第五話 噴出する秘密⑤
短めです。
◆◇◆
「この忙しい時に現れて……もしも怠慢だなどと責め立てられたらどうしてくれる?」
「忙しい状況だからこそ、私はこうして貴方に声をかけてここに居るのですよ」
エレベーターの階数表示が上昇していくのを確認しながら、“アーベント”は首を巡らせて背後を見遣る。
そこには、神経質そうな顔立ちをした中年の男が腕を組んだ威圧的な態度で立っていた。
「榮森警部……この機会を無駄にはさせませんからご安心を。貴方にとっても確実に有益な光景が見られる筈です」
「だから、その有益な光景というのは一体何なのだ? 今は警察署の敷地内で身元不明の者が破壊活動に及んでいるという電話が入っているというのに……!」
「落ち着いて下さい。ほら、着きましたよ」
目的の場所に到着した事を示すエレベーターのチャイム音と同時に、その扉が開かれる。“アーベント”に促されるまま榮森もそこへ出てみれば、ビルの屋上に当たるそこは街が一望できる高さを持っていた。
「……ここから、何を見せようというのだね?」
「ふふ、ご覧下さい、ここからな松ヶ崎警察署も一望できますよ。ついでに言えば、あの中で何が起きているのかも、良く見える」
「……!」
微笑を浮かべながら“アーベント”が手で示す先には、彼の言う通り松ヶ崎警察署があった。より詳細に述べるなら、留置所内部で起きている戦闘すらも俯瞰的に眺める事が出来たのである。
「あの岩の壁の中で……奴らは何をしているのだ?」
「能力者同士の戦い、でしょうね。ほら、赤っぽい靄が動くのも見えるでしょう?」
「能力者同士の戦い……それで、これを私に見せて何とする?」
ほんの数秒、目を凝らして戦闘の様子を見下ろしていた榮森は、しかしすぐに“アーベント”へ視線を向けて問い質す。
それに対し、問い質された彼は簡潔に問い返していたのだった。
「あの能力者、欲しくは無いですか?」
「……欲しい、とはどういう意味だ?」
「貴方はこれから更に出世する事の出来る職務能力をお持ちだ。しかし、ここから飛躍をするとなれば大きな手柄は必要でしょう。それこそ、国の中枢に擦り寄れるような手柄が」
チラリと、アーベントは眼下の戦闘に目を向ける。
他方、榮森は不愉快そうに顔を歪めて言った。
「……ノンキャリアの私を愚弄しているのか?」
「いえ、ただ私は勿体ないと思うだけです。貴方ほどの人物が、キャリアとノンキャリアの壁に阻まれてしまうという事実が、何より耐え難い」
「ふん、仰々しい物言いだな。気に食わんが良いだろう、貴様のその提案には乗ってやる。出世自体は私も望むところだ」
眼下では、新たに三人の増援が現れて、一人の男を更に追い詰めていく光景が映っている。しかし、その戦場の外では遮断している壁を突破する術がまだ見つからないらしい。
榮森の部下である吉門らや、上司である信楽署長を始めとした面々が為す術もなく立っていた。
「本来の私は……警察組織のトップに立つべき器であるという事を、示してやろう」
「その通りですとも。貴方を評価しなかった連中に目に物を見せてやるべきです」
「…………」
歯の浮くような、それこそ耳障りの良い言葉を臆面もなく吐き出し続ける“アーベント”に、榮森はわざとらしく白けた溜息を吐いて見せる。
「で、貴様はこれから私に何をしろというのだ? 考えがあるからこそ、私をこんな場所にまで連れて来たのだろう?」
「御慧眼、流石です。では、少しお話させていただきましょう」
榮森からの傲慢な態度を前にして、些かの不愉快さも見せない“アーベント”は恭しく一礼して見せてから、語り出す――。
◆◇◆




