12-1
「グハッ」
派手な音を立ててハイミルが地面を転がる。
手に持っている剣は折れている、ハイミル教の神聖騎士団がきるのと同じようなプレートアーマーをきて兜を被っている。
場所はネフロレピスの宮殿、そこにつくられた決闘場である。
「良い光景だなあハイミルよ、不正の無い正当な決闘でお前に勝ったんだ……この場で俺が1級神に返り咲いても問題ない無いな」
ネフロレピスは槍についた謎の液体のようなものを払いながらかなり離れたところで佇んでいる何者かに言った。
「……はい、問題ありません。そもそも反対していたのはハイミル様だけですので」
ネフロレピスはハイミルに向き直る。
「というわけだ、わざわざ俺の宮殿にまでやってきて俺を1級神に昇格されてくれるとは、飛んで火に入る夏の虫、いや葱を背負った鴨か」
「何故だ、いつの間にこんなに力をつけた?」
「それはお前が惰眠を貪っている間、俺がきちんと修行をしていたからだ……それで、今日はいったい何のようだ? まさか本当に俺を1級神にしたくてここにきたのか?」
ネフロレピスの足元には半透明な炎のような形をしたオーラがある。
凄まじい筋肉と炎のオーラ、真っ赤な槍、しっかり鎧を着込んでいるハイミルと違って上半身は裸である。
スキンヘットの頭がきらりと光る。
「人間界のことだ、お前、自分の使いを送っただろう、なんのつもりだ? 何を目論んでいる? どうせロクなことじゃないだろう?」
別に何も目論んでないよ、俺の分身を与えた……いわば俺の分身ともいえるヒロトがあの世界でどう生きていくのか、それを見てみたかっただけだ。何も企んでない、陰謀もない。
だから安心していい……とここで言っても信用されないだろう。
当然だ、自分がそういわれても信用しないだろうとネフロレピスは思った。
「さあ、どうだろうなあ」
何かそれっぽいことを言ってみよう。何がいいだろうか。
そこでちょうどハイミルの付き人が言った。
「ネフロレピス様、あなたは確か前にあの世界って人間多すぎない? 他の知的生命体が駆逐されそうじゃん、人間の数を半分に減らしたほうがいいよということを言っていませんでしたか?」
「人間の数を半分に減らす、ふむ」
あくまで他の知的生命体を守る目的で言ったのであって人間の数を半分には主題ではないし、そもそも人間も知的生命体だ。そんなことを実行しようなどとは思わないしやるつもりもない。
……そういえばハイミルは人間をやたらと贔屓していたな。
こいつの贔屓のせいでどれだけあの世界が歪んだことか、魔王種、いわゆる魔王系モンスターの大量発生もその歪みを正そうという世界そのものの動きによるものだ。
自分のことを信仰してくれる相手を贔屓したくなる気持ちはわからないでもないし、人間界には直接行かないという自分たちで決めた規律をちゃんと守っているわけで、それについて何か言うようなことはないのだが。
……改めてハイミルは人間のことをやたらと贔屓していたな。
ハイミルが信じられないようなものを見る目でネフロレピスを見ている。
兜のせいで顔はわからないけどそんな顔をしていそうな感じがする。
「ネフロレピス、本気なのか? まさか本気で増えすぎた人間の数を半分に減らす計画を立てているのか」
そんな計画は立ててないしやるもりもないが、ちょっとからかっちゃおうかな。
「……ウフフフ」
「なに笑ってんだネフロレピス」
「お前は増えすぎていると思わないのか? 人間って」
「!?」
「さて、ハイミル殿はお帰りだ。丁重に送ってさしあげろ」
その言葉が終わると同時にハイミルとその付き人一同は、ネフロレピスの宮殿の外に居た。
ハイミルは宮殿を見ている。
しばし見つめてからおもむろに立ち上がった。
「ハイミル様、いきなり動いては怪我にさわります」
「それどころではない、何十億といる人類が半分に減る事件などただごとではない、やつは本気だ。守らねば……他のやつらは何もしないだろう、むしろ増えすぎと協力しかねない。俺しかいねえ、人類を守れるのは。こうしちゃおれん、時間がない急がねば」
窓のからネフロレピスが、庭から出ていくハイミルを油断なく見ていた。
かつてハイミルに惨敗した時にあった慢心はそこには無かった、元々最初からちゃんと戦っていればハイミルになどに惨敗するネフロレピスではない。
一度完全敗北して伸びに伸びた鼻っ柱をへし折られたことでネフロレピスは初心にかえり、基礎訓練を1からやり直したのだ。
「さてと、後はあの莫迦がヒロトに何かしないかを注意するとするか」




