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CORRECTORS ~生きた異物~  作者: 新楽岡高
第七章 アメリカン・ロビン=フッド㊤
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第二話 散弾銃バンバン!⑥

◆◇◆



「うっひゃあああああああ!? 何だってんだよこりゃあ!?」

 紅床(くれとこ) 悠太は、逃げていた。それはもう、あのメロスも()くやというくらいに走っていたのである。

 違う点を挙げるとすれば、彼が自分の身の安全の為に、差し迫った脅威から必死に逃げ回っているところだろうか。

「殺すなよ、“レーヴェ”。この男は貴重な土産だ。台無しにしたら“アーベント”が怒る」

「承知している。“エーデルシュタイン”こそ、加減を怠ったら即死に繋がりかねないって事をよく考えておけ」

「ふん、それこそお互い様だな」

 雷と、炎。

 近くで聴けばかなり大き目な音が聞こえる魔法属性攻撃だが、周囲には誰もいないし、近くにある高速道路を通る車の音が上手い具合に戦闘音を掻き消していた。

「この調子で行けば、すぐにでも確保が出来そうだぜ」

「甘く見るな、奴が反撃して来ないとは言え、“アーベント”がこの国の警察組織に手渡す土産としたって事は、魔法能力を持っている。思わぬ反撃を喰らわないとも限らないんだぞ」

「思わぬ反撃って言うけどさ……所詮はただ自分の姿が消せるってだけでしょ。魔力の痕跡を追えばすぐに見つかるし……なあ?」

 “エーデルシュタイン”がそう告げた直後、紅床(くれとこ)の姿が消える。が、二人は全く焦らず、彼らの後に追従する二人の男女に目を向けた。

「おいヘンリー、またお前の出番だぜ」

「人遣いの荒い奴め……あそこだ。こちらの裏をかいて右方向に逃走中。最寄りの竹林にでも逃げ込もうって腹だろ」

「竹林か……そんな所に逃げ込まれたら面倒だ。牽制する」

 冷静に“レーヴェ”が宣言した瞬間、彼の指先から炎の弾丸が飛び出した。間を置かずに着弾したそれは折り重なるように倒れていた枯草を焼き、瞬く間に燃え広がる。

「ひっ!? 何だ、何だってんだよ!?」

「あっはっはっはっは! (まど)え惑え! そーら、動揺して透明化が解けてるぞ!」

「ふざけんな、どうして俺がこんな目に!」

 明らかに遊ばれている事を、必死に逃げながらも紅床は理解していた。しかしそれでも彼は絶望などしない。

 少しでも生き残る術を頭の中で模索して、僅かな可能性を掴み取ろうと奮闘していたのである。

「……どうやったら俺の透明化が見抜けるんだよ!? クソ、この前忍び込んだ家の奴もそうだったし……俺の特殊能力は機能しなくなっちまったのか!?」

「焦ってんなあオイ! 言っとくが何遍(なんべん)透明化しようとも無駄だぜ! こっちにはヘンリーとローダが居るからな!」

 高らかに笑う“エーデルシュタイン”が背後に目を向ければ、そこには不快そうな表情を隠しもしない髭面の男と、それに付き添う女の姿があった。

「……悪趣味な狩りだな。何で俺らがこんな不愉快な場所に駆り出されなくちゃいけない?」

「しょうがねえだろ、お前らの特殊能力が透明化の能力とか持ってる奴とも相性良いんだからさ」

「特殊能力っつ―けどよお、この能力(ちから)は一体何なんだ? 俺もローダも、ノースカロライナにいた時はこんな訳の分からねえ能力(ちから)なんざ持ってなかったぞ!?」

「そりゃ、お前らが(ひずみ)を通ってこの世界、この時代へやって来たからだろ。短時間とは言え、高濃度の魔力に曝露(ばくろ)されたんだ。そりゃ変な能力(ちから)の一つや二つくらい目覚めるさ」

 そんな事も分からないのか、と言わんばかりに露骨な嘲笑を浮かべる“エーデルシュタイン”。そんな彼に対し、ヘンリーと呼ばれた髭面の男は掴み掛らんばかりの勢いで怒鳴った。

「……やっぱ意味が分からねえな! そんな滅茶苦茶な説明で俺が納得するとでも!?」

「して貰わなきゃ困る。お前らだって、元居た世界に帰りたいんだろ? なら協力してくれねえと、こっちだってお前らに協力してやれねえじゃんか」

「ぐ……」

 筋が通らないぞ、との“エーデルシュタイン”の言葉を受けて、ヘンリーは返答に詰まりながら今も逃げ続けている男の背中を見遣る。

「あの男を、殺す訳じゃないんだな?」

「だからさっきから何度も言ってんだろ? アイツは土産だ。殺しちまったら意味がねえ。だからああやって“レーヴェ”が手間暇かけて威力調節した雷を発射してるんじゃねえか」

 ケラケラ笑いながら彼が見遣る先では、今まさに丁度レーヴェの放った雷が紅床の体を射抜く。

 一瞬の閃光の後に棒立ちとなった紅床は、そのまま無様に地面へ倒れ伏す――かと思ったが、踏み止まって尚も逃走を続けていた。

「うっえ、しぶとい奴だな。いや、レーヴェの威力調節が甘いのか? しっかりしろって」

「ならお前の炎魔法であの男を上手く捕縛できるのか? どうせ黒焦げにして終わりの癖して、大層な言葉を吐くんじゃない」

「んだとこの野郎……っと?」

 喧嘩腰になりかけたエーデルシュタインだったが、しかしそこでふと視界の隅が何かを映す。

 はっとしてそちらに目を向けてみれば、果たして急速に接近してくる一人の男の姿があった。

「新手か! ええい鬱陶しい、灰になれ!」

「うおっと、そんなモンの直撃なんざ誰が喰らうか!」

 明確な敵意を持って接近してくる新手の男は、エーデルシュタインの炎弾を完全に無力化しながら、一切速度を落とさずに迫り続けていた。

 その様子を視認した彼は、不愉快そうに舌打ちをしてから同僚に判断について相談するのであった。

「防がれたか。あの特殊な魔力は……確か、百鬼 護だったか。“レーヴェ”、奴が来たぞ!」

「了解……ヘンリー、ローダ。お前ら二人はあの新手を押さえろ。遠慮なくぶっ放して、殺しても構わん」

 剣呑なその言葉を耳にして、ヘンリーの表情が更に曇る。それから彼は念を押すように問い返すのだ。

「……本当に良いんだな?」

「ああ。奴は邪魔者だ。こちらにとっても、お前達にとってもな!」

「了解した、そこまで言うなら俺らの腕前、見せてやるよ」

 趣味の悪い狩りの現場を見せられるよりは百倍マシだと、ヘンリーらは新手の男の迎撃へ向かう為に別行動を起こす。

 その背中に一瞥をくれてやった“エーデルシュタイン”は、判断と指示を下した“レーヴェ”に懸念を表明していた。

「おい、本当にあの二人でいいのか? あんな性能の低い散弾銃しか持ってねえような連中に、百鬼(なきり) 護の相手が務まるとは思えねえんだが」

「だろうな。だが、時間稼ぎくらいにはなるさ。何せ、奴らは人殺しを嫌う傾向がある。いざとなれば容赦はないだろうが……躊躇して攻めあぐねている内にこちらを決着させる。それと、増援出現の旨を“アーベント”に連絡しておけ」

「分かった、やっときゃいいんだろ」

 背後で二丁の散弾銃が火を噴く音を耳にしながら、“レーヴェ”と“エーデルシュタイン”は紅床(くれとこ)との距離を詰めていた。

「けどよ、千里眼系能力の持ち主を別行動させたら、あのクレトコとか言う男が透明化した時に見失う可能性があるぜ?」

「……心配は無用だ。既に奴は消耗しきって、碌に能力を使う力も残されていない筈だからな。すっかりガス欠になったところを確保するまで」

 また響き渡る散弾銃の音。しかしエーデルシュタインもそちらへは一瞥もくれてやる事はなく、半信半疑の心境を吐露していたのだった。

「本当にその作戦で上手く行くんだろうなあ? もし仮に失敗すれば俺もお前も“アーベント”からどやされるぜ? それだけは勘弁だかんな」

「無論だとも。これで……終いだ!」

 もう満身創痍となって、走っているのに歩いている速度と大差のない紅床は、意識も朦朧としているらしい。

 そんな彼への、殺さない程度のトドメの一撃となるように、“レーヴェ”は雷撃を見舞おうとして――。



「いつまでもお前らに好き勝手をッ!」



「……っ!」

「ちっ、早いな!」

 背後から急速に迫る総攻撃(フルアタック)を察知しては、“レーヴェ”とは言えトドメの一撃をお預けせざるを得なかった。

「こんな所で在野の能力者を追い回して……お前らは何が目的だ?」

「……百鬼(なきり) 護。こちらの戦力予想評価を上回って来るとは……どこまでも面倒で厄介な存在だな!」

 怒涛の勢いで迫る無数の赤葡萄酒色(ワインレッド)の砲丸を躱し、”レーヴェ”が舌打ちをする。

 そしてそれに対して、乱入者もまた彼を睨み返しながら声を荒げていた。

「そんなお褒めの言葉は今どうでも良い。こんな事を仕出(しで)かしてる目的は何なんだと訊いてんだ」

 霧状となった赤葡萄酒色(ワインレッド)の魔力を周囲に滞留させながら、護は紅床(くれとこ)を背にして闘志を漲らせていた。

「……答えは無し、か。まあいいさ。俺らの街で、これ以上好き勝手出来ると思うなよノクスども?」

「ほざけ、貴様がこの場に現れた程度で、こちらの優位は(いささ)かも揺らぎはしない。たかだか旧式の銃を持っただけの二人を瞬殺したくらいで、図に乗るなガキ」

 バチリ、と人差し指と親指の間で電気を起こした“レーヴェ”は、青色の瞳に明確な殺気を乗せていたのであった。



◆◇◆


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