第16話 花婿との初めての出会い
今から7年前、王宮で王妃様主催の『第二王子にお友達を作りたい会』なるものが開かれた。この国の第二王子に年の近い貴族の子息・令嬢を、伯爵家以上でという条件付きで、文字通りお友達候補として呼び出したのだ。
王家や王家に仕える側近の間でも、この世代は特に潜在能力が高い貴族の子息が多いと、評価が高かったからだろう。第二王子のお友達選びと銘打っているが、将来この国を支える任に堪えうる、人材発掘を兼ねているとの噂もあった。
案外デマではないことを証明するように、本来なら招待されるはずのない、幼少より頭脳明晰だと評判の子爵家の二男も特別に招かれていた。
王宮の片隅にある王家の私的な庭園で、その茶会は開かれた。
空にはふわふわの真っ白な二つの雲が仲良く並び、その隙間からは暖かい日差しが溢れている。
招待客を歓迎するかのような、花の芳香までもがほんのりと漂う。
穏やかな午後の『第二王子にお友達を作りたい会』には、可愛らしく着飾った10歳から13歳の子息・令嬢が、庭園の一角に並べられたテーブルと椅子にお行儀よく並んで、皆が笑顔を見せていた。
12歳になる第二王子の未来の側近選びなら、年上の子息だけでも事足りるはずだ。しかし未来の妃の選考も含めて、そのような人選になったようだ。
王妃様は子供達に、何に興味があるのか、将来をどう考えているのかなど、かなり直截なことを尋ねた。
ルドベキアは自らの家が薬草を栽培しているので、「薬草に関心があるので、他国から変わった薬草を手に入れて育ててみたいです」と胸を張った。
「植物は他国の土を持ち込むことになるから、新種の草花の種や害虫が入るだろう。病害虫は特に怖い。この国の希少な植物に影響を与え、生態系が変わるのはマズイんじゃないかな」
幼少より頭脳明晰だと評判の、子爵家の二男が偉そうに述べる。
「国の機関が審査・検査・管理しているから、そう簡単に植物など持ち込めない。圧倒的に価値があるものなら、封をして導入した後に、隔離した状態で育てればいいのかもしれないが……」
これまた幼少より頭脳明晰だと評判の、侯爵家の嫡男も首を傾げて指摘する。
「スウィフト家の令嬢か。家のために尽力したいなら、何となくじゃなく、実際に他国から変わった薬草を手に入れて育てるには、どうするべきかを考えないとね」
第二王子本人までもが、女の子のふんわりした夢に対して駄目だしをした。
他の令嬢達の「立派なレディになりたい」「王妃様のように慎み深くなるにはどうすればいいですか?」には一切関心を示さなかったのにだ。
これにはムッとしたが、頭がよく回る子爵家の二男が「叔父が王宮の薬剤研究所で働いている」と言うので、ルドベキアは念のために手紙のやり取りを取り付けておいた。
ルドベキアは11歳にして、異性の外見・家柄・人当たりの良さに騙されない、人を見る目というものを持っていた。
ではそれをどうやって手にしたかというと、ただ単に本人が誠実な性格だっただけだ。堅実な努力家は、大口を叩くペラペラな人間とは決定的に話が合わない。
ただ、それだけのことだった。
その後王家の私的な庭園を散策することになり、第二王子の後を令嬢七人、伯爵家の嫡男の後を令嬢五人が追い、残りの子息六人がルドベキアを取り囲むというおかしな図式でそぞろ歩くことになってしまった。
その状況は、『第二王子にお友達を作りたい会』が終わるまで続いた。
途中、他国から献上され王妃様が特に大切にされているという、ピンクの薔薇園にも立ち寄った。そこで王妃様が「ピンクの花が、毎日開花するのが楽しみ」と仰ったのを耳にしたルドベキアは、機を逃さず自らの知識を披露した。
「夕方には萎れてしまうので、早朝に摘んだ花びらだけをジャムにするといいそうです。美味しいだけでなく、体調の乱れからくる皮膚疾患にも効果があると聞いています」
それを聞いた王妃様は大層喜ばれ、試してみたいと相好を崩された。
気をよくしていたルドベキアに、誰も見ていない隙を狙ったかのように近づいて来て「知ったかぶり女」と馬鹿にした、品位の欠片も感じられない子息がランドルフ・ウエストだ。
腹が立ったルドベキアは、その頭の悪そうな子息の足を、思い切り踏んづけてやった。
*
人生、いつ、どこで、どうなるか、分からないものだと巷では囁かれている。全くもってその通りで、ルドベキアはまさか『第二王子にお友達を作りたい会』なる珍妙な茶会で、将来の伴侶となる大口を叩くペラペラな人間と出会うとは思ってもみなかった。
そしてルドベキアとスウィフト家をズタズタに切り裂いた張本人とも出会っていたことを、この時はまだ知る由もなかった。




