第五話 噴出する秘密③
◆◇◆
「ただいま、戻りましたよ」
「プサッフォー……随分と早いな。護たちは?」
「現着して、今頃戦闘しているわよ。現状、こんな感じね」
百鬼組、その作戦室と化した居間。
棟梁・百鬼 真之を始めとした組の面々が詰めかけているその場所に戻ったプサッフォーは、携帯端末で撮影した画像を見せる。
そこには警察署と、それに付随するように留置所が映っている。更に言えば、その留置所が破壊されている事は、よく目を引くだろう。
「これは随分と凄い事になってるじゃないか。能力者無双の状態だな」
「マモルも似たような事言ってたわ。やっぱり親子ね」
「そんな事は今どうでも良い。それより増援の準備は?」
プサッフォーの指摘を受けて少し照れくさそうに顔を逸らした真之は、そこから三榊 迅太郎の方に目を向けていた。
水を向けられた三榊からしてみればそれが面白いものに映ったらしく、込み上がる笑いを堪えながら答える。
「げ、現状としてはいつでも第二陣の派遣は可能ですよ。場所が場所だけに、銃火器の携帯は出来そうにもありませんが」
「……市街地の、それも警察署だから仕方のない話だな。メンバーは?」
「コンスタンディノスさんと毛利さん、それに連絡役として実政を予定していますが、何か意見がありましたらお願いします」
三榊から確認の言葉を受けて、真之は首を横に振る。
「この状況で切れる手札と言えばそれが限界だな。文句はない。しかしこちらの能力者が総員出撃となる以上、“ノクス”にここを襲われたら不利だ。防備は固めておけ」
「勿論です。これでむざむざこの本拠地を叩かれたら元も子もない」
「助かる。さてこれから打つべき手は……」
「それを考えるのは私の役目だな」
丁度、真之の言葉が途切れたところを引き継いだのは、孫臏だ。彼は車椅子から降りて座布団の上に座り、緑茶を一口だけ含む。
「考えられる場面は多岐にわたる。能力者の確保に失敗する、それだけでなく豎子たちが怪我や死亡する……正直、そこについては考えたくもないがな」
「……確かに考えたくもない状況だな。成功率を上げる為にも、急ぎ第二陣を出撃させろ」
「了解しました。んじゃ、プサッフォーさん頼んだぜ」
迅太郎が言いながら目を向ける先に居るのは、いう間でも無く褐色肌をした和服の美女—プサッフォーだ。
彼女はやれやれと言わんばかりに肩を竦めて見せてから、言った。
「女遣いの荒い人たちね……いいわ、頼まれました。その代わり、報酬は弾んで貰うからそのつもりで」
「分かった分かった、じゃあアンタ専用のプライベート端末買ってやるから。それで満足だろ?」
「うふふ、ありがとう。それなら私の見たい動画が見放題になるわね。契約成立よ」
妖艶に微笑んで待機していた金達の下へ向かう彼女の背中を見送ってから、迅太郎は真之に問う。
「いいんですか棟梁、あれに端末なんて与えたら変なウイルスとか拾ってきそうですけど」
「ウイルスをバスターしたりするセキュリティ保護アプリを入れるしかあるまい。それでも完璧に防げるとは思えんが」
そう言って疲れたような笑みを浮かべた真之だったが、すぐにその表情を切り替えて言った。
「話は本題に戻すぞ。今のうちに万事を想定した手を打てるだけ打つ。良いな」
「……承知した」
盆の上に乗せられた駄菓子の一つを手に取りながら、孫臏は一度深く頷いて見せていたのである。
◆◇◆
松ヶ崎警察署、そこに隣接する留置所はその破壊の度合いを深めている。
勿論、それは耐用年数を超えているとかではなく、今まさに内部で破壊かそれに準じた行為が行われているからに他ならなかった。
そして、そこから矢継ぎ早に齎される情報を耳にして、松ヶ崎警察署の署長、信楽 憲時警視はマイクへ向けてがなっていたのだった。
「中に拘留されている者を外に避難させろ! 並行して中に侵入した容疑者の確保! 警察署の施設を破壊されて逃がしましたじゃ面子丸潰れだぞ!」
『承知しました!』
「頼んだぞ……いやこの際だ、俺も現場の最前線へ」
「署長、熱くなり過ぎです! 危険ですよ!?」
「現場の人間も危険を背負ってんだ! 直接見もしないで指示なんざ飛ばせるか! 良いか、現場との連絡連携は密に! 場合によっては銃器の使用も許可を出す」
瓦礫から立ち上る粉塵が夕焼け空を暈す。
聞き慣れた筈の帰宅ラッシュの音も、今は建物の崩れる耳障りな音が加わって非日常感を増していた。
今もガラガラと音を立てて屋根の一部が崩れているのを目にして、信楽が留置所へ向かおうとするのを、傍にいた部下が必死に諫めている。
だが、それを跳ね除けて彼は先へ先へと進んでいくのだった。
「吉門係長! 中はどうなっている!?」
『拘留していた者達の避難が最優先になっている関係で、まだ何とも……少々お待ちを!』
「なら更に増援……いや、無駄か」
言いかけて、口を噤む。
何故なら留置所の廊下は、大勢が一度に通れる程には広くない。これでは幾ら人数だけ送ったところで身動きを悪くしてしまうだけだ。
「その判断は悪くない、そのまま拘留されていた者に死傷者を出さないようにしろ」
『了解……いや待って下さい、一人脱走した形跡あり! 格子が切り取られた様に破壊されています!』
「何だと!? そいつの居場所は!?」
『生憎、誰も姿を……捜索を続けます』
吉門からの余裕のない返答を耳にして、現場の空気は更に余裕をなくしていく。それだけ現場が切迫した空気の度合いを増していく中、信楽は瓦礫を踏みながら歩く速度を上げていた。
そんな時、外壁の角から飛び出す人影が一つ。
「うお、警察!?」
「お前は……」
「こいつ、この前捕まった窃盗団のリーダーです! 名前は確か、紅床 悠太!」
信楽の後について来ていた部下の一人が、出会い頭に出て来た男の顔と名前を覚えていたらしい。その言葉を耳にした途端、誰もが紅床を確保すべく身構えるのだった。
「格子を破ったのはコイツか……確保だ」
「おいおい、折角シャバへ出たってのにこんな所で捕まってられっかよ! じゃあな!」
「逃がすなぁ!」
踵を返して逃げ出す男を捕らえるべく、警官が物陰へ殺到する、が。
「……いない!?」
「どこに行きやがった!?」
「探せ探せ! ここで取り逃がせばそれこそ失態だぞ!?」
「くそっ、次から次へと面倒事がっ」
また仕事が新たに積み上げられていく様を幻視して、信楽は苦々し気に悪態を吐いていた。
◆◇◆




