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CORRECTORS ~生きた異物~  作者: 新楽岡高
第七章 アメリカン・ロビン=フッド㊤
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第二話 散弾銃バンバン!⑤

『重ねて言う、気を付けろ護』

「……了解!」

 返事と同時に、地面を蹴る。

 身を隠していた枯草と枯れ葉だらけの茂みから飛び出して、俺は赤葡萄酒色(ワインレッド)の魔力を展開させていた。

 すると、“ノクス”の連中も急速に接近してくる俺の存在に気付いたらしい。こちらを視認するなりその内の一人が牽制の魔法攻撃――炎弾を放って来る。

「新手か! ええい鬱陶しい、灰になれ!」

「うおっと、そんなモンの直撃なんざ誰が喰らうか!」

 さっと展開させた魔力の傘が、炎弾を完全に無力化し、速度を落とさずに俺は驀進(ばくしん)し続ける。

「防がれた。あの特殊な魔力は……確か、百鬼(ナキリ) (マモル)だったか。“レーヴェ”、奴が来たぞ!」

「了解……ヘンリー、ローダ。お前ら二人はあの新手を押さえろ。遠慮なくぶっ放して、殺しても構わん」

「……本当に良いんだな?」

「ああ。奴は邪魔者だ。こちらにとっても、お前達にとってもな!」

「了解した、そこまで言うなら俺らの腕前、見せてやるよ」

 ヘンリー、ローダと呼ばれた男女は自慢げに散弾銃を構えながら、俺の前に立ち塞がる。

 敵は丁度四人の頭数を、半分に分けて対応するつもりらしい。当然と言えば当然な選択であるが、そうなれば俺は苦い顔をせざるを得なかった。

「これじゃ結局、追われてる男の援護に行けねえ……!」

「何言ってんのか知らんが、お前はどうやら俺らの敵らしい。風穴開けて死んで貰うぞ!」

「言ってろ、たかだか散弾銃如きで俺が死ぬもんかよ!」

 先程、炎弾を防いで見せたように、俺はまた魔力の盾を生みだした直後、二発のやや小さな銃声が辺りに響き渡る。

 そうして放たれた銃弾は、当たり前のように俺の魔力によって弾かれるのだった。

「うお、銃弾を無効化した!? ……な、んだ、こいつは!?」

「その程度の弾丸で俺がどうにかこうにかできると思ったら大間違いって事だぜ」

「ちっ! 化け物が! この世界はどうなってやがるんだ!?」

 再装填を終えた散弾銃が二丁、再び火を噴く。

 それを、俺はしっかり足を止めた上で展開させた盾で受け止める。カンカン、と硬質な音が耳朶に触れ、同時にそれは弾丸が一発たりとも盾を貫通していない事を示していたのであった。

「散弾銃……邪魔くさい事この上ないな。面制圧力が強すぎて迂闊に動けやしないっ」

『さっきから銃声が聞こえるが……無事なんだな、護?』

「お陰様でね。けどまあ、ちょっと身動きが取れない。流石に、散弾を前にして好き勝手動けなくてさ」

 安否を気遣う父にそう応じながら、この現状を打破すべき策を探す。

現状、幾ら魔法で簡単に防御できるとは言え、散弾銃の攻撃力は人体にとって脅威でしかない。

「流石に、銃弾全部を目で追って避ける訳にもいかねえし……かと言って、体を魔力で覆って硬くしようにも」

『やってみれば良いじゃないか。身体強化だったか? 高いところから落ちても骨すら折らないくらい強靭になるのなら、銃弾だって大丈夫なはずだ』

「アホ言え、実際にテストした訳でもない事を実戦で試せるかよ! もしこれで硬さが足りなけりゃ、その瞬間に怪我するか御陀仏だよ」

 こんな事になるなら、事前に散弾銃を持った敵と戦う事を想定した訓練でもしておくべきだったかと思ったところで、後の祭りでしかない。

 そんな俺の後悔を知ってか知らずか、ヘンリーと呼ばれた髭面の男は挑発する様に言った。

「どうした? 俺様の散弾が怖くて動けねえのか? ま、そりゃあそうだよなあ、飛び散った弾丸を喰らえば、人間なら一発でも怪我に繋がるもんなあ?」

「余裕そうな態度を取るのは勝手だが、お前らだって俺に銃弾が通じないって事を分かってるんだろうな?」

「あー、全くその通りだ。って訳で、ここは一つ手を打たねえか?」

 盾の向こう側から投げ掛けられる言葉は、先程までと比べて戦意や殺意というものが減衰した様に感じられる。

 いきなりそんな平和的な提案をして来るとは思っていなかっただけに、若干驚きながら俺は同様を押し殺した声で確認していたのだった。

「……和平交渉、とでも?」

「そういう事だ。そこまで大袈裟な話でもないけどな。ここは見逃してやるからお前は大人しく後退して、俺らはあのちょこまか逃げ回る男の身柄を確保する。これなら俺らは目的を達成して、お前は無傷で後退できる。どうだ、美味しい話じゃね?」

 良い事を思いついたと言わんばかりのヘンリーの言葉だが、彼はまだ自分の勝利を疑っていないのだろう。

 或いは交渉だから強気に出ているだけなのかもしれないが、何にしろ俺はそんな提案を一笑に付していた。

「到底飲めないな。俺の目的は今も追われているあの男の身柄の保護。お前らに渡す気なんざ毛頭ない」

「ほえー、たった一人で良くもそこまで断言して見せるもんだ。その赤っぽい盾の影に隠れてなかったらさぞカッコいい台詞だろうな」

「ふん……」

 そんな彼の挑発的な言葉を笑って聞き流しながら、俺はふと今もノクスの二人に追われている男の方に少しだけ目を向ける。

 追手の数は減ったとは言え、次第に追い込まれている様子を見るに、もうあと少しで彼はノクスの手に落ちてしまう事だろう。

「時間がない、な」

 誰にも聞こえない大きさで漏れ出た独り言の後、舌打ちをした俺は盾の向こうにいるヘンリーへ応じて言う。

「……安っぽい挑発しやがって。命の危険すらあるのに、そんな言葉で俺が見栄を張るとでも思ったのかよ、髭男。だせえぞお前の髭」

「ああ!?」

 挑発に挑発で返してやれば、盾の向こう側の気配に更なる剣呑な空気が乗り始める。

「テメエ……俺の髭を嘲笑ったな? 無駄な殺生を避ける為の俺からの温情を無碍(むげ)にして……ハチの巣になる覚悟は出来てるんだろうなあ!?」

「言ってろ。お前らが幾らそれを撃ち込んだ所で、俺の盾は破れない。映画に出てくる骨董品みたいな銃で、どうにか出来ると思ってんじゃねえよ」

「骨董品、だと? 俺の銃がか? もう我慢ならねえ、ローダ、やるぞ!」

「……ええ!」

 盾の向こう側で、二人の動き出す気配を察知する。

 大方、左右から回り込んで十字砲火でもしようという腹積もりなのだろう。

 そんな事は当たり前のように読み切っていた俺としては、二つの魔弾を作り出しながらタイミングを計る。

「……三、二、一、今っ」

 両手で左右の空高くに俺が放り投げた魔力の砲丸は、まるで打ち上げ花火のように上空を舞い上がる。

 同時に俺は側面にも盾を展開させてやれば、たったそれだけでヘンリーたちの十字砲火は無力化されていたのであった。

「反則だろ、お前のその盾……!」

「武器持ってない人間に散弾銃向けるアンタらに言われたくは無いんだけどね」

 聞こえてくる音からして、俺の左右に回り込んだヘンリーとローダは再装填をしているらしい。そしてそれはつまり、俺にしてみれば好機そのもので。

「ヘンリーと、ローダとか言ったっけ? アンタらさ、俺がいつまでも守りに徹してると思ったら大間違いだよ」

「あ? ……っ、ヤベェぞローダ!」

「ヘンリー!? ……ぐ!?」

 先程、俺が空へ投げた二つの魔力の砲丸が、花火のように炸裂して、細かい礫となった魔力がヘンリーたちに降り注ぐ。

 時間にしてそれはほんの一瞬のことだ。しかし、たったそれだけの時間で俺の攻撃はヘンリー達から体力と武器を奪い去っていた。

「自慢の散弾銃、ぶっ壊れちまったな?」

「んの野郎……っ!」

 魔力の盾を解消して周囲を見回してみれば、ヘンリーとローダを中心に地面が捲れ上がった二つの円が出来上がっている。

 両者とも降り注いだ魔力の(つぶて)で体を打ち据えられ、更には散弾銃の銃身も破壊された事で明らかに戦闘不能に陥っていた。

「やってくれたな……俺達を殺すか?」

 あちこちに穴の開いた地面に倒れ伏すヘンリーとローダは、しかし尚も生存を諦めていない眼力と同時に、死を前にしても動じない胆力を見せていた。

 だけれどそんな彼らの覚悟に、俺は応えない。応えられる余裕が無いのだ。

「あー、覚悟を決めているところ悪いが、今の俺にとってはアンタらに止めを刺す時間も、捕縛する手間も惜しい。今回はこれでおさらばって事で、宜しく」

「ま、待ちやがれよテメエ!? この俺に情けを掛けるってのか!?」

「別に情けじゃねえよ。じゃあな」

「テメェええええええっ!」

 背中に縋るヘンリーの怒声を置いてけ堀にして、俺は強化した脚力で追われている男の下へ急ぐ。

 そこでは今まさに“レーヴェ”と“エーデルシュタイン”が標的の男に留めの一撃を喰らわせようとしていたところで――。

「いつまでもお前らに好き勝手をッ!」

 必要最低限の余力を除いて、俺は“ノクス”の二人の背中に、持てるだけの力を叩き込んでいたのだった。



◆◇◆


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