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斥候からはゴブリンの王によって率いられたネフロレピス軍10万の兵が進軍中だという知らせが入ってきている。
ちゃんと戦える者達は300人も居ないのだがそれだとワニの口の陣形で迎撃されてしまうので居住区のみんなや逃げてきた亜人のみんなに一緒に進軍してきてもらった。
ある程度近づいてきたら居住区のみんなや逃げてきた亜人はその場で待機することになっていた。
居住区のみんなも頑丈3は持っているし逃げてきた亜人たち全員に頑丈3が入っているメダルを渡してある。
いくら鍛えているとはいえ所詮は人間の枠に収まっている王国兵相手なら居住区のみんなでもなんとか対抗できそうである。
そのうえ逃げてきた亜人の中にはドラゴンが居た、正確には『ドラゴン』ではなく『喋りオオトカゲ』なのだがその戦闘力からドラゴン扱いされている。
本当のドラゴンの戦闘力はこんなものじゃないのだが、誰も本当のドラゴンを見たことがないのでしょうがない。
問題は聖女と神聖騎士団、ネフロレピス軍の正規軍が神聖騎士団とぶつかることになっていたが勝てるかどうかはわからない。
聖女マルガリータの魔法へは天使アイリーンにより対策できているが、聖女イリスはわからない。下手したらネフロレピス正規軍300人が全員聖女イリス1人に斬り殺されかねない。
聖女イリスの相手はゴブリンの王とリザードマンのギュネイ、スライムのトロンの3名がやることになっていた。
基本的には平地では戦わない、天然の要塞をせっせと改造して作った要塞で迎え撃つつもりで動いている。
出てくるかどうかわからないがかなり強いらしい大司祭が出てきたらその相手はヒトロがやることになっている。
ガチで勝つつもりでゴブリンの王率いるネフロレピス軍は進軍していた。
その一方で王国軍は混乱していた。
長距離の念話術士からいますぐ戻ってこいという知らせがあったと思ったら、王様もお妃様も公爵も、貴族が住む頑丈に守られた土地に住む者達はほぼ全員が正体不明の何者かに殺し尽くされたという一報が入った。
王国軍唯一のテレポート能力の持ち主がこっそり王城を覗き見して戻ってくる。
「間違いありません、王様もお妃様も殺されています。恐らくですが城壁に守られた貴族の居住区はもう殺しつされていると思われます」
王国軍司令官は苦虫を噛み潰したような顔をしている。
貴族の居住区には2000の兵士が守っている、それが襲撃有りすぐ戻れの念話からこれほど短時間で王族貴族が全員やられてしまうとは。
王族貴族の居住区の次は城下町が狙われる可能性が高い、そこには兵士たちの家族が住んでいる。
それを無視して進軍などすれば一般兵士が反乱軍になってしまう恐れすらあった。
事実上、戻るという選択肢しかない。
もっと進軍していたらネフロレピス軍が追撃してくる可能性はあったが、幸いにもかなり距離がある。
民衆とは殆ど関わりが無い王族の連中と違って城下町に居るのは一般兵士達の家族だ。
「軍の最高司令官は王様、次が国防大臣だったな」
王国軍の総司令官はそう側近に言った。
「2人とももう討ち取られている、ここからは私が臨時で最高司令管になる、これより王国に引き返すぞ」
ハイミル教も混乱していた。
王国軍からも総本山に居る念話が使えるものからも急いで帰ってきてくれという話が矢のように飛んできている。
水晶玉で遠くを見える聖女候補ノワイエの周りに聖女を始め複数人が集まっている。
その場にはそれまで姿を隠していた大司祭まできている。
大司祭は全身を覆う衣装をきており目元だけを出していた。
映しだれているのは聖女服に着替えた聖女アプリコットと暗黒神官デイジー、そしてなんの変哲もない王国兵、そしてその前に居る大量の魔王系モンスターだった。
その魔王系モンスターがあっさり倒されていく、ほんの数秒だろう。
殆どの者は聖女アプリコットか暗黒神官デイジーがなにかしたんだろうと思った。
実際に戦ったのがヒロトだとわかったのは聖女イリスと大司祭の2人だけだった。
まわりに人が居るので聖女イリスが大司祭に向かって念話を送る。
【どうしましょう?】
【ヒトロと戦って負けるつもりはありません、実際に戦うところをみてもないそう思います、しかし彼は孤児たちや非戦闘員の為に戦いました、それは紛れもない事実です。】
【つもりとかそういう話では無いのですよ、非戦闘員の話もしていない、論点をそらさないでください……大司祭様の強さは知っています、ヒロトに勝てそうだと思いますか?】
【正直厳しいでしょうね、もっともこっちに有利な状態で10戦して勝てるのは3回か4回といったところでしょう、聖女アプリコットや暗黒神官デイジー、ゴブリンの王、天使アイリーン、そして素性のわからず裏に控えている暗黒大神官という謎の存在、誰か1人でも近くに居ては私の勝率は大きく下がると思っていいでしょう】
【ボクはあれからハイミル様と降臨の間で会い、さらなる力を貰いましたが天使アイリーンと暗黒神官デイジーの2人に囲まれた際には死を覚悟しました、天使アイリーンには不意打ちで襲いかかったのに軽々と逃げられ、暗黒神官デイジーは聖女アプリコットと同じテレポートを会得してきました、暗黒神官デイジーが聖女候補から暗黒神官になってあれだけ強くなったのなら聖女アプリコット、いや暗黒神官アプリコットも強くなっているはずでず、今の戦力でネフロレピス神殿へ突撃して勝算は本当にあるんですか?】
【……】
「失礼いたします、大司祭様、聖女様」
聖女候補の1人がやってきた。
「王国軍は王都へと進撃方向を変更するとのことです、
そこで王国軍撤退の知らせが届いた。
聖女イリスが大神官を見ている。
「兵数10万のネフロレピス軍がこちらに進撃しています、少なくとも先鋒偵察隊200名程は全員『頑丈』3の技能と『格闘』3の技能を渡されています、これは不確かな情報ですが本陣には喋りオオトカゲ、通称ドラゴンの目撃例が複数あがっています」
偵察部隊扱いされてる約200名がほぼ総戦力でこいつらが負けたら残りは逃げることになっているということはまだバレてない。
訓練量も実戦経験も神聖騎士団に大きく劣っていることもまだバレてない。
「技能を与えられている……か、神聖騎士団で『頑丈』3の技能を渡せたのは何人でしたか?」
「31名です」
報告にきた聖女候補は答えた。
「偵察部隊ですら危険ですね、まもとにぶつかったら神聖騎士団が壊滅しかねない」
「語りオオトカゲも危険ですね……もしあれが本当のドラゴンだったら、撤退ですね」
神聖騎士団と聖女たちも撤退に入った。
勝ち目の無い戦いではなかった、偵察部隊だと思われていた約200名が戦力の全てである、神聖騎士団と聖女候補達で殲滅することができた。聖女イリスと聖女マルガリータと聖女ラベンダーが出ればもはや勝負にもならなかっただろう。
後ろに控えている10万は居住区の住人と逃げてきた王国軍にビビって逃げてきた亜人達である、戦意は無い。『頑丈』2か3の技能は持っているがちゃんと戦闘で使えるような技能は無いし戦う気も無いし武器も無い。
本当の戦力である200名が負けたら戦わずに逃げることが決まっていた。
このままハイミル教の軍勢が進撃して戦っていればゴブリンの王はここで討ち取れた。
喋りオオトカゲは本物のドラゴンではなく本当にただの喋るだけのオオトカゲである。体格相応には強いのでそのへんの村人が森の中でうっかり遭遇したら危険だがそれ以上の危険はない。
そのままネフロレピス神殿まで進撃できた。
神殿を捨てるわけにはいかないヒロトは神殿に陣取ることになるが神殿は防衛戦を想定して作られてない。
天使アイリーンと暗黒神官デイジーはパワーアップしている聖女イリスにはビビってて戦えそうにない。仮に戦っても聖女イリスはいい勝負をしただろう。
複数の魔法を習得してパワーアップした聖女マルガリータは聖女アプリコットと戦うことが使命だった、入念に準備を進めており負ける気はない。
悪に染まったかつての親友をあの世に送ることが最後の友情だと覚悟を決めていた。
だが聖女アプリコットは聖女マルガリータと戦う気が無かった、戦いになったら無抵抗で殺されても構わないと何処か思っていた。
『格闘』技能を数値化すれば4に届いている暗黒大神官ビクトリアの足止めを格闘家タイプの聖女ラベンダーがどこまでできたかどうかは謎だが最低でも足止めくらいはできたかもしれない。
だがそれは1対1の話、聖女ラベンダーだけではなく聖女マルガリータか聖女イリスが加勢にきたら暗黒大神官ビクトリアでも勝ち目はない。
本当に上手く進めていればネフロレピス勢力を壊滅状態に追い込んだ上で大司祭と3人の聖女の4人がかりでヒロトと戦えたかもしれない。
もっとも、無抵抗で殺されようとする聖女アプリコットをそのまま聖女マルガリータに殺させるようなことをヒロトが見逃しただろうか?
聖女イリスにビビってる天使アイリーンと暗黒神官デイジーをヒロトが叱咤激励しないのか?
暗黒大神官ビクトリアはそんなに簡単に聖女ラベンダーに負けたか?
そもそもテレポートで自由に移動できるヒロトが自慢の200人の正規軍の加勢に来てた可能性はないか?
なんの為にヒロトは王国軍の一般兵に変装していた?
なんの為にこの湿地帯にある天然の要塞を本物の要塞に作り変えていた?
テレポートで自分以外も移動させられるヒロトが暗黒大神官ビクトリアや暗黒神官デイジーや天使アイリーンを連れて本物の要塞で待受けない理由は何があるのか?
そして創造能力で構造を知らないものでも作れるヒロトが、大神官は危険だとネフロレピスから忠告されているのに創造能力で何も作らないのか?
あれだけガード・警戒とディフェンス・防御の重要性を解き、火力と機動力がいかに重要か話すヒロトが無策でカカシのように立っているだけなどということがあるだろうか?
戦っていたらどうなっていたかはともかく、ハイミル教の軍勢は撤退していった。
ネフロレピス勢力有利とはいえどちらに転んでもおかしくなかった状態、ネフロレピス・ダイスの効果はどうだったのかは不明である。
こうして撤退していったハイミル教の軍勢を待ち構えている者が居た、凄まじい気迫と殺気を放つアルトである。




