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話し合いは別室に移動してすることになった。
こっちは俺とゴブリンの王の2人、向こうは風見鶏と荷物持ちしていた大男がついている。
交渉はゴブリンの王は天使アイリーンが得意なのでこの2人に任せている、聖女アプリコットも交渉は得意らしいが立場上あんまり表には出てこれられない。
ゴブリンの王と風見鶏の2人は話を詰めている。
ちょくちょく部下のゴブリンを呼んできては何が足りてないのか聞いたり、何をどれだけ用意できるのかということについて話し込んでいる。
話を聞いているとなかなか色々なものが用意できるようだ。
特に魅力的なのは奴隷、人身売買である。
人身売買や奴隷は王国では合法であるがイメージが悪いせいでやる人があまりいないらしい。
○○のところの旦那さんって奴隷商人で人身売買で生計を立ててるんだって……なんて言われるとアレなので嫁も見つからなくなるらしいし。
というわけで社会の裏みたいな商会が合法的にやっているらしい。
そもそも奴隷市場で売り買いされる人というのは限られている。
戦争の捕虜は自国兵士として勧誘されるか処刑されるかだし。
誘拐された人は身代金を取るものであって奴隷として売り買いするものじゃない、そもそも人を誘拐して奴隷にして売るのは違法でやると死刑にされてしまうから社会の裏の奴隷商人も扱わない。
ということで借金とかで奴隷になるパターンが殆どだという。
しかし借金で奴隷として売られるというパターンも限られてくる。
破産宣言すると『返せもしないやつに貸したほうに責任がある』ということで借金は帳消しになるからだ、ちなみに破産宣言すると7年間は借金できないがそれ以降はまた借金できるようになるらしい。
破産宣言されたことを理由に7年経過しているのに貸さなかったら金貸し屋が処罰されて刑務所行きになってしまうこともあるという。
金貸し屋ばかり損しているようだが金貸し屋はそれでも儲かっているらしく問題ないそうだ。
これらの制度があっても借金返済できないから奴隷になるというパターンは多いという、そもそも破産宣言して借金が無くなっても頼れる人や団体が無いと生活できないし、そもそも日常生活を送る費用を借金で賄ってた人はロクでもない人が多いそうだ。
王族や貴族に売るための奴隷というのも昔は居たらしいが最近だと没落貴族の令嬢とかがやることが殆どだという、余程の事情がなければ普通に考えてそうなるだろう。
次に多いのが元軍人。
敗戦国の上級軍人でそのままだと処刑される人がこっそり外国に高跳びして奴隷になって潜伏していたりもするらしい。
これはいわば犯罪者が潜伏するパターンだが遠い外国の犯罪者を自国で裁くということはないらしい、何もせず大人しくしているぶんには問題ないらしい。
脱走兵なんかもよく遠い外国に飛んで奴隷になって過ごすことが多いらしい。
育てられない子供を捨てるパターンもあるんじゃないかと思ったがそういう子供はハイミル教が集めているので奴隷にはならないらしい、奴隷商人に売るより遥かに高い金額でハイミル教は引き取るという。
ハイミル教の男たちは全員去勢ということでチンコを切り落としているので子供は必要なのだろう。
天使アイリーンが最近は暗黒神官デイジー以外にも助手が欲しいという話をしていた。
暗黒神官デイジーは戦闘面以外では邪魔にはならないけど役には立たないらしい。
邪魔にはならない程度には使えているんだからいいじゃんといってはみたがやっぱり人員の追加が欲しいとのこと。
「それで、そっちは何をだしてくれるじゃん?」
「どうしましょう、ヒロト様、何を渡すのが良いでしょうか」
「この辺りの貨幣の発行、偽金の淘汰、貨幣の価値の保証は俺のところでやっているからお金なら無限に作れる、それでいいんじゃなか」
「勿論それでもいいじゃん? でも神聖騎士団ってやたら強いじゃん? ここの闇の新興宗教団体じゃん? 似たような何かがあるかもしれないじゃん? 神聖騎士団の情報を暴こうとしたらぶっ殺されるじゃん? ひょっとして、何か掴んでたりとかしないじゃん?」
ぐいぐいと風見鶏が迫ってくる。
王国の通貨と亜人の通貨を両替商人に頼んで両替するととんでもなく亜人の貨幣が安く持っていかれてしまうという問題はある。
そもそもこれだけ偽金を放置してて物々交換が主流になるくらいなんだから貨幣の価値を高めて王国の貨幣と同じくらい信用のある通貨に育てるには時間がかかるだろう。
神聖騎士団の秘密はある程度掴んでいるがそれをここで全部教えてしまうとこっちのカードを全部渡すことになってしまう。
かといって貨幣だけじゃどれだけ必要になるかわからない。
むしろ向こうにとって貴重な品を売って王国の貨幣を受け取っておいたほうがいいかもしれない。
色々と総合して考えた結果こうすることにした。
「ちょっと、授与式で渡したコイン持ってきてくれる? 2枚ほど」




