48話 串刺し焼き
スパークの言葉に皆テーブルにつく。ヤマモトが話を促す。
「スパーク、続けてくれ」
「ああ。ここから西に馬で半日いったところの村に、巨大な燃える魔物がいるのが発見された。おそらくそいつが司令官だろう」
ヤマモトが質問する。
「なぜその魔物が司令官だと判断したんだ?」
「その燃える魔物は悪魔バーログ、魔王軍の幹部で部隊長のようなものだ。その上はもう魔王しかいないはずだからな」
「そんな遠い村にいる奴を、どうやって確認したんだ?」
「腕のいい魔法使いの力を借りて、魔物よりも高く飛べる鳥の目で偵察したんだ。念のため他の村や西側もできるだけ確認したが、そいつほどの大物はいなかった」
「なるほどな」
ヤマモトが頷く。ミハエルが別の問題を提起する。
「しかし、その悪魔が司令官としてもどうやって倒すのかな? さすがにヤマモトさんでもずっと敵の中を突破していくわけにもいかないでしょ?」
「無理だな。遠距離攻撃か、おびき寄せるか、侵入するか・・」
指を折りながら言うヤマモトに、スパークが答える。
「そんなところまで届く大砲や攻撃魔法はないぜ。おびき寄せる方法も思いつかん。防衛してりゃそのうち焦れて出てくるかも知れんが、いつになるか分からんし確実でもない」
「じゃあ侵入するしかないな」
スパークが頷く。
「ああ。その村には村人の脱出の時に使った地下通路がある。侵入するとすればそこくらいだろう。魔物が気づいてなきゃいいが」
「やってみる価値はありそうだ。狼煙もないしすぐ出れるがどうする?」
「今から出発じゃ夜になっちまう。夜に悪魔と戦うのは不利だ。明日の朝一番に出発がいいだろう。俺も一緒に行く。できるのは案内だけだがな」
「村に侵入できても、敵に囲まれてしまうのではないですか? ヤマモト様とミリアレフさんだけで大丈夫でしょうか?」
ファブレも思ったことを口にする。戦わないのに口を出すななんて言う人はいない。思いつく不安要素はできる限り潰しておくべきだ。ミリアレフが答える。
「任せて下さい! 私の魔法サンクチュアリで、私と勇者様と敵指令以外は入ってこれない結界を張れます! ただ私は結界を張っている間動けないので、勇者様お一人で戦うことになってしまいますが・・」
「それで充分だ」
「彼はどうするんだい? 留守番かな?」
ミハエルがファブレはどうする、とヤマモトに聞く。
「馬で半日かかるといったな」
「ああ、迂回する必要があるし日の出に出発しても村に到着するのは昼頃だろう」
スパークの答えにヤマモトが即断する。
「じゃあ連れて行く。戦闘中は安全な場所にいてくれ。スパーク、ファブレを頼むぞ」
「すみませんスパークさん、ご迷惑をおかけします」
ヤマモトが必要というなら当然一緒に行く。ファブレはスパークに頭を下げる。
「しゃあない、これの分の仕事はするか」
スパークが懐から逆鱗を細工した首飾りを取り出す。それを見たヤマモトが真顔で言う。
「やっぱりそれはお守りとしてファブレに渡してくれ」
「なっ、もう俺のもんだ! 誰にも渡さねえぞ!」
スパークは首飾りをしまいこんで服の上から抑える。
その他細かい点を話し合い、問題が見つからなくなったところで解散となる。
「頼みましたよ」
ミハエルが順に4人の手を取って送り出す。ミリアレフはミハエルに手を握られてコチコチだ。
スパークも準備のため別れ、自分たちのテントに戻る3人。
「いよいよ決戦ですね」
「だが魔王相手じゃない。ミリアレフも言っていたが前哨戦だな」
「やりますよ! 私とミハエル様の未来のために!」
テントに着いたところでファブレがヤマモトに聞く。
「ヤマモト様、お昼は食堂で食べたので、昼の分の召喚を使ってしまってもいいですか?」
「夕食が出せるなら構わないぞ。何に使うんだ?」
「ちょっと気になることがありまして・・実験です」
ファブレはヤマモトが話した食品サンプルのことがずっと気にかかっていた。
自分の能力は料理や食材しか出せない。だが本当にそうだろうか?
例えば貝殻や魚の骨、それに串などの食べられないものでも、ファブレが料理の一部と判断したものは問題なく召喚できている。
だから食品サンプルのように、食べられない素材を使った料理でも召喚できるのではないか? と考えたのだ。
そんなものを召喚しても使い道は思いつかない。だがやってみないと分からないこともある・・。
テーブルに皿を置き、全てが木で出来たステーキを想像して魔法を発動する。
「料理召喚!」
しかし何も出てこない。
「珍しいな。失敗か」
全く食べられないものは駄目なようだ。ではこれではどうだろう。
「料理召喚!」
皿に串焼きが出現するが、串が異常だ。
「えっ?」
「なんだこれは・・レイピアか?」
ミリアレフが驚き、ヤマモトが怪訝な表情をする。出てきたものは刺突剣、レイピアに焼かれた肉や野菜が刺さったものだった。
「うっ・・」
ファブレは貧血のように急激に体の力が抜けるのを感じる。頭がクラクラして立っていられず、床に崩れ落ちる。
「ファブレ! どうした!」
「ファブレさん!」
あわててヤマモトとミリアレフが駆け寄る。
「魔力切れのようです。これを」
ミリアレフが魔力ポーションを出し、ヤマモトがファブレにポーションをゆっくり飲ませる。
「すみません・・ヤマモト様にご迷惑を」
ポーションを飲んだファブレは渋面で起き上がる。
「うへえ、マズいです・・」
ヤマモトは安堵の表情になる。
「何事かと思ったぞ。一体どうしたんだ? あのレイピアは?」
ヤマモトの手でベッドに運ばれたファブレは、自分の思惑をヤマモトに話す。
「ほほう、よく思いついたものだ。だが倒れたのはどうしてだ?」
ミリアレフが説明する。
「特殊スキルの召喚魔法は条件通りなら魔力をほとんど使わないんです。でも今回は無理な解釈で使ったから、魔力を大量に使ったんでしょう」
「なるほどな」
ヤマモトが頷く。ファブレが頭を下げる。
「すみません、こんなことになるなんて思いませんでした」
「いやしょうがない。とても予想できることじゃない。しかしこれは・・何かの役に立つのかも知れないな」
ヤマモトが肉や野菜を外し、レイピアを持って何度か振ってみる。ごく一般的なレイピアで、戦闘にも問題なく使えそうだ。
「それと、レベルが上がったみたいです」
ファブレが報告する。
「なに? もう上がったのか?」
「おめでとうございます!」
ヤマモトが驚く。予測よりもずいぶん早い。
「おそらく、今の召喚で大量に経験値が入ったんじゃないでしょうか」
「では、これがラプターが言ってたレベルが上がりやすい方法か? 驚くことばかりだな。だが色々実験したいのは分かるが、しばらくは食事優先で頼むぞ」
「はい、もちろんです」
ファブレも自分の新しい可能性に驚いていた。だがそれで倒れてヤマモトに迷惑をかけたのでは本末転倒だ。あせることはない。まずは目の前のことからだ。
「では、夕食はどうしましょうか」