは追放した方が良いのかもしれないが……」
「もしそうなれば、私は折角手にしたこの能力を最大限に活用させて貰うわね? ま、ここの素晴らしい衣食住を捨てるのも惜しいけど」
「そう思うなら、今後も奔放な振る舞いは慎む様に」
組としても、彼女の様に瞬間移動の能力を持った人材を手放すのは余りにも惜しい。実際、昨日の俺も彼女のお陰で間一髪のところを逃れられたのだから。
「重々承知しているわよ。だから今はインターネットで色々と発散している訳だしね」
「……楽しんでいるみたいで何よりだ」
呆れの色を多分に含んだ乾いた笑いを漏らしながら、俺は自室のドアを開ける。
するとそこには案の定、和服が乱れて胸元も露わとなった褐色肌の美女が、妖艶な笑みを浮かべて立っていた。
「おはよう、マモル」
「……おはよう。まだ何か用でも?」
「ちょっと、貴方の父であるサネユキから伝言がね。学校をさぼる事は許さないってさ」
「この状態の息子を学校に行かせようとするとか、ウチの親は正気なのか?」
言いながら、俺はプサッフォーの胸元に吸い寄せられそうになる視線を無理矢理に足元へ落とす。
すると今度は、彼女の妖艶で蠱惑的な太腿が視界に入って、慌てて目を横に逸らしていた。
「正気も正気よ。最近、マモルは組の活動に首を突っ込み過ぎて明らかに勉強が疎かになっているから、大人しく学生の本分に集中して貰おうって事じゃないかしら?」
「こんな足じゃ自転車なんて漕げないし、登下校中“ノクス”に襲われたら一溜りも無いんだが?」
「傷がある程度治るまでは車を出すと言っていたわ。安心なさい」
「……意地でも休ませないって事かい」
観念して左肩を竦めた俺は、大人しくプサッフォーの先導に従っていた。




