表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
CORRECTORS ~生きた異物~  作者: 新楽岡高
第六章 ラスト・エンペラー
280/565

第五話 噴出する秘密⑧

◆◇◆



 居間の冷え切った空気を、驚きを含んだ父の重い声が震わせる。

「警察と、“ノクス”が手を組んだ……?」

「かもしれないって話だ。今はまだ、(こがね)さんがビル上から警察署の様子を確認してるし、追加の情報を待った方が良いと思う」

「だが、警官の中に“ノクス”の人間が紛れ込んでいた事は間違いないんだろ?」

「まあ確かにそうだよ」

 父からの念を押す言葉には、俺も否は無かった。

 しかし、だからと言って本当に警察と“ノクス”が全面的に手を結んだのかと言えば、まだ疑念は残る。

「なら護は、何を根拠に手を組んでいないって思うんだ?」

「それは……何つーか、違う気がするって言うか」

「根拠なし、か。なら手を組んでいる前提で判断した方が良いだろう」

「いや、少し待って欲しい百鬼(なきり)殿」

 父の言葉を、孫臏(そんぴん)が割って入って止める。彼は座布団の上に座っていて、煎餅の袋を開けながら言葉を続けていた。

「手を組むにしても、展開が早過ぎる。ついこの前までは手を組んでいる素振りも無かったのに、ここで全面的に協力するとは考え辛い」

「こちらに気取られないように動いていた、としたら?」

「無いな、無い。その線は無い。それが出来ているなら、わざわざ官憲の建物で騒動を起こす必要も、介入する必要も最初から無いのだ。とっととこちらを追い詰める一手を打っている筈だからな」

 そこまで言い切ってから、彼は煎餅を齧る。

 バリバリ、と乾いた音が居間に響く中で俺達の視線を集め続ける孫臏は、しかしまだまだ話すつもりでいるらしい。

「丁度そこで手を組む運びになったのか、或いは警察組織の中に“ノクス”と繋がりを持つ者がいるのか……更に穿(うが)っていくなら手を結んだように見せかけたのか」

「繋がりがあると、見せかける?」

 この段階で、どうしてその可能性が思い浮かぶのだろう。不思議に思って首を傾げた俺が口を挟めば、彼は嫌な顔を見せずに教えてくれていた。

「“ノクス”と警察が手を結んだという事実を、ここで私達に悟らせる事の意味を考えたら、自ずと浮かび上がる可能性の一つだ。考えてもみろ、この時機に私達がその事を知って、“ノクス”にどれくらい旨味はあると思う?」

「旨味……簡単にはノクスに手出しが出来なくなるとか?」

「そうだ。ついでに言えばこちらに精神的な圧力を掛けられる。仮に事実はそうでなくとも、そう見えればどちらでも良い(・・・・・・・)のだ」

 こうなっては厄介な事だと、孫臏が完全に煎餅を食べ終えてから湯呑に口をつければ、吉政もそれに同意を示していた。

「疑心、暗鬼を(しょう)ず……虚々実々。敵も随分と嫌らしい手を使って来るものじゃの」

「ふうむ、我にはちと複雑に過ぎるな」

「アンタはそうだろうな」

 脳筋のコンスタンディノスには厳しい事は最初から分かり切っていた事である。

 彼本人は俺に抗議の視線を寄越して来たものの、俺を含めた誰もが真面に取り合う事は無く、話題は進んでいく。

「ここの部分で敵の実情を読み違えると、後々になるまで引き摺る事になる。……果たして警察と“ノクス”は本当に手を結んだのか否か、仮に結んでいるとするならそれは友好的か敵対的か、その締結内容は全面的なのか部分的なのか。これらが分かるだけでも対処の方法が変わって来る。例えば双方に不信感があるのなら、切り崩すのは簡単だからな」

「そうなると、やはり話は戻って(こがね)が戻って詳細な話を聞けるまで待つしかないな。一応、今も電話自体は繋がっているんだろ? 迅太郎、現状はどうだ?」

「え、あ、はい!」

 孫臏がまとめた要点を聞いて、皆ある程度の整理は出来たのだろう。真っ先に思考の海から立ち返った父は迅太郎さんに水を向けていた。

 すると、声を掛けられた事で彼は思考から現実に引き戻されたらしい。若干慌てながら答えていた。

「今のところ目立った動きは見られないそうですが、やはり若の言う通り“ノクス”……“アーベント”の存在が確認できるみたいです」

「“アーベント”……確か、“ノクス”の中ではリーダー的な立ち位置に居ると想定される男だったな」

「ああ。私がこの世界に来る原因になった事故も、奴が一枚噛んでいた。マモルのように顔が怖い男だ」

 父は、この件に関して今の今まで現場に出向いた事が一度もない。それだけに、名前を聞いただけではアーベントという人間がどの様な人物か想像が付かないようだ。

 確認するような呟きを聞き取ったオーバンが、その確認に要らない補足までつけていた。

「ふむ……こうなると、情報収集へ本腰を入れる必要がありそうだ。特に、松ヶ崎警察署には継続的な監視が不可欠になりそうだな」

「私もそれには賛成だ。二人一組の交代制にして監視を行う必要があるのは間違い無いだろう」

「おいおい、ここに来て作業が増えんのか……仕方ねえけどさ」

 ついつい、俺の口から本音が漏れた。口からこぼれた通り、俺としてはそんな監視任務なんて退屈なものは御免被るのだ。

 だけど、この状況でいつまでもそればかりは言っていられない。下手に重要情報を手に入れられなければ、百鬼組の、そして松ヶ崎市にとってよろしくない結果を招いてしまわないとも限らないのである。

豎子(こぞう)、文句は程々にするのだぞ。間違い無くこれから状況は大きく動き出す。今までにも増して軽率な行動は慎む様にしろ」

「……分かってるよ。何で孫臏さんにまでそんな事を言われなくちゃいけねえのさ」

「ついこの間、私の諫言を無視して無理をして、迂闊にも動画を撮られた間抜けは誰だったかな」

「…………」

 その指摘に、俺は痛いところを衝かれた顔を浮かべる事しか出来なかった。



◆◇◆



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ