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第19話 花婿と花嫁のお披露目

 長く闘病生活を続けていたウエスト家の嫡男ランドルフと、スウィフト伯爵家の令嬢ルドベキア。ウエスト家の屋敷で開かれるお披露目の宴で、二人の婚姻は貴族社会に広く認知されることになる。


 当日の招待状の作成と送付、会場の飾り付け、軽食や飲み物の事前準備、はウエスト夫人が陣頭指揮を執る。ルドベキアは、夫人の手伝いをしながらただただ黙って従う。


 ドレス商や宝石商を呼んでの衣装選びですら、細かい決めごとが多く、打ち合わせ自体も長い。

 家政を学んでいる時にも感じたことだが、ウエスト家は遊興費だけでもスウィフト家とは桁違いの金が動いている。出入りの商人も、多過ぎではなかろうか。


 代々軍の将官を務める名門伯爵家とはいっても、質実剛健の家風で派手ではないと聞かされていたが、これで慎み深いなら、普通の名門家は一体どんな暮らしをしているのか。


 騎士見習い達が彫った、猪・羊・兎・鳥などの、大きな木彫りの置物も届けられたが何コレ!? だった。武官の家の風習かもしれないが、これが婚姻の祝いの品なら、ルドベキアはいつまでたってもウエスト家には馴染めないだろう。


 宴の準備に追われていると、ランドルフの二人の姉も嫁ぎ先から姿を現した。

 初対面だというのに、ルドベキアの顔を見るなり大喜びする。


「ランドルフが元気になったのはあなたのおかげよ、ありがとう!」

「ああ! 夢が現実になったわ!!」

「こちらこそ、よろしくお願いいたします」


 ルドベキアが丁重に挨拶を返すと、姉達は歓喜の涙まで浮かべて、弟夫婦のための雑務を引き受けてくれた。

 どこか懐かしいな、と思えるような反応だった。


 今回のお披露目にはルドベキアの父親と一緒に、双子の妹達も出席が許されている。宴はウエスト家の関係者に向けたものであって、スウィフト家の関係者はついでに過ぎない。

 それでも蚊帳の外とはいえ、自らの婚姻の祝いの場に妹達を招待できることは、ルドベキアにとっては何よりの歓びだった。



 *



 そして迎えた、婚姻のお披露目の夜。


 屋敷の出入り口の周辺は、高貴な色とされる紫の長いチュールで気品のある装飾がなされ。メイン会場となる大広間は、窓や壁だけでなく、天井までリボンとベルが美しく華やかに結ばれた。

 生花・フルーツ・木の実・キャンドルの装花で採られた立食用テ-ブルには、様々な料理とデザート、果実酒、皿やグラスが所狭しと並んでいる。


 以前の内輪だけの結婚式とは違う工夫が凝らされた盛大な催しは、楽団による音楽が奏でられ、来賓からは感嘆の息が洩れるほど煌びやかな設えになっていた。


 ウエスト夫妻とランドルフと共に、ルドベキアは玄関ホールで訪れた招待ゲストを慎ましやかに迎え入れていく。一言二言軽い挨拶を交わすと、客は見まごうことなく主役の二人を値踏みした。

 

 ルドベキアのドレスは、初々しさと上品さが強調された、清楚な白に近いみずいろ。黄褐色の瞳が映える化粧と、ハーフアップに結われた亜麻色の髪にはピンクの薔薇もあしらわれた。

 隣に並ぶランドルフは黒に限りなく近いグレーの礼服で、片方の手に持つ杖が全身を支える出で立ちではあったが、やはり端正な容貌が際立って見えた。


「用意できる持参金がなく婚姻が決まらなかったスウィフト家の令嬢と、病気がちで屋敷から出られないほどだと噂されていた、ウエスト家の嫡男が結びつきましたか」

「ウエスト伯爵の弱点はご子息、という不躾な噂はこれで払拭されそうですね」

「ご令息は年齢より年若く見えるものの、健やかそうだ」


 全てのゲストの受け入れを終え、主催者であるウエスト夫妻が主役の二人を伴い大広間に登場する。

 あとはタイミングを見計い、伯爵がにこやかに、そして誇らしげに、宴の場の沈黙を破るのを待つばかりとなった。


「本日は、息子ランドルフとその妻ルドベキアの婚姻のお披露目の宴へ、ようこそおいで下さいました。初恋の令嬢でもあるルドベキアの国立学院卒業を待っての婚姻が、病気がちだった息子にとってはよほど幸甚(こうじん)の至りだったのでしょう。私は、もっと早く二人の新婚生活をスタートさせるべきでした」


 伯爵のやや砕けたウェルカムスピーチは、耳を傾けていたゲストの醸す空気を和らげた。


「7年前の王妃様が催された茶会で、ご子息が見初めた令嬢との婚姻ですか」

「それなら元気にもなる。ウエスト伯爵も、さぞかし安心されたでしょう」

 

 教会での公示をひっそり終えて、2か月の婚約期間を経た後の内々の結婚式。懇意にしている貴族家にも知らせず、手順を一切無視したウエスト家の婚姻。

 やはり嫡男の病は重いのだ、だから胸を張って公表できないのだ、との憶測からの形勢逆転だった。


 そして人々の注目を集める、主役の二人のダンスが始まった。


 楽団の奏でる音楽に合わせての、最も簡単なワルツ。

 気が遠くなるほど練習したにもかかわらず、どこか不安定で危なっかしい動きではあったが、招待ゲストは「ほう」と溜息とも取れる声を漏らしていた。


 しかしやはりというか、杖を手放すことは時期尚早だったのだ。途中で足が上手く運べなかったのか、大きく体勢を崩したランドルフに取り縋られる事態になる。


 それでもルドベキアがとっさに支えたことが、恋人同士の抱擁に変貌していた。それが他者の目には微笑ましく映ったらしく、結果的には素晴らしい成果を残すことになった。


 その後来賓を順に回るが、年若い二人には皆が好意的な反応を示し、惜しみない祝辞が返ってくる。

 ハプニングはあったもののダンスを披露したぐらいだ、これからは表舞台で二人を見かける機会も増えるはず。系譜を得ることも叶わぬ夢ではないだろう、ウエスト家は安泰なのだ、そう誰もが信じて疑わなかった。


 ただし、ルドベキアの友人ジェフ・ヘインズを従えて現れた、ガーフィールド公爵令嬢だけは、ウエスト家の印象操作などに惑わされたりはしなかった。


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