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CORRECTORS ~生きた異物~  作者: 新楽岡高
第七章 アメリカン・ロビン=フッド㊤
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第一話 包囲構築③

◆◇◆



「居たぞ! 確保だ! 囲め囲め!」

「相手は銃持ってんだ、迂闊に近付き過ぎるな!」

 聞こえてくる警察官の声は、切羽詰まっていた。

 だがそれも無理のない事である。何故なら、彼らが捜索して今し方発見したのは、散弾銃を持った男女二人組なのだから。

 だから彼らは最大限の警戒をしつつ、ビルとビルの隙間の狭い路地にいるらしい男女二人の確保に取り掛かろうとしているようだ。

 そんな様子を確認して、俺こと百鬼(なきり) 護は舌打ちを一つ溢していたのだった。

「……やっぱ見つかったか。俺が見付けるよりも先に!」

『若、見つかったって誰がだ?』

「例の散弾銃持った奴らだよ。俺はまだ姿見てないけど、警察が先に見付けやがった。状況によってはこのまま介入するぞ」

 魔力で作り出した足場で、宙を縦横無尽に跳び回りながらそう言ってやれば、右耳に付けた無線イヤホンから迅太郎さんの怒鳴り声がする。

『おい若! 勝手に動くなって棟梁からも釘刺されてただろうが!』

「それで傍観して、散弾銃を撃たれて死人出たらそれこそ後味最悪だろ! むやみやたらと介入する気はないから安心してくれって」

『その言葉を聞いただけで安心できるわけねえじゃんか! 棟梁、大変ですよ! 若がまた勝手に……』

 イヤホンの向こう側の騒がしさが増していくが、そんな事は今どうでも良い。

聴覚に割いていた意識の殆どを視覚と思考に振り分け直した俺は、警察に見つからない様に注意しながら騒ぎの中心へ急行して、そして。

「――うッ!?」

 出し抜けに全身を叩いた突風のせいで、姿勢が崩れる。

 そのあおりで空中の足場から転落しかけたのをどうにか堪え、踏み止まってから眼下へ目を向ければ、そこには見覚えのある顔が一つあった。

「“アーベント”……!」

『何だと? ノクスの連中がそっちに居るのか!?』

「たった一人だけな。警察に発見、包囲された二人組を庇うように強風を巻き起こして、警察の足を止めているらしい」

 その風の強さは、言わずもがな。空中に居る俺まで接近する足を止めさせられた程だ。今も吹き荒れるそれのせいで、目を開けるのだって一苦労である。

『良いか若、仮に介入できたとしてもそこへ割って入るような真似は……』

「言われなくてもやらないよ。アーベントも俺の接近には気付いてこれだけの強風を発生させてるんだろうしな。今ここで突っ込んだら、罠の一つ二つくらいはありそうだ」

 言いながら眼下の光景を眺めていると、不意に一瞬だけ“アーベント”と視線がかち合う。やはり俺の予想通りこちらの存在を察知していたらしい。

 しかし、彼は俺の相手よりも男女二人組の方に用があるみたいで、何やら話している。

『奴の……アーベントの目的は何だ?』

「今のところ、例の二人組と会話してる。距離と風のせいで内容までは聞こえてこないけど……互いに初対面っぽいのは間違い無いと思うぞ」

 ひょっとこ(・・・・・)の仮面の下で目を細め、耳を(そばだ)てて彼らの遣り取りを観察するが、それ以上の事は分からない。

「本当に嫌らしい奴だよ、“アーベント”……!」

『今増援を編成して、プサッフォーさんの能力で送る! もう少し待ってくれ』

「もう少しって……間に合う気もしないんだけど? 俺がここで待ったって状況が待ってくれる訳じゃなし」

 かと言って、父にも散々釘を刺された手前、やはり勝手な行動をする事も出来そうにはない。やっても良いが後が怖いし、また動画を撮られて晒されないとも限らないのだ。

「増援が間に合うにしろ、間に合わないにしろ、大人しく監視だけしとくけど……あ、話が纏まったみたいだな」

『纏まった? 何の話だよ?』

「“アーベント”と二人組の話。握手するみたいに手を繋いでるから、何かの契約でも成立したのかね? どっちにしろ……」

 刹那、吹き荒れていた風が唐突に止む。

 が、それですっかり風が無くなったかと言えばそうではなくて。

「“アーベント”が二名を引き連れて逃走開始。奴の風魔法で空飛んでやがる。追跡を開始する」

『……ああ、それで良い。だがそれでも距離はとれよ。余り近寄り過ぎると敵の罠にかかりかねない』

「父さん……そうは言っても距離が開き過ぎると見失いかねないぜ?」

『お前が命を失うよりはマシな筈だ。そちらを優先した結果、連中を見失ったところでお前を責めはしない』

 脈絡もなく、イヤホンから聞こえてくる声音が代わり、これまでも散々聞き慣れた父の冷静な言葉が鼓膜を揺らす。

「……で、じゃあ増援は後どれくらいでこっちに来られるんだ?」

『五分。今、方々に送っていた部隊も引き揚げさせて、プサッフォーにも協力させている。主力があちこちに散った状態だからな』

「その主力を集結させない事には、こちらへ差し向ける事も出来ない、か。けど五分は流石に限界が」

『だから無理せず、見失っても咎めはしないと言ってるんだ。分かったな?』

「……了解」

 ここでもまた釘を刺されては。いよいよこれ以上議論するのも億劫になって、俺は返事だけして意識を追跡へ集中させていた。

 西日差す松ヶ崎の街並みは空も街も赤く()けて、日陰は夜の闇へと近付いていく。

 そんな眼下の街に目もくれず、俺は“アーベント”を追跡していた。

「一々足場を作らなくて良い風魔法ってのは、便利そうだよなあ」

『何だ、お前は今の能力より風魔法の方が良かったのか?』

「……正直、俺の髪や眼が赤っぽくなったりしなけりゃ何でもいいよ。周りにバレない様に髪染めたりすんのは手間で仕方ない」

 学校の校則で髪染め諸々の規定があるのもそうだし、そうでなくとも日本だと黒髪黒目以外は割と目立つものだ。

 それも赤っぽいとなれば、金髪や茶髪よりもなお目立つ。だから、俺は特に髪の毛については細心の注意を払わなければならないのである。

『オーバンの話では、魔法が発現したら髪色などに何かしら影響が出る場合が多いって話だ。どんな能力が発現したって似たようなもんだろ』

「けどプサッフォーさんとか毛利さん達は髪とかにも何の変化もないっぽいけどな」

『それは珍しい事例なんだろ。諦めろ』

「…………」

 今更ここで文句を言ったところで無益なのは百も承知だが、それでも時折愚痴の一つや二つを吐き出したくなるのが人間だ。

 だというのに父はその不満を聞く気にもなってくれない。何という不親切さだろうか。禿げてしまえ。

『護、敵を追跡中の大事な時にそんな愚痴を呟いてる魔があると思うな。気を抜いたらお前が怪我したり、最悪死ぬかもしれないって事を意識しろ』

「意識してるからこうやって話してんのよ。無駄に力が入っても無駄にしかならないからな」

『本当に分かってるんだろうな……』

 いかにも半信半疑と言った調子の父の言葉は、明らかに溜息が混ざっている様だった。

 父が頭を抱えている様子がありありと思い浮かんで、思わず仮面の下で表情を緩めていた、そんな時。

「ん……っ!!」

『どうした?』

「敵の……殿(しんがり)って奴? それを二人確認した。確か名前は……“ゼー”と“クリュザンテーメ”、だったかな」

 宙に造り出した足場の上で立ち止まりながら、俺はせわしなく二か所に視線を行き来させる。

 一人は人家の屋根の上。もう一人はビルの屋上から。明確な敵意を向けてくる存在を前にして、俺はこれ以上の前進を妨げられていたのであった。

『敵の殿(しんがり)……もしくは伏兵のつもりだったのか。何にしろ、程良く距離を取っていた事が幸いしたな。護、撤退だ』

「撤退って、でも……」

 父のその指示の真意は良く分かる。だが、それでは今も遠退いていくアーベントと更に男女二人の追跡を断念しなければならないのだ。

 故に、俺は本当にその指示へ従うべきか逡巡を見せていたのであるが、父はそれも見透かしたみたいに言った。

『中心市街でびっくり魔法大戦争でもおっぱじめる気か? それこそ巻き込まれる人がどれだけ出るか、想像もつかないだろうが。良いから撤退だ』

「……迂回するとか、俺がこの二人を引き付けるとかで何とかならない?」

『民間人を撒き込んだり、動画を撮られる可能性を考えたらその手は無い。後退しろ』

「やっぱそうだよな」

 俺みたいな若造が思いつく事など、父だって気付いているのだろう。そしてその上で、追跡断念の判断を下したのだ。

 もはや俺に反論する余地など無く、大人しく踵を返していたのだった。



◆◇◆


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