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10-1

授与式からしばし時間が経過した。

天使アイリーンは相変わらず王都に行っているようだが1人ではなくデイジーを連れて歩くようになっていた。

そんなに行ってて身バレしないのかと聞いてみたら多分バレてるだろうけど接触してくる相手はなかなか居ない、むしろ接触してくるのを待っているということだった。


俺も何もしていないわけではない、創造能力で何か作ったり、とうとう100人を突破した志願兵の訓練を見学したりした。

志願兵のスライムには結局『再生能力』という技能を2与えてみた。

スライム自体が元々持っている再生能力と技能の再生能力が同時に作用して頑丈になる、頑丈技能3もすでにつけているので更に頑丈になっている。


元々の再生能力と与えた技能の再生能力が2重に作用するなら技能にして4に届く俺の魔法力も上がってよさそうだがやっぱり3までらしい。

他にも色々と制限があってやっぱり3までらしい。

とてつもなく高度な術式でできているようだが、この術を考案したやつは何もなんだろうか。

3までしか上がらないとはいえここまで簡単に能力を与えられるなら強力な軍勢を作れるな。


武器は『格闘』技能3があるので素手でいいのだが防具はあったほうがいいだろう。

創造能力で防具を作ってもいいのかもしれないが体格が1人1人違うのでいちいち採寸しなきゃいけなくて大変なので防具は各自で用意してもらうことにした。

ということにしたら家にあったフライパンを叩いて平面にして4枚くらい繋げて防具にしていた兵士が居た。

ツッコミどころは多いが一応鉄板だし何もきてないよりは防具になるだろう。

意外と丈夫で刃も通りづらいということで紙で防具を作る者もいたが紙は雨に濡れたらアウトだし、そもそもこの高温多湿の場所で紙は丁寧に扱わないとすぐにボロボロになるので防具として使うのは難しいようだ。


装備を見ていると本当に正規軍なのか疑いたくなるがここは正規軍ですと言いはることにする。


天使アイリーンから王国で不穏な動き有りという報告はくるものの、こっちは平穏な日々が続いていた。

そんなある日のことだった。


大量のロバっぽい動物にひかれた馬車? と50人程度の傭兵を引き連れて若い女が訪ねてきた。

いったい何者なのか、見た目的には普通の人間っぽいが人間が大量に住んでいる王国からここネフロレピスの神殿は遠く離れている。そうそうこれるようなところではない。

王国の領土の中でも亜人達が住むこの土地に隣接した人間の村はあるにはあるが、そこからここまではかなり遠い。

野生のモンスターや盗賊も山程居るから安全にたどり着くのも難しい、途中には村はあるが亜人達は人間に対して快く思ってないどころは見つけたら獲物として襲ってくる村も多い。


現れた女は後ろに荷物を大量に持った男達を従えている。

男達はみんな筋肉ムキムキで上半身には薄い鉄製の防具を付けている、腰には携帯しやすいサーベルのような剣をさげている。


中心に居る女はというと男物のタキシードみたいな服を着ている。

それでも肩幅や腰つき、胸などを見ればすぐに女性だとわかる。

そもそも女性用にアレンジされているようだ。

シルクハットをかぶりステッキを持っている。


怪しい。とにかく怪しい。


「はじめましてじゃん? ……わたくし、ウエザーコック、つまり風見鶏という名前で商売をやらせてもらってるじゃん? この口癖は直そうと思ってて結構直せてきてたけどそんなの吹っ飛んじゃったじゃん?」


ウエザーコックと名乗った女はそう言うと頭に被っていたシルクハットを脱いで後方に控えている男に渡して顔を晒した。

相当気合を入れてきたのかかなりの厚化粧をしている、唇なんか原色の赤でテカテカと輝いている。

この辺りが高温多湿の場所であるということとは関係なく脂汗をかいているようだった。

よく見るとステッキを持っている手、その手には手袋をしているのだが手汗で濡れているようだった。

なんとか気合を入れて笑顔を作ろうとしているようだが苦笑いになっている。


怪しい、こいつらは一体なんなんだろうか。


ちょっと横を見るとゴブリンの王が立っている、ちなみに俺はゴブリン達が作った無駄に豪華そうな椅子に座って対応している。

豪華な椅子の背後にはバカでかい旗が飾ってあり、なんかよくわからない紋章が描かれている。


ヒロト様……こやつとの対応、私がいたしましょうか?


ゴブリンの王が思念を飛ばしてきた、こいつそんなことできたのか。今まで普通に会話してたからな。


俺は任せたと思念を返した。


傍目には俺がチラッとゴブリンの王を見てゴブリンの王を俺をチラッと見ただけでだろう。

ゴブリンの王が一歩前に出る。


「では吾輩が話を聞こう、忌憚無く話してくれ」


何が吾輩だよ、名前がまだ無い猫かよと思ったがツッコミを入れたりせず様子見しておく。


「ええ、今日は、その、お日柄も良いじゃん?、ご機嫌も良さそうじゃん?」


「要件は……挨拶だけであるか?」


「今日はお互いにとって、とても利益になる話を持ってきたじゃん?」


ウエザーコックは慌ててお互いにとって利益になる話を持ってきたと言い出した、なんだろうか?


「この闇の新興宗教団体ネフロレピスは王国じゃこの世全ての悪そのものみたいな扱いされてて、接触があったというだけで処刑されるじゃん? でも皆殺しにされた100人の傭兵を指揮してたカキンってやつは、情報屋の集めたことによるとなんらかの方法で生き残ってきてて王国軍の作戦室に居るらしいじゃん? これはカキンが呼んだ娼婦が情報屋にお金で売った情報じゃん? 亜人と情報交換できる情報屋を当たってたらネフロレピスが居住区作ったり軍隊作ったりしてるって情報が出てきたじゃん?」


ウエザーコックはここで話を区切るとまず俺をチラ見してからゴブリンの王の方を見た。


「ふむふむ、続けて続けて」


ゴブリンの王がなるべく恐がらせないように言った。


「王国が公開している情報が全てだとは思ってないけど、人類を守護する決戦存在といわれている聖女が2人殺されてバカみたいな額の税金使って国葬までやってるじゃん? 傭兵集団を当たってみると送り込まれた100人は1人たりとも生死不明じゃん? みんな恐れて近寄らないじゃん? 居住区や軍隊を作るなら商売のチャンスかもしれないと思ったわけじゃん?」


「商売をしにきたということかな?」


「その通りじゃん? それに嘘か本当かはわからないけど闇の新興宗教団体ネフロレピスの教祖様は女には優しいって噂もあるじゃん? 女で社会の裏商会を代表してってなったらまあ私じゃん? きてみたら居住区には普通に亜人だけじゃなくて人間も住んでるじゃん? みんな血色良いじゃん? やたらと健康そうじゃん? 一番えらい人に会いたいから通してくださいって言ったら通してくれたけど居たのは正体不明の真紅のローブを着込んだ男と明らかに他のゴブリンとは違う、噂に聞く魔王種と呼ばれるゴブリンキングなんだろうなというのがいてビクビクじゃん? 下手したら今日が私の命日になるじゃん?」


「こちらに殺意を持って攻撃してくる相手となると話は全く違うものとなりますが、好意を持って近寄ってくる相手にまで攻撃するようなことはしません。好意を持って近寄ってもなお命を刈り取る土石流や洪水のような存在ではないのです、そうですよね」


唐突にゴブリンの王が俺に話をふってきた。


「勿論だとも、歓迎しよう」


とりあえずそう答えておく。


「本当……じゃん?」


何故かゴブリンの王ではなく俺のほうを見てウエザーコックは聞いてきた。

この様子だとゴブリンの王が安全を保証しても俺の一言で全てが覆りそうだと思ったのだろうか。


「そうだな、大した武装もしてない金目の物を大量に持った商人を盗賊が発見したらどうなると思う?」


「それは、もちろん襲われるじゃん?」


「俺は大した武装もしてない金目の物を大量に持った商人を見つけても襲わない、倫理的、道徳的に問題のある行為だからだ。襲えないのではなくあえて襲わないのだ……もっともそうやって商人を襲わないと生きていけない者も居るだろう、倫理や道徳を振りかざしてそういうことをする者を攻撃するつもりもない、そもそも俺からして一切の悪が無い潔白な存在かというとそこまで開き直ることはできない」


「……」


ウエザーコックは鳩が豆鉄砲くらっかのような顔をして呆然としている。

いったいどんな答えが返ってくると思っていたのだろうか。

社会の裏商会を代表してきたと言っていたな、それが本当なら結構ヤバイ商売もやっていそうだな、畳み掛けるか。


「社会の裏商会だったか、それを聞く限りだと表ではできない商売をしているのかな?」


「ええ、ですが、それは需要があってそれに答えているだけじゃん」


「安心していい、何をしているか問いただすつもりも倫理や道徳を振りかざして攻撃をするつもりもない、話したくないことは話さなくていい、できれば良好な関係を築きたいものだ」


「はい」


何をやっているのかは知らないが社会の裏商会はあんまり公言できるようなことはやってないようだ。

そのぶんフットワークが軽くて付き合いがあるとわかると処刑もありうる俺達にまで接触してくるようだが……というか王国じゃ付き合いがあるだけで処刑なのか、そこまで危険な存在だと認識されているということか。


そのうち討伐隊とかきそうだな。

聖女イリス辺りからもヤベーやつが居るって話はいってるだろうし、中途半端な戦力は送ってこないんじゃないかと思う。

全く姿を見せないハイミル教の大司祭、そして1級神でありネフロレピスと決闘して大勝利しているハイミルとかいういかにも危険そうなのが控えている。


「物資か……足りないものはあるかな?」


ゴブリンの王に聞いてみた、どう考えてもあるだろうけど。

居住区もだんだん人が増えてきているし。

食料は俺の創造能力でいくらでも作れるから不足してないけど食料が安定供給されているほうがいいだろうし。

テレポートで町に行って買い物するにしてもいちいち移動するの面倒だし。


そもそも人が住んでる以上、食料以外にも需要があるものはいくらでもあるだろう。

自作したり故郷の村から持ち込んだりしているようだが、両替商人は基本的に近寄ってこないからこっちから行くしか無いみたいだし、そもそも人間を真似て貨幣経済モドキをはじめてみたけど偽金が流通しまくってるので物々交換が主流だ。

そこは俺のところでなんとか偽金駆除ということで貨幣の真贋鑑定ができるものを用意して片っ端から鑑定をすすめた。


なお偽金作りをしていた村は片っ端から見つけ出して、その技術で本物の貨幣を作るようにしてもらった。

これまでは偽金作りを誰も取り締まってなかったからこれまでのことは不問、これからは本物の貨幣を作ってくれ、こっちの鑑定士が鑑定する。

というお触れをだしてみたところ集まるわ集まるわ偽金作りしてた村。

ちなみに亜人村固有の貨幣は偽金作りで人気があった、王国で流通している貨幣は偽造防止として純金や純銀や鉄が含まれる率が決まっていてちょっと鑑定すればすぐ真贋がバレてしまう。

王国の通貨は作っても使えない場合が殆ど、亜人固有の貨幣は偽金ばかりで作っても殆ど使われなくて物々交換の方が多い。


俺のところで偽金駆除と貨幣の鑑定を進めたのはこれまで偽金作りをしてきた村では渡りに船だった。


「そうですね、足りないものですか、居住区でも軍隊でもあった方がいいというものはたくさんありますね。物資があるのはありがたい限りです」


ゴブリンの王もそう言っている。


「ええ、そうじゃん、ちなみに私のことは風見鶏って呼んでくれるとわかりやすいじゃん」

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