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CORRECTORS ~生きた異物~  作者: 新楽岡高
第七章 アメリカン・ロビン=フッド㊤
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第一話 包囲構築②

◆◇◆



「だぁー、畜生! 何だってんだここは!?」

「私に言われたって知らないわよ。けど、明らかにここはノースカロライナじゃないわね。あのグニャグニャした何かを通ったらこんな所に出るなんて……」

 二人の男女は、斜陽の差し込むコンクリートジャングルの中で息を潜めていた。

 物陰から大通りを覗けば、統一された服装の男達が周囲を駆けずり回って何かを探している。

「***、*****!?」

「……*! ***!」

「アイツらは何なんだ? 保安官? だとしても見た事もない恰好に聞いた事もない言葉を喋ってるぞ」

「私だってそりゃ同じよ。それにしても、私達を狙うなんて……やっぱり弾圧者共の仲間なのかしら? だとしたら……」

「待てローダ。こいつらがあのクソ野郎どもの仲間なら有無を言わさず武器を持って来る筈だ。なのに、銃を撃つ訳でもねえ。もう少し様子を見た方が良い」

 彫の深い端整な顔立ちに皺を刻む髭面の男は、女性の肩に手を乗せて言っていた。

 しかし彼は同時に頭の中で様々な事に思考を巡らせているらしく、大通りの様子を凝視し続けている。

「確かに、ヘンリーが言う通り、連中が持ってるのは拳銃くらいっていうのは……変な話ね」

「しっかしまあ、この調子じゃもうじき見つかっちまうよな。いよいよってなったら、銃をぶっ放つしかないんだろうけど」

 肩に担いだ散弾銃に目を向ける男――ヘンリーは、ポケットの中を探って残弾を確認する。

「まさかこんな所に来る羽目になるとは思わなかったし、この程度の弾数じゃ焼け石に水だろうなあ」

「馬もなく勝手に動き回る馬車みたいな乗り物なんて……フランスやイギリスでの話は聞いてたけど、住人も明らかにアジア系、よね」

「ああ……」

 見れば見る程、ヘンリーとローダは困惑していた。この場所の光景が、人々が、空気が、何もかもが彼らの知っているものと違う。

 そのせいでどのように行動すべきであるのかも分からなくて、じりじりと二人に対する包囲網は狭められていたのであった。

 そして。

「**! ***、*****!」

「……見つかったな。こりゃいよいよだ」

「そうね。せめて少しでも多く、道連れにしてあげようかしら?」

 騒がしい足音が二人を取り囲み、迫る。

 大通りから細い路地に入り込んでその隙間を埋めるように雪崩れ込んで来る男達は、ヘンリー達へ一直線だ。

「さーて、何人ぶっ殺せるかな? この狭い路地ならある程度は、やれそうだが」

 弾丸が装填されているのは、確認済み。

 後は構えて狙いをつけ、引金を引くだけ。それだけで、距離にもよるが複数人の命を奪う事が出来る。

「……あばよ」

 これからこの狭い路地で巻き起こる凄惨な光景を思い浮かべながら、ヘンリーは引金を引こうとして――。


「「!!?」」


 唐突な強風が路地を塗り潰し、誰もの意識が一瞬だけでも逸らされる、だけではない。

「何だよこの風!?」

「……っ」

 吹き付けるその風は、一秒、二秒と経っても吹き続けて瞼を開けさせまいとしている様だった。

 それでも、瞼を閉じ続けようとする反射的本能を捻じ伏せてヘンリーが瞼を開けてみれば、そこには見慣れぬ男が一人、新たに現れていた。

「誰だ、お前!?」

「……こんばんは。私の名は“アーベント”。貴方達二人の味方です。この場から救出する為にここへ来ました」

 風が吹き荒れる中、この事態を巻き起こした中心人物と思わしき男が、泰然とした態度で宙に浮いていた。

 余裕綽々との表現がぴったりくるそんな“アーベント”の言葉を、瞠目したヘンリーは鸚鵡(おうむ)返しにする。

「俺達を、救出?」

「ええ、その為に私はここへ来たのですから。貴方だって、訊きたい事や知りたい事は沢山あるのでしょう?」

 どうですか? と確認するように微笑んだ“アーベント”が右手を差し出す。そんな彼の態度に幾重もの猜疑の色を含んだ目を向けながら、ヘンリーは黙り込む。

「おや、私をそんなに警戒なさっているので?」

「そりゃ、宙に浮いた見ず知らずの人間を見れば警戒もするだろ」

「確かにそれはそうかもしれません……が、そんな事を言ってられる状況なんでしょうかね?」

「…………」

 尚も風が吹き続ける中で、しかしヘンリー達に対する包囲はそれでも徐々に狭まり続けている。つまりこの状況のままであっても、いずれ彼らは捕まってしまう事になるのは火を見るよりも明らかだった。

「さあ、どうしますか?」

「……良いだろう、この状況ではテメエの話に乗ってやる」

「それは有難い。私もここまで出向いた価値があるというものだ。それでは一つ、お二人の名前だけお聞かせ願いたいのですが?」

 差し出された手を受け取ったヘンリーを見て、“アーベント”はにっこりと微笑んだ。

 それに対し、男は重苦しい口調で告げる。

「ヘンリーだ。ヘンリー・ベリー・ローリー。こっちは俺の妻、ローダ」

「そうか。ローリー夫妻……ではお互いの名前を名乗ったところで、脱出と行こうではないかね」

 一層強い風が、辺りを包んだ。



◆◇◆


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