13-2
聖女アプリコットと暗黒神官デイジーが死体を見ている。
「ちょっと、どういうこと? なんで2人が」
聖女アプリコットがこっちを見てくる。
「天使アイリーン、説明してくれる?」
「わかったわ、順をおって話すわね」
解説すると長いが天使アイリーンはしっかり要点をまとめて説明した、改めて思うけど天使アイリーンってめちゃくちゃ優秀だよな、居なかったらできなかったこと結構あるぞ。
「ってことは死者蘇生でなんとかなるのね?」
「なんとかなるはずだが、俺が死者蘇生使うと生前と少し違う人になるみたいなんだよね、いや、本当に少しなんだけど」
本当に少しのはず。
「……お願いできる?」
「もちろん」
俺は2人の死体に向かって手をかかげる。
死体は闇に包まれた。
相変わらず闇なんだね、なんかもう闇に安心感すら感じる。
「……ん?」
暗黒神官イリスが目をさました。
「ここは」
暗黒神官マルガリータも目をさました。
2人が周囲を見回す、聖女アプリコットを見てからこっちを見る。
「何が起きたかわかる?」
ちょっと聞いてみた。
暗黒神官イリスは答えた。
「ああ、わかる。これまでの人生のことも、死ぬ直前のことも含めて全部覚えているし、いまのボクはデイジーが生き返ったのと同じ方法で生き返ったんだろうなということもわかる、マルガリータはどう?」
「私も……同じく、ついでに言うとヒロト……様に対する忠誠心というか親愛のような何かがある、精神汚染のようなものではなく純粋に死と再生というトンネルをくぐり抜けて、その時に力強く手を握ってくれた感謝のような何か」
「でも聖女アプリコットに酷いことをした相手」
「ちょっと待って、私がされた酷いことって何?」
聖女アプリコットが若干慌てたように遮る。
よく考えたらずっとここに住んでるのに聖女アプリコットだけなんの影響も受けてないな。
ついでにいうとハイミル教の聖女っぽさも無い、改めて考えるとはじめて見た時からハイミル教っぽさを感じなかった。
じゃあなんなんだ? というとアプリコットは聖女アプリコットでも暗黒神官アプリコットでもなくただのアプリコットということなのだろうか。
本人が聖女アプリコットと呼んで欲しいというのでそう呼ぶけど。
「それはその、水晶玉で見てたんだけど、なんというかその、2人が……」
「……ん? まさか覗いてたの?」
「はい、今どうしているのかと気になって」
「本気でイヤだったら舌噛み切って死んでるから、それに夫婦なら当たり前のことだから、あなた達だって先祖のうち誰か1人がそういうことやらなかったらこの世に存在しないのよ」
「夫婦」
「そう夫婦」
「誰と?」
「彼と」
聖女アプリコットが暗黒神官イリスを見ながら親指で俺を指差してくる。
「……」
「……」
2人共じっとこっちを見てくる。
そこで天使アイリーンが手をあげて割って入ってきた。
「はいはーい、2人にこっちの事情とか活動とかそういうのを全部説明しようと思うんだけどいいかな? それにこっちで暗黒神官としてやっていくなら私が頭を下げておくべきこともいくつかあるし、ハイミル教に戻るんなら立場上頭を下げられないけど説明だけはさせて貰いたいわ」
どこから話し始めるのかと思ったら最初に聖女候補デイジーがきたところから語り始めた。
かなり話は長くなるが必要な説明だろう。
途中、人類に危害を加えるつもりはあるかという話になった時にそれは無いけどヒロトが指揮棒をふったらわからないとかこっちに丸投げしているところが結構ある。
「ゴブリンやリザードマンといった亜人達のことを、人間はどれほど迫害してきたことか……それを見たヒロト様はこの状況をなんとかするべく安全かつ清潔にな居住区を作り、人間から自衛する為に軍隊を組織して……」
そうだっけ?
話を盛っているのではないかと思ったが天使アイリーンは割と真面目な顔で話してるのでなんともいえない。
ひょっとして俺が居住区や軍隊作ったり聖女アプリコット口説いてみたりしたのを何か崇高な目的とかがあってやっているのだろうと今まで思っていた?
立ち位置的に俺が天使アイリーンの立ち位置で俺を見てたらどう見えるだろうかと考えてみると何か崇高な何かがあるように見えるんじゃないだろうか。
暗黒神官イリスと暗黒神官マルガリータは大真面目に天使アイリーンの話を聞いている。




